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免疫・炎症応答における転写因子IRF3の機能を解明 IRF3コンディショナルノックアウトマウスの作製

掲載日:2018年12月26日

IRF3コンディショナルノックアウトマウスの作製とインターフェロン誘導におけるIRF3の役割の解析
Irf3遺伝子を細胞種・組織特異的に欠失させるマウス(Irf3コンディショナルノックアウトマウス)を作成した(左図)。IRF3を欠失した樹状細胞では(右図;緑)、ニューキャッスル病ウイルス(NDV)や水疱性口内炎ウイルス(VSV)などの感染によるI型IFNの誘導が顕著に減弱する。
© 2018 Hideyuki Yanai.

東京大学生産技術研究所の柳井秀元特任准教授らの研究グループは、インターフェロン(IFN)調節因子3(IRF3)と呼ばれる転写調節因子が、ウイルスや細菌などの病原体感染が引き起こす自然免疫応答と呼ばれる反応に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。感染症におけるIRF3の働きについての理解が深まることが期待されます。

私たちの体にはウイルスや細菌などの病原体の感染を防ぐ自然免疫と呼ばれる仕組みが備わっており、病原体の感染を察知し、I型インターフェロン(IFN-α/β)などの液性因子を産生し、病原体を排除します。IRF3は自然免疫応答を制御する転写因子としてよく解析がなされていました。これまでの多くの研究において、IRF3の免疫応答における機能を解析するために本研究室で作製されたIrf3遺伝子欠損マウスや細胞が用いられてきましたが、このマウスは近傍のBcl2l12遺伝子も欠失していることが判明し、IRF3の正確な働きを解析する上で障害となっていました。

今回、研究グループは、全身あるいは細胞種特異的にIRF3のみを欠失させることができるIRF3コンディショナルノックアウトマウスを新規に作製しました。IRF3を欠失したマウスはI型IFNを正常に誘導することが出来ず、ウイルス感染に感受性が高いことを明らかにしました。またリポ多糖(LPS)誘発敗血症ショックのモデルにおいて、骨髄細胞中のIRF3を欠失したマウスはショックに抵抗性を示し、生存率が高いことがわかりました。これらの結果から、IRF3は抗ウイルス応答や炎症病態の調節に重要な転写因子であることが明らかとなりました。

今回作製したIRF3コンディショナルノックアウトマウスは、免疫応答におけるこの転写因子の機能の詳細をさらに明らかにしていくための有用なツールとして役立つと考えられます。

「IRF3が病原体の感染を防ぐ上で重要な働きをしていることは多くの教科書で引用されるほど知られていました」と柳井特任准教授は話します。「今回、新規に作製したコンディショナルノックアウトマウスを用いることでこの転写因子が自然免疫応答や炎症病態の制御に重要であることを明確に示せたことは大変意義深いと考えられます」と続けます。

なお、本研究はマックスプランク東京大学統合炎症学センターの米谷耕平研究員、Rudolf Grosschedl教授との共同研究によって行われました。

論文情報

Yanai H, Chiba S, Hangai S, Kometani K, Inoue A, Kimura Y, Abe T, Kiyonari H, Nishio J, Atarashi N, Mizushima Y, Negishi H, Grosschedl R, Taniguchi T., "Revisiting the role of IRF3 in inflammation and immunity by conditional and specifically targeted gene ablation in mice," Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America : 2018年4月30日, doi:10.1073/pnas.1803936115.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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