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地球を用いたニュートリノの高エネルギー領域反応断面積測定に初めて成功 巨大ニュートリノ検出機でTeV(テラ・エレクトロンボルト)領域のニュートリノの特性を探る

掲載日:2019年5月7日

地球に吸収されるニュートリノ
地球に吸収されるニュートリノ
地球内部を通過する高エネルギーニュートリノの一部は、地球内部で弱い相互作用により荷電レプトンに変わったのち、数km~数十km以内の物質中にエネルギーを全て落として消滅します。
© 2019 Kotoyo Hoshina.

東京大学地震研究所の高エネルギー素粒子地球物理学研究センターが参加する国際ニュートリノ実験IceCubeでは、エネルギーが10の12乗エレクトロンボルト(TeV、テラエレクトロンボルト)を超えるニュートリノの反応断面積の測定に成功しました。

ニュートリノは質量が大変軽く、電荷を持たず、物質とは弱い相互作用でのみ反応するという特殊な粒子であるため、その詳細を研究することは素粒子理論の発展に大きく寄与すると考えられています。しかし、反応断面積が小さいため、特に加速器による大量生成が不可能な高エネルギー領域において、研究に必要な計測数を得るには巨大な検出器が必要でした。

IceCubeグループでは、南極点の氷河中1km立方にわたって光検出器を配置し、大気中で宇宙線が空気分子と衝突することにより生成される高エネルギーの大気ニュートリノや宇宙から飛来する宇宙ニュートリノの事象のうち、地球を通過してくるニュートリノ事象を1年間で1万イベント以上観測することに成功しました。これらのニュートリノの地球による吸収頻度を測定することで、従来の加速器で生成されたニュートリノの測定より10倍以上高いエネルギーでの反応断面積測定が可能になりました。

ニュートリノの反応断面積については、標準理論を超える枠組みでのモデルがいくつか提唱されていますが、これらはさらに高エネルギーの領域(PeV、10の15乗エレクトロンボルト以上)で非線形に反応断面積が増加することが予想されています。今回使用された1年分のデータでは、高エネルギー領域での非線形の増加傾向は見られず、結果は標準理論をサポートするものでした。今後IceCubeや現在計画中の大型ニュートリノ検出器でさらに高エネルギーのニュートリノ事象の測定が増えるにつれ、これらのモデルひいては標準理論の検証も可能になると期待できます。

高エネルギー素粒子地球物理学研究センターでは、この結果をふまえて1PeV以下の反応断面積を標準理論内のモデルに限定し、逆に地球内部の密度分布を測定する計画が進んでいます。

「ニュートリノは素粒子の中でも非常にユニークな性質を持っていますが、反応断面積が小さいため、測定には常に困難が付きまといます」と保科琴代特任研究員は話します。「2011年にIceCubeが完成したことにより、現状加速器では生成できないエネルギー領域でのニュートリノを観測することができるようになりました。ニュートリノの性質を探るほかにも、宇宙から飛来するニュートリノを観測して高エネルギー宇宙線の起源を探ったり、強い透過力を利用して地球内部の密度構造を測定したりと、素粒子・天文・地球物理などのさまざまな分野での成果が期待されています。現在、IceCubeのアップグレードのほかにも、世界各地で第二、第三の巨大ニュートリノ検出器の建設が計画されています。これらの新しい検出器と特殊な粒子ニュートリノの組み合わせが、今後数十年にわたって新しい世界を見せ続けてくれることを想像するとワクワクします」。

論文情報

IceCube Collaboration, "Measurement of the multi-TeV neutrino cross section with IceCube using Earth absorption ," Nature [vol. 551] (2017) [596-600]: 2017年11月22日, doi:10.1038/nature24459.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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