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新しいアイデアで、地球温暖化のメカニズムを探究。 | UTOKYO VOICES 029

掲載日:2018年3月23日

UTOKYO VOICES 029 - 新しいアイデアで、地球温暖化のメカニズムを探究。

大気海洋研究所 気候システム研究系 教授 渡部雅浩

新しいアイデアで、地球温暖化のメカニズムを探究。

地球温暖化で人類社会はどの程度のリスクを抱えるのか……。「人間活動による温暖化の進行は事実です。それだけに、気候科学者として、ハイエイタス現象(地球全体の気温上昇の停滞)がなぜ起こったのかを解明しなければなりませんでした」と、渡部は話す。

2000年頃から最近まで、温室効果ガス濃度は上昇しているのに気温は上がっていなかった。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が唱える温暖化のCO2主犯説は間違っているのではないか、といった懐疑論も息を吹き返していた。

ハイエイタスの原因を探る世界最前線の科学者の中に渡部のグループもあった。最新の全球気候モデルを用いたシミュレーションによって、熱帯域の自然の10年規模変動が温暖化を停滞させていたことを解明し、論文が2014年『Nature Climate Change』誌に掲載された。

高校時代、世界をフィールドにするような、文明発生の謎に迫る考古学と人類の起源を探る生物進化学に興味があった。しかし大学進学の際、「理系の進化論か文系の考古学か、あいまいなまま理系に進んだため」一種のアパシーに陥り、「1年間、世界を旅していて、結果として留年しました」。

「3年のときたまたま、東大から来た若い先生について、世界中の気象データを地図上にプロットすることで、干ばつや洪水などの異常気象現象が見えてくることを知りました。それまで気象や気候には関心はありませんでしたが、新鮮で面白かったのです」

それ以来、地球の気候変動メカニズム解明に取り組んでいる。博士論文では、大気海洋系の10年規模変動のメカニズムに関する数値的研究を行い、10~20年で海面水温が変動する現象をシミュレーションによって解明した。

東大に戻った2007年頃から、地球温暖化と異常気象の研究を本格的に開始。特に、頻繁に起こるようになった異常気象にどこまで温暖化が影響していたかを、イベントアトリビューション(個々の異常気象の要因分析)という新しい数値モデリング手法で明らかにすることを目指した。

その結果、「イベントアトリビューションによって、特定の異常気象が温暖化で何%起こりやすくなったか、という定量評価が可能になりました。例えば2017年は世界各地で熱波や高温イベントが続出しましたが、これらは温暖化していなければ100%起こらなかったという結論が得られました。100%というのは初めての数字で、我々の結果は米国発の同様の研究成果とともに『Nature』に最近の話題として取り上げられました」。

「今では全球気候モデルやスパコンは誰でも使えます。観測データも使いやすく編集されて、すぐに可視化できるようになりました。大事なのは、誰でも使えるモデルやデータから何を見つけるかであり、アイデアこそが問題解決の鍵です。使える道具をすべて使って、自分のアイデアが正しかったとわかったときに最も興奮を覚えます」

「今は、今後20~30年の間に気候と気象がどう変わるかをより的確に予測することに関心があります」と話す渡部らの取り組みに、変化する気候の中で安定した社会を持続する方策の一端がかかっている。

取材・文/佐原 勉、撮影/今村拓馬

Memento

10年以上前、横浜の中華街でたまたま目にして面白いと買い求めた、異なる色の石をはめ込んだ地球儀。渡部はモザイクの石の地球儀を見ながら、社会の行方を左右する気候の変化に思いをはせているのだろう

Message

Maxim

ほとんどのアイデアはゴミだが、アイデアがないと始まらない。電車や風呂の中、寝ているときなどにアイデアが閃くこともある。「昔はメモしていましたが、最近はメモは取らない。忘れたとしたらたいしたことはないアイデアなんです」

プロフィール画像

渡部雅浩(わたなべ・まさひろ)
2000年東京大学大学院理学系研究科地球惑星物理学専攻博士課程修了。博士(理学)。2001~2002年米国ハワイ大学客員研究員、2002~2007年北海道大学 准教授、2007年東京大学気候システム研究センター 准教授、2016年東京大学大気海洋研究所 教授(現職)。地球温暖化の科学的知見を深化するための研究プロジェクトを主宰し、2021年出版予定のIPCC第6次評価報告書の著者にも選出されている。

取材日: 2018年1月23日

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