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「丁寧に、粘り強く」チャレンジを続ければ成果は出せる。 | UTOKYO VOICES 011

掲載日:2018年2月16日

UTOKYO VOICES 011 - 「丁寧に、粘り強く」チャレンジを続ければ成果は出せる。

大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 教授 佐藤 薰

「丁寧に、粘り強く」チャレンジを続ければ成果は出せる。

昭和基地に建設された世界初の南極大型大気レーダーPANSYは、瓢箪から駒だった。

佐藤が国立極地研究所に入所した1999年、「どうせ無理だろうと思ったが、大型大気レーダーを南極に建ててみてはと大胆に提案。そうしたら、研究主幹(副所長)から『できるかもしれないよ。僕がバックアップするから検討してみなさい』という予想外の返事でした。その言葉に驚くとともに、感動して、検討を始めました」。

ところが、研究主幹を含む3人を除く研究所員全員から無謀だと反対される。「私も無謀だと思っていたのですが、できるかもしれないという方もいる。なら、実現できるかどうか自分で確かめてみようと昭和基地に行きました。1年間南極で生活し、建築担当を含む設営隊員の意見も参考にして、たどり着いた結論は、できるという確信は持てないが、できないという確信も持てない、ということでした。それで、本格的に検討を進めることに決めました」。この佐藤のチャレンジ精神と諦めない粘り強さが、PANSYレーダー(Program of the Antarctic Syowa MST/IS Radar)の実現につながった。PANSYは1,045本のアンテナが直径300mのエリアに配置される巨大なレーダーであり、大気の動き(風)や電子密度を観測して大気科学の最前線を研究する。

2014年、PANSYの開発研究により文部科学大臣表彰を受賞するなど、気鋭の気象研究者の佐藤だが、子供の頃は「ピアノの先生になりたかった」という。気象に興味を持ったのは、中学2年の理科の教科書で知ったラジオの気象通報だった。「天気図用紙を買ってきて、ほぼ毎日、風速や気温を記入し、等圧線を引いて天気図を作っていました。翌日の新聞に掲載された天気図を見て正解だったか確認するのも楽しかったです」。

ピアノに加えて数学と物理も好きだった佐藤は東大理科1類に入学。所属していた合唱団の先輩の一人から地球物理学科で気象を研究していると聞き、進学する。大学院でのテーマは大気レーダーによる観測研究だったが、レーダーに入るノイズに悩まされた。“丁寧に、粘り強く”ノイズ除去プログラムを作って克服した。

もう一つのテーマが惑星レベルの大気循環だ。地球の大気循環は階層構造を持ち、太陽放射だけでなく、大気重力波と惑星規模のロスビー波によって駆動される。観測を基にした高解像度シミュレーションの結果、「重力波はそれまでの想定よりも大きく斜めに伝播しており、効率的にジェット気流を弱めていることがわかりました。これがオゾンホールの崩壊時期の正確な予測につながったのです」。

「私達は純粋科学で真理を探求していますが、思いがけず、社会に役立つ成果がでたりします」と話す佐藤だが、研究は成果がなかなか出ずに辛いことも多いという。しかし、「研究は、予想通りでない結果がでるのが面白いんです。予想と違うのは、知られていない何かが潜んでいるかもしれないということ。丁寧に調べると実はこうだったのかということが結構あります。若いときは予想が外れるとがっかりしたものでしたが、今ではそれが楽しいと感じます」。

予想外の現象を追求した結果、「世界で私達だけがこの現象とその物理を知っている。それを国際学会で“どうです。面白いでしょう”と発表するのは愉快ですね。丁寧に、手を抜かずに粘り強くチャレンジし続ければ、成果は出せるはずです」と、佐藤の顔は輝く。

取材・文/佐原 勉、撮影/今村拓馬

Memento

PANSYを活用して大気科学のフロンティアを走る佐藤のアイデアは、まずA4の大判ノートに定着される。無機的なノートの表紙に、旅行先などで買い求めた包装紙や千代紙などのカバーをかけて楽しんでいる

Message

Maxim

佐藤は宝塚のモットーでもある「清く、正しく、美しく」を反芻しながら研究を続けている。そして「丁寧な、粘り強い」研究が成果を上げる条件だ

プロフィール画像

佐藤 薰(さとう・かおる)
1984年東京大学理学部地球物理学科卒業。1986年同大学院地球物理学専攻修士課程修了。企業に一旦就職するが、1988年京都大学大学院理学研究科地球物理学専攻博士課程編入学、1991年同修了、理学博士。1993年東京大学気候システム研究センター助手、1995年京都大学大学院理学研究科助手、1999年国立極地研究所助教授を経て、2005年東京大学大学院理学系研究科教授。第44次日本南極観測隊越冬隊員。2011年度東京大学総長補佐。

取材日: 2017年12月5日

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