重金属フリーFT型反応の発見 二酸化炭素から人造石油合成の新展開を期待
東京大学大学院工学系研究科の野崎京子教授、パル・シュリンワツ特任助教らはホウ素を触媒に用い、 一酸化炭素をつないで炭化水素鎖(石油成分)をつくる反応が室温で進行することを発見しました。すなわち、水素とホウ素の結合をもつ物質を共存させると、炭素とホウ素の結合に一酸化炭素が連続して挿入し、炭化水素鎖(石油の成分)になることを見つけました。本研究成果は、2020 年 8 月 7 日(米国時間)に米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版で公開されました。
フィッシャー・トロプシュ法(FT法)は一酸化炭素と水素の混合物(合成ガス)から、石油代替となる合成油をつくる一連の過程で、もともとは1920年代にドイツで開発されました。合成ガスは一般に天然ガスや石炭と水から作られますが、もし再生可能エネルギーを用いて水素を容易に入手できれば、二酸化炭素と水素からも合成可能です。そこで最近、FT法は、二酸化炭素から人造石油をつくるキーテクノロジーとして注目を集めています。
FT法の触媒としては鉄やコバルトなどの重金属が用いられています。現状、高温の反応条件(最低でも200℃以上)が必要なためエネルギーの消費が多く、さらなる効率化が望まれています。今回、研究グループは重金属を一切使わないで、FT法に類似の反応が進行することを見つけました。すなわち、重金属の代わりにホウ素(石の成分)を用い、水素ではなくより強力なヒドリド還元剤を用いてではありますが、室温での炭素鎖の伸長を確認しました。全く新しい触媒設計の方向性を示せたことで、今後、持続可能なプロセス開発に向けての研究の加速が期待されます。
「私は30年以上金属の触媒作用に注目して研究してきましたが、今回の発見は非金属であるホウ素でも金属と同様に働くことを示す興味深い結果だと思います」と野崎教授は話します。「これからも化学者の武器である周期表を駆使し、元素それぞれの個性を活かして、役に立つ(かも知れない)反応の開発を目指したいですね」と続けます。
論文情報
Andreas Phanopoulos, Shrinwantu Pal, Takafumi Kawakami and Kyoko Nozaki , "Heavy Metal-Free Fischer-Tropsch Type Reaction: Sequential Homologation of Alkylborane Using a Combination of CO and Hydrides as Methylene Source ," Journal of the American Chemical Society : 2020年8月7日, doi:10.1021/jacs.0c06580 .
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