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SDGsシンポジウム2022を開催 「エネルギーシステムから考える持続可能な開発目標間の関係」

掲載日:2022年4月12日

東京大学は、2022年3月29日(火)にシュプリンガー・ネイチャーと共同で、エネルギーシステムと持続可能な開発目標(SDGs)の接点に関するシンポジウムを開催しました。両者が共催するSDGsシンポジウムは、2019年、2021年に続き今回が3回目となり、各シンポジウムではそれぞれ違ったSDGをテーマに掲げてきました。今回のシンポジウムでは、SDG7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」に焦点を当てて、他SDGsとの関わりについて議論しました。安価なエネルギーへの安全で信頼できるアクセスは、世界のほぼすべての国において政策の優先事項であるものの、エネルギーシステムは、持続可能性に直接的・間接的にさまざまな影響を及ぼす可能性があり、更にその影響は、人為的な気候変動、生態系の劣化、人間の健康や福祉への影響に至るまで多岐にわたります。そのため、多くの学者、政策立案者、実務者が、クリーンで安価なエネルギーシステムへの移行が、世界的に持続可能な開発を達成するための優先分野であると認識しています。このような高い問題認識を反映し、SDGsシンポジウム2022では、エネルギーシステムと持続可能性の接点におけるさまざまな側面に関する専門家が集まりました。講演者を選ぶにあたっては、専門分野、所属、性別、キャリアの段階などの観点から、包摂性を実現するために特別な配慮がなされました。

本シンポジウムは、世界各国から400名余りが視聴し、うち85%が日本から、15%が海外からでした。学術・研究機関、学生、若手研究者の参加が多く、加えて、政府機関、民間企業、市民団体などからの参加もあり、学際的なイベントとなりました。 



東京大学の藤井輝夫総長と松橋隆治教授による開会の辞は、今回シンポジウムの方向性を示すものでした。藤井総長は、サステイナビリティの実現にはエネルギーシステムの変革が重要であることを強調し、次に、東京大学の指針であるUTokyo Compassをはじめとする大学の取り組みにも触れながら、大学の役割として、基礎研究と教育に加えて、多様なステークホルダーとの密接な連携による解決策のコ・デザインや、若手研究者らが持つ潜在的な創造力を引き出し、技術的、社会的、文化的イノベーションとグローバルな議論への参加促進の必要性についても指摘しました。続いて、松橋教授は、東京大学で行われている協調的なエネルギー研究の取り組みを紹介し、持続可能なエネルギー供給を実現するための重要なトレードオフについて説明しました。

最初の基調講演では、東京大学の瀬川浩司教授が、次世代太陽光発電の現状と、低炭素社会の実現に向けた貢献について述べました。瀬川教授は、これらのイノベーションの工学的・技術的側面に焦点を当てるだけでなく、その普及を促進するためには民間セクターとの協働が重要であることを説明しました。続いて、シュプリンガー・ネイチャーのエド・ガーストナー博士は、特にSDG7の観点から、SDGs達成に向けたインパクトのある研究や十分な情報に基づく解決策の創出のためには、研究者、大学、出版社の間で協調して行動することが必要であると述べました。中でも強調した点は、従来のインパクト指標を超えること、標準的でない卓越した研究論文を支持すること、若手研究者の教育を多様化することの必要性でした。 

パネルプレゼンテーションでは、5人のプレゼンターが、持続可能な社会のためのエネルギーシステムの変革に関連するさまざまな重要課題について議論しました。まず、九州大学の林灯教授が、再生可能エネルギーと水素エネルギーの組み合わせがSDG7達成にどのように貢献できるかを強調しました。続いて、東京大学の杉山昌広准教授が、脱炭素社会への移行を支えるエネルギーシナリオについて説明しました。京都大学のグレゴリー・トレンチャー准教授は、異なるステークホルダーの視点からエネルギー関連研究をいかに充実させ、社会的インパクトを生み出すことができるかを批判的に論じました。東京大学のムハンマッド・アズィッズ准教授は、破壊的な社会発展のために、グリーンで持続可能なエネルギー変換をいかに促進するかという点に焦点を当てました。最後に、Nature Energyのニッキー・ディーン編集長は、エネルギーとSDGsの接点でインパクトのある研究を支援する方法について、Nature系列の出版物の中でインパクトのあるジャーナルの多くのアプローチを紹介しました。

SDG7が非常に広範な分野を対象とするため、基調講演とパネルプレゼンテーションでは、エネルギーシステムと持続可能性の接点について、異なる学問的視野からテーマ別に焦点が当てられました。このため、エネルギーシステムとサステイナビリティの接点における主要な研究課題や優先課題についての概観を得ることができました。各発表では、テーマが明確であることに加え、エネルギーシステムの持続可能性を高めるために、エネルギー関連研究の社会的インパクトをいかに高めるか、また、学生や若手研究者がこの種の研究や関連するグローバルな議論にいかに参加し、刺激を与えるかについて触れました。



パネルディスカッションでは、東京大学の高村ゆかり教授がモデレーターを務め、エネルギーシステムとSDGsの接点として、(a)エネルギーと持続可能性の接点における研究の社会的インパクトの向上、(b)疎外されたステークホルダーの声を取り入れ、南の発展途上国におけるインパクトの高い研究能力の向上、(c)社会的インパクトの高いエネルギー研究に対する学生や若手研究者の関与の促進、ということが主なトピックとして議論されました。そして最後、シュプリンガー・ネイチャーのアントワーン・ブーケ社長による今回シンポジウムの主要なテーマを総括した閉会の辞によって締めくくられました。

学生や若手研究者に対する具体的なアドバイスとして、(1)多様な分野の専門家との謙虚な対話を通じて、エネルギーシステムと持続可能性の接点における有望な研究分野を特定する、(2)短期的に流行する研究ではなく、長期的に情熱を傾けられる研究への従事、(3)モノディシプリナリー研究とマルチディシプリナリー研究のバランス、(4)長期的な視野で一流の研究者とのコラボレーションに戦略的に取り組む、(5)特定のタイプの研究を行う能力やキャパシティについての現実的な考察、(6)一過性の研究ではなく、ミックスメソッドを用いて実際の疑問を研究対象とする、(7) 研究者アイデンティティを明確に確立する、などが挙げられました。さらに、若手研究者がインパクトのあるエネルギー研究に従事しやすくするための資金を作る必要性や、持続可能性に関連する難しい問題に批判的に取り組むことができる教育カリキュラムや大学院研究の複合的な展望を促進する必要性についても提案されました。

なお、本シンポジウムに先立ち、藤井総長とガーストナー博士は、今回シンポジウムの主要トピックス、社会的インパクトの創出、学生や若手研究者の参加促進などをテーマに特別対談を行いました。対談記事では、UTokyo Compassや藤井総長自身の研究プロジェクトである大規模海洋観測にも言及しており、また、シュプリンガー・ネイチャーが開発した学術文献データベースであるDimensionsによれば、2021年に出版されたSDGsに関する論文数は、日本では東京大学が最も多かったと記載しています。同対談記事の英語版はThe Sourceに、日本語版はNature Digestに掲載されました。

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