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独裁者は不在? ATP合成酵素の新たな回転メカニズムが明らかに

掲載日:2011年11月30日

バクテリアから人類まで全ての生物は、アデノシン三リン酸(Adenosine triphosphate:ATP)という燃料を利用して生命活動を行っています。体内でATPを作り出すATP合成酵素は、細胞に埋め込まれた直径10 nmの分子モーター。ほぼ100%のエネルギー変換効率を誇り、回転トルクや回転数において自動車エンジンをはるかに凌ぐ、世界最小・最高性能の「命のエンジン」です。

 

ATP合成酵素は、細胞膜に埋め込まれたFoと細胞膜内にあるF1の2つのモーターで構成される。細胞膜の両側で水素イオンの濃度差が生じると、水素イオンの流入が起こり、Foモーターが時計回りに回転する。通常F1モーターは反時計回りに回りながらATPを分解してエネルギーを取り出す役割をするが、Foモーターが時計回りに回転すると、F1モーターも時計回りに回転しATP合成を行う。? Ryota Iino 2011

実は、分子モーターが一方向に回転する仕組みは解明されていません。東京大学大学院工学系研究科 野地博行教授らは、高速原子間力顕微鏡を開発して分子モーターの動画撮影に世界で初めて成功し、従来の説を覆す回転メカニズムを発見しました。

ATP合成酵素の中にあるF1モーターは、α3β3リングとγ回転子から構成されています(図)。γの回転に伴い3つのβの構造変化が順番に起こってATPを合成することがわかっています。これまで、γの回転が3つのβを順番に動かしてATPを合成・分解するという「γ独裁者モデル」が通説でした。

ところが今回、回転子γを取り除いても、βの構造変化が順番を守って一定の方向で起こる様子が観測されました。研究グループは、リングに一方向回転の仕組みが組み込まれていること、γとの相互作用は高効率を実現するために必要であることを発見し、「リングと回転子の共同作業によるATP合成」という新しい仕組みを提唱しました。?

今回の成果は、生命の解明だけでなく、実社会への応用にも繋がります。研究グループの飯野亮太講師は、回転子γをカーボンナノチューブ等に置き換えたハイブリッドナノマシンの創生や、光に反応してATPを合成するという人工光合成の可能性を指摘しています。

プレスリリース本文へのリンク

※ 動画はこちらで見られます。 (βは構造変形によって開閉します。開いているβは位置が高くなることを利用して、一番高い位置にあるβを追ったのがこの動画です。)
動画1
動画2

論文情報

Takayuki Uchihashi, Ryota Iino, Toshio Ando, Hiroyuki Noji, “High-Speed Atomic Force Microscopy Reveals Rotary Catalysis of Rotorless F1-ATPase”
Science Vol. 333 no. 6043. doi: 10.1126/science.1205510
論文へのリンク

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