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アメリカ西海岸への出張で感じたこと |  総長室だより~思いを伝える生声コラム~第14回

掲載日:2018年10月1日

東京大学第30代総長 五神 真

アメリカ西海岸への出張で感じたこと


 8月中旬、アメリカ西海岸に出張し、シリコンバレーのグーグル本社などを訪問しました。今、経済価値の中心はモノから知・情報へと急激にシフトしていますが、その現場を実感する良い機会になりました。

 グーグル本社は、ロゴマークと同じ「カラフル」な色調に彩られ、大学のキャンパスのような自由で開放的な雰囲気に満ちていました。さまざまな国籍の人々が楽しそうにいきいきと働いていることが印象的で、会社というよりも、世界中から極めて優秀な若者が一堂に会する一つのコミュニティのような空間です。トイレもいわゆる多目的型で、ダイバーシティを尊重しそれを活力の源泉にしていることが良くわかりました。東京大学のキャンパス整備にも参考になりそうです。

 私は1990 年代初めにアメリカ・ニュージャージー州マレーヒルのベル研究所で研究する機会がありました。当時、ベル研は世界の知が集結するところで、その場に立った高揚感はいまでも覚えています。当時感じた新しいサイエンスや技術を生み出す大きなエネルギーと似た感覚を、今回の訪問でも感じました。世界中から野心を持った優秀な若者が集まるグーグルは、企業というよりも、現代における一つの現象だと感じました。ただ当時のベル研と比べて大きく違うのは、日本人が少ないこと。これには少しショックを受けました。日本の科学技術力、経済力はまだ世界有数です。それに比して、「グーグル村」にいる日本人は例外的に少ないように感じたのです。良い悪い、好き嫌いは別として、もっと日本人がいるべきではないかと思いました。東大OBでグーグルに10年以上勤めている方2名と会いましたが、彼らも同じことを感じているようです。今、世界は大きく変わりつつあります。東京大学で育った知のプロフェッショナルには、その変化の現場で存分に活躍してほしいと願っています。

 各国からさまざまな背景をもつ優秀で野心的な人々が集う中で、切磋琢磨しながら自分なりの仕事をきちんとこなし、仲間から尊重される存在になる。そのためには、他者と比べた自分の特長を自覚し、それを相手にきちんと伝える力が必要です。そのような能力を磨くには、言語や文化の違いを越え、共感を得る力を鍛えておく必要があります。その第一歩は、まず外を知ることです。食わず嫌いで世界を避けてしまうのはもったいない。学生のうちは多少失敗しても大きなダメージにはなりません。ぜひ交換留学や体験活動プログラムを積極的に活用して、異なる他者と関わる体験をしてほしいと思います。教職員の皆さんにもぜひ、学生の皆さんの背中を押していただきたいと思います。

 

「学内広報」1514号(2018年9月21日)掲載

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