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2019年 五神総長年頭挨拶

掲載日:2019年1月1日

新年あけましておめでとうございます。

平成から新元号の時代へ遷ろうとしています。東京大学の140年の歴史において平成の30年間は、とりわけ大きな変化を遂げたと感じています。平成3年に大学院重点化が始まり、平成16年に東京大学は国立大学法人に移行しました。財政的な問題など乗り越えるべき課題は多々あるものの、国立大学はより大きな運営の自由度を得ました。私が総長に就任した平成27年度からは、「運営から経営へ」をキャッチフレーズに、安定的かつ自律的な経営基盤の構築を目指しています。平成29年には、指定国立大学法人となり、「地球と人類社会の未来に貢献する『知の協創の世界拠点』の形成」という目標の実現に向けて、自立性の高い大学運営を行っています。

新時代がどのようなものになるか、皆様も様々な夢、期待や不安をお持ちのことと思います。2019年の年頭にあたり、東京大学の現状と新時代への展望を、皆様と共有させていただきます。

グローバルな人材育成

いくつかの国では内向きな主張で支持を得るリーダーや政党が登場するなど、反グローバル化の動きが懸念されます。しかし、テクノロジーの進歩がもたらした人々のつながりは、市民レベルからのグローバル化を強く促しています。政治、経済のみならず、文化面でも活発に交流することが、対立を乗り越え、地球全体を調和的、持続的に発展させていくために不可欠です。東京大学は、アカデミアの立場からこの動きをリードし、よりよい社会の実現に貢献したいと考えます。
東京大学における国際化は着実に進んでいます。「世界的視野をもった市民的エリート」の養成を目指す東京大学では、現在約4000名の留学生が学んでいます。また、様々な海外プログラムを活用して、入学直後から学生が海外に長期滞在をする機会も増えています。海外渡航を経験した学生数は、この3年間で倍増しました。学術研究における海外との連携もますます盛んになっており、本学と共著論文のある海外の研究機関の数は4280に上ります。グローバル化する世界の中で、このような人的・学術的なネットワークはますます重要性を増しています。欧米の大学とは異なる視座から国際社会と協調しリーダーシップをとることができる東京大学の実力を、さらに伸ばしていく所存です。

学融合による知の創造

東京大学は自然科学系の競争力はもちろんですが、人文学・社会科学の分野においても、日本社会の特徴を踏まえた独自性のある研究・教育実績を上げており、国内外の注目を集めています。このような総合大学としての強みを最大限に活かしてより良い未来社会を目指すにあたり、東京大学は、国際連合の掲げる「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(以下、SDGs)に着目しました。SDGsの方向性は、地球と人類社会の未来に貢献することを目指す本学の使命とも合致しています。SDGsを実現するためには分野を超えた連携が必要です。既存の研究科や研究所を横断し、学融合による知の創造を目指す組織として、3つの国際高等研究所と18の連携研究機構が設立されています。また、人材育成の取り組みとしては、自ら考え、新しい知を生み出し、人類社会のために知を積極的に活用できる「知のプロフェッショナル」を育成するために、国際卓越大学院(WINGS)の創設を進めています。日本の強みをさらに強化して新たな学問領域を切り開く研究教育の拠点を整備し、大学院修士課程・博士課程を通じた一貫教育プログラムを設定することにより、世界中から優秀な人材が集う魅力的な環境を作り上げていきます。

社会と協働する大学

東京大学は、単に人材養成の場ではなく、社会と協働する大学を目指しています。社会連携は、教育と研究に続く本学の第3の使命として国内のみならず国外に対してもその重要性がますます増加しています。サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合したスマート社会の実現は、国内外の都市と地方、男女、世代などあらゆる違いを乗り越え、平和的に共存する「インクルーシブな社会」の構築につながります。たとえば、IT技術の発達により、介護離職を余儀なくされる人材が自宅でもその能力を十分に発揮して働くことができるようになるでしょう。サイバーとフィジカルの連結、文理を行き来する知と人材、それらを生み出す場のすべてが揃っている東京大学は、このような未来社会構築のけん引役になり得ます。私が総長に就任してから約4年の間に、本郷キャンパスの周りには東大発ベンチャーの集積が進んでおり、この5年間で東京大学関連ベンチャーの累積企業数は倍増して現在330社を超えています。また、スマート社会の構築を担う人材の育成を目指すAI関係の講座も大きく拡大しています。平成26年のスタート時は講座の受講生は100名ほどだったのが、現在の受講者は社会人も含め1,000名を超えています。

私の総長就任以来、東京大学の行動指針「東京大学ビジョン2020」を全構成員が共有し、総力を挙げてその実現を目指しています。今年は、猪年ならではのスピード感をもって「知の協創の世界拠点」としての価値創造に邁進して行きたいと思います。今後とも、東京大学へのご理解とご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。
 

2019年1月1日
東京大学総長
五神 真

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東京大学総長 五神 真
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