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東大144年の一コマとしての6年間|総長室だより第30回(最終回) 思いを伝える生声コラム

掲載日:2021年3月31日

東京大学第30代総長 五神 真

東大144年の一コマとしての6年間

 

 2015年4月1日、私は第30代東京大学総長に就任し、この3月31日、任期を終えます。総長としての体験をリアルタイムで皆様にお伝えするために2017年8月から始めた「総長室だより」も最終回を迎えました。今回は6年間という任期を私が今どう感じているか、お話したいと思います。総長任期を振り返る際、「五神時代」と表現されることがありますが、私は少し違和感があります。時代という言葉は一区切りというニュアンスが伴いますが、この6年間は東大の144年間の大きな流れの中の一コマだと感じています。

 総長として様々な分野の方々との出会いがありましたが、その中である公的な組織のトップとの会話を思い出します。総長任期6年について、最初の2年は改革プランの立ち上げ加速、次の2年は普及拡大、最後の2年は定着と持続装置の装填、と述べました。それに対して「専門家、テクノクラートとしての組織トップがやるべきことは、任期の最終日まで、その瞬間に最善の決断を下すこと。次のために、任期期間の仕事の形を整えようとすると判断を間違うかもしれない」と言われ、はっとしました。そもそも変化が激しい現代では、最後まで何が起きるかわかりません。また終わった後の世界も予想できません。この6年間は長い歴史の一部として溶け込んでいくのです。

 

 例えば、濱田総長のときに学内で大議論を経て策定された学部教育総合的改革の多くは、私の総長着任とともに本格実施となり、4ターム制、全学統一時間割、105分授業などが始まりました。学内各部局の研究者が学問の最前線の醍醐味を新入生に直接伝える初年次ゼミは、教員学生双方にとても良い効果をもたらしています。PEAKTLPGLP-GEfILなど、野心的な国際化推進も濱田総長が始めたものです。現場を訪問した際の、生き生きとした学生の姿は大変印象的で、これらの取り組みがバラバラではもったいないと考え、Go Global Gatewayを始めました。学部教育改革は受け取ったバトンを定着させ発展させることに徹しました。総合図書館の歴史的改修も同じです。

 

 このような感覚から、6年間は一つの時代というよりも、先日急逝された有馬総長の改革から法人化後の佐々木総長、小宮山総長、濱田総長による諸改革の流れの上の一コマのように感じるのです。今、そのバトンは藤井先生に渡ります。時代を創るのではなく、その時々に最善な判断を下すことに集中するしなやかさが大切なのだろうと感じています。大学を取り巻く環境の激変は続くことでしょう。その変化に怯むのではなく、変化をみなで楽しみましょう。

 

「学内広報」1544号(2021年3月25日)掲載
 

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