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変化を先導する大学の役割 |  総長室だより~思いを伝える生声コラム~第23回

掲載日:2019年7月3日

東京大学第30代総長 五神 真

変化を先導する大学の役割

 

 あらゆる情報がデジタルデータとしてサイバー空間に蓄積され続け、AI技術などを駆使してそれらを活用する“デジタル革新”はますます勢いを増しています。その中で、人類が長年培ってきた、社会・経済・政治の基盤が揺らいでいると感じます。資本主義も例外ではありません。グローバル化が加速し、市場原理主義の行き過ぎが目立つ中で、自由主義経済に逆行する動きが生まれています。個々人の自由闊達な活動を原動力として経済成長へと導くという本来の意義を尊重しつつ、デジタル革新と調和するように、資本主義下での経済活動をいかに調整するかが求められています。その中で注目されるのがESG(Environment, Society,Governance)投資です。環境、社会、ガバナンスの観点を踏まえた企業活動が経済成長を支え、投資家にも長期のリターンをもたらすという考えです。2006年、アナン国連事務総長(当時)は、ESG投資を進める責任投資原則(Principles for Responsible Investment/PRI)を提唱しました。署名機関は世界で2500近くを数え、日本でも75機関が署名しています。東大も趣旨に賛同し、今年4月に国立大学として初めて署名しました。

  「東京大学ビジョン2020」や指定国立大学構想では、SDGs達成への貢献を掲げています。地球と人類全体の公共財である東京大学の伝統ある使命を現代において果たすために必要だと考えたからです。これを産官学民の連携によって進めるには、資金循環を支える仕組みとしてESG投資やそれを促すPRIが重要だと考えます。ESGと企業業績との相関はまだはっきりしないという専門家の指摘もあります。しかし新たな知を生み出す責務がある東京大学は、単なる評論に留まるわけにはいきません。ESG投資が従来と異なる資金循環を生み、企業の長期的成長に繋がる新たなメカニズムを提案できれば、資本主義のより健全な成長に繋がるでしょう。科学技術、社会システム、経済メカニズムを三位一体として連動させるモデルを考案し、それを自ら実践するのが大学の新しいミッションなのです。

 ビジョン策定の2015年当時、SDGsは日本ではあまり認知されていませんでしたが、2016年に日本政府がSDGs推進本部を設置し、経団連も2017年にSDGsを企業行動憲章に取り入れ、一気に浸透します。6月10日には経団連、東大、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の三者がSDGsの実現に向け、ESG投資とSociety 5.0を結びつけるための共同研究を開始する記者会見も行いました。SDGsへの取組は東京大学が一足先の未来を見据え、社会変革を駆動しようとしていることを示す具体例だと言えるでしょう。

 

 

「学内広報」1523号(2019年6月24日)掲載
 

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