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普遍的な「保育の質」を求めて。 | UTOKYO VOICES 021

掲載日:2018年3月16日

UTOKYO VOICES 021 - 普遍的な「保育の質」を求めて。

大学院教育学研究科 発達保育実践政策学センター 准教授 野澤祥子

普遍的な「保育の質」を求めて。

待機児童問題が話題になる中、子どもの発達や保育、教育をどのように政策に反映させていくか、という研究を行っているのが、発達保育実践政策学センター(CEDEP)だ。野澤はこのCEDEPで2016年から准教授を務めている。

「いたって普通の子どもだった」と自らを語る野澤だが、『大草原の小さな家』『赤毛のアン』など、人の一生を追ったストーリーに夢中になった記憶があり、「今、思えば、その頃から人格形成というものに興味があったのかもしれない」と笑う。

「先生になりたかったけど、向いている気はしなかった」という野澤は、東大教育学部在学中、教育にもいろいろなアプローチがあることに気づき、発達心理学を専攻。遊びや喧嘩を通して他者との葛藤やコミュニケーションを経験し、社会的な調整力を獲得していくこの時期は、言葉も含め重要な発達段階に当たる。野澤は保育園に週1回のペースで1年間通い、ビデオを回しながら園児を観察、子どもたちが互いに与え合う影響を記録した。まだ過渡期にあるジャンルで消化不良が続く中、博士課程に進むも博士論文は出さず、複数の大学で非常勤講師を務めながら出口を探した。

そんな折、アメリカの大学に留学する夫に同行したことが、思いがけない転機となる。現地で出産し、勤めを持たず子育てに注力できたことで、「1歳児クラス(2歳前後)における子ども同士のやり取りの発達過程」というテーマで博士論文を執筆した。

この博士論文が評価され、帰国後は東京家政学院大学准教授となり、ほどなくCEDEPへの参加が決まった。

「アメリカで子育てしたことにより、主体性・自発性を第一に重んじるアメリカとは異なり、周囲との和を大切にし『空気を読む』のが日本の特徴だということを身をもって実感しました。こういう日本的な価値観も生かしながら、変化の激しい世界で日本人が力を発揮できるよう、発達のメカニズムを理解した上で効果的な保育・幼児教育を構築し、政策に還元していかなければなりません」

現状、日本ならではのデータは乏しく、CEDEPがそれらを蓄積し、エビデンスをつくっていく必要がある。CEDEPでは情報理工学とのコラボにより、IoTカメラとAI技術で自動的に子どもの動きや表情を認識/データ化するとともに、温度や明るさなどの環境をセンシングし子どもに与える影響を分析する取り組みも進行中だ。

一方で、親や保育者の主観も重要だと野澤は強調する。人の目や主観を通して「質」を、テクノロジーを通して「量」を把握し、多面的に評価していくことにより、保育の質がより良くなるよう、子どもや保育者が「その人らしくあることのできる在り方」の条件を探している。

何が成果や成功なのか、国や時代によっても異なるが、それでも子どもが夢中になる遊びや心地よいと感じる環境など、「普遍的な保育の質」というものはあるはず。そういうものを抽出することで、「ちゃんと働いて、ちゃんと休んで、ちゃんと子育てができる社会になってほしい」、それが野澤の究極の願いだ。そのためにもCEDEPの存在意義を世の中にアピールし、長く存続させていくことが肝要だと考えている。

取材・文/加藤由紀子、撮影/今村拓馬

Memento

現場で子どもの行動を見るのが何より好きだという野澤。デジカメは日々のフィールドワークに必携のアイテム。研究の鍵を握る大事なパートナーだ

Message

Maxim

保育には学際的な研究が必要であり、皆で保育のことを考えなくてはならない、という意味合いから。センターから出ている書籍『あらゆる学問は保育につながる―発達保育実践政策学の挑戦』(東京大学出版会)からの引用

プロフィール画像

野澤祥子(のざわ・さちこ)
2010年東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。13年博士(教育学、東京大学)。東京家政学院大学准教授を経て、16年より東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター准教授。専攻は発達心理学・保育学。著書に『家庭支援論』(ミネルヴァ書房、2016年、共著)、『歩行開始期の仲間関係における自己主張の発達過程に関する研究』(風間書房、2017年)など。

取材日: 2017年12月4日

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