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起業家の原点は東大在学中のサークル活動 | Entrepreneurs 02

掲載日:2021年1月29日

このシリーズでは、東京大学の起業支援プログラムや学術成果を活用する起業家たちを紹介していきます。東京大学は日本のイノベーションエコシステムの拡大を担っています。

Onedot株式会社(本社:東京都港区)は、中国で育児動画メディア「Babily (ベイビリー、中国名:貝貝粒)」を展開するスタートアップ企業です。設立からわずか4年で、子育てなど家庭生活の様々な場面に役立つコンテンツを充実させ、フォロワーは実に1500万人を数える大手の育児動画メディアに成長させています。2020年には、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大I P C:東京大学のベンチャー創出機能強化のため、2016年に大学100%出資で設立)が運用するファンドから出資を受け、東大によるベンチャー育成事業の出資先としても注目を集めています。

Onedotと、その100%子会社である万粒(上海)を率いるのは代表取締役CEOの鳥巣知得さん。東大法学部在学中に起業したり、卒業前に外資系ベンチャー企業の社員になったりと異色の経歴を持っていますが、ビジネスの原点は、在学中に参加したサークルでした。

大学1年でビジネスの面白さを知り、3年で会社設立

育児メディアBabilyのスマホ画面

鳥巣さんは2002年、「官僚か政治家になる」ことを目指して東大に入学しました。「真面目に授業に出る学生ではなかった」といい、大学1年の時にビジネスや政策立案コンテストを企画・開催するサークルと出会い、ビジネスの面白さに目覚めました。「現代的にマネジメントされたサークルで、企業から協賛を集めたりしました。コンテストの運営を通して、(自分は)ビジネスの方が社会貢献できると思いました」

転機が訪れたのは、大学3年の時。サークルの先輩に導かれる形で、株式会社オルトを学生3人で設立することに。個人情報保護法への対応に苦慮する中小企業向けにソリューションを提供する会社で、法学部学生の知見を活用する絶好のチャンスでした。会社設立に必要だった資本金1000万円はすべてアルバイトで調達したそうです。

今でこそ、在学中に起業する大学生は増えていますが、2000年代前半、起業する学生は稀でした。不安はなかったのでしょうか。「人と違うことをやることに対してリスクを感じにくいのかもしれません。『自分の頭で考えて、やりたいことをやりなさい』と両親から言われてきた。それが影響したのだと思います 」と、先駆者らしい答えが返ってきました。

Message

起業した会社を2006年に離れ、革新的な音楽配信サービスを提供する外資系ベンチャー企業に幹部として入社。転身を決断したのは、もともとデジタル音楽ビジネスに興味があったからでした。東大法学部で学びながら幹部として働くのは通常、至難の技ですが、鳥巣さんは時間の効率的活用に長けていたようです。「試験期間には1週間ほど休暇を取り、徹夜で勉強して試験を受けた後、会社の会議に出るような生活をしていました」

しかし、突然、試練が訪れます。同社の日米の親会社が買収され、会社が解散することになったのです。「自分が事業をリードしてきたとの自負もありましたので、(残った)コアメンバーで同じ事業をやるために新しい会社を創ろうと動きました。でも、資金や設備の問題があり、もがいた末に断念しました」

在学中に起業して以来、最大の挫折でした。

コンサルティング会社勤務からベンチャー企業CEO へ

Onedot最高管理責任者(CAO)の薛竹さん

「経営者的な目線で仕事をしたい」と考え、2010年にボストンコンサルティンググループ(BCG)に転職し、インターネット関連の事業開発やグローバル戦略に携わりました。その中で出会ったのが、ユニ・チャーム株式会社との事業立ち上げ案件でした。ユニ・チャーム社長の「中国で育児関連の事業を行いたい」というベンチャー精神に感銘を受け、2017年2月、同社とBCGの子会社、BCG Digital Venturesが出資したOnedotの代表取締役CEOに就任しました。

中国で事業を行うには優秀な中国人幹部の参画は不可欠ですが、頼もしいパートナーに出会いました。株式会社リクルート(現リクルートホールディングス)で新規事業立ち上げや人事などに約10年間携わり、2019年7月にOnedotに最高管理責任者(CAO)として参画した薛竹さんです。「2016年に鳥巣さんに初めて会い、すぐに意気投合しました。彼の事業にかける思いや、実現したいことに共感しました」と振り返る薛竹さん。彼女は当時、「別の世界も見たい。(将来的には)新規事業を立ち上げたい」とリクルートを退社し、日本の専門商社の上海支社副総経理として経営管理全般を担当していました。「私の方から、すぐさま『ぜひ使ってください』と提案した」そうです。

薛竹さんは、夫が東京に単身赴任中で、親族の協力を得ながら2人の子どもを育てるワーキングマザー。新型コロナウイルス感染症の蔓延もあり、「変化が速い、驚きの毎日」に臨機応変に対応しながら、新規顧客ターゲットの開拓などチャレンジを続けています。また、文化や価値観の違う日中スタッフ間の架け橋の役割を担い、「コロナ後」を見据えて鳥巣さんを支えています。

Onedotは、その利便性の良さから今後の利用急増が見込まれるミニプログラム(アプリ内で動くアプリ)の技術開発など、事業展開に必要な資金も調達しています。2020年5月、同社は東大I P Cからの5億円を含む、総額10.5億円の第三者割当増資を受けました。ユニ・チャームの連結子会社から外れ、ベンチャー企業としての成長を目指します。鳥巣さんは、「Babilyを中国ナンバーワンの育児メディアに成長させるのが当面の目標です。今後、オンラインのニーズは高まります。教育や美容・健康、介護など、日本の強みである領域で、中国の消費者の役に立てる事業を展開する予定です」と、意気込みを語っています。

 

Onedot Inc.

2016年12月、ユニ・チャーム株式会社とBCG Digital Venturesが共同で設立。翌年2月、育児動画サービス「Babily」を中国版Twitter「Weibo(微博)」で開始し、翌月にはOnedotの100%子会社として上海万粒網絡科技有限公司を設立した。広告収入によってマネタイズする育児動画サービスのほか、日本企業向けに中国でのデジタル事業の立ち上げや戦略構築、既存事業の総合マーケティングを支援する。2020年5月には、10.5億円の第三者割当増資を行い、東大IPC、日本生命保険相互会社、住友商事株式会社、ボストンコンサルティンググループ、みずほキャピタル株式会社などから資金を調達。上海と東京のオフィスに約50人のスタッフを抱える。

取材日: 2020年9月15日
取材・文/森由美子
トップ写真/Kohei Hara

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