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地震予知はできるのか? その解明に挑む。 | UTOKYO VOICES 031

掲載日:2018年3月27日

UTOKYO VOICES 031 - 地震予知はできるのか? その解明に挑む。

地震研究所 地球計測系研究部門 准教授 中谷正生

地震予知はできるのか? その解明に挑む。

地震の発生時期やその大きさはどの程度、予測可能なのか。これが中谷の研究テーマだ。
しかし、中谷は最初から地震を研究しようと考えていたわけではなかった。きっかけはものが壊れることに興味を持ったことだ。

大学院受験の際に研究テーマを決めようと思った中谷は、たまたま『地震の物理』という本に出会った。そこに載っていたのが東大地震研究所所長を務めた茂木清夫教授による世界的に有名な「岩石破壊実験」だった。岩に力を加えると、はじめはあちこちで小さな破壊が起きるが、それが次第に集中してきて、最後はその部分が割れて破壊に至る。「この原理だと岩のように複雑な生成物の方が、かえって壊れる時の予測がしやすいのですね。非常に面白いなと思ったんです」と中谷は振り返る。

これまで数々の画期的な成果を上げてきた中谷だが、自身が「今までで一番」という研究がある。
地震発生物理の分野では、1979年の発見以来、寡占的に利用されてきた摩擦則があった。ただ、どうしてその法則が成り立つのかを誰も明確に説明できないものでもあった。それを見事に解明したのが大学院生だった中谷だ。

「別の実験をやっていて、たまたま説明できない理由に気づいたのです」。
摩擦則では「摩擦」という言葉を“二つの面のくっつき方の強度”の意味で使っているが、式では“そこにかける力”になっていた。その2つは別のものだという認識がなかったために混乱が生じていた。そこを明確にした、中谷の摩擦則の意味と物理メカニズムは高く評価され、一般の摩擦学の世界でも標準的なものになっている。

東大地震研究所に入ってからは岩石の摩擦強度のモニタリングに取り組んだ。摩擦強度は物と物の接着面がどれだけあるかで決まる。金属なら電気抵抗を測ることで接着面積を把握できるが岩は電気を通さない。そこで、中谷は超音波を使って、金属同様に岩石の摩擦強度の測定に成功する。「これは僕のキャリアの中で唯一、構想通りに予測していた結果を出すことができたもの」だという。

子どもの頃から「物事の系統的な分類やメタな論理構造を考えるのが好きだった」という中谷が、研究する上で大切にしていることが2つある。それは「データを素直に見ろ」「“当たり前”を大事にしろ」ということだ。
「結果が予測できる当たり前のことと対比して、当たり前じゃないことがあったら、それは追求する価値がある。どうしてかな、おかしいなと思うことには何かがあるから」 持ち前の好奇心と天才的なひらめき、そして地道な実験を重ねていく力、その両面を持つのが中谷の強みだろう。

そして今、彼が取り組んでいるのは地震予知だ。
「今までは、地震予知が可能かどうか議論されてきました。しかし近年、北海道大学の先生が、大地震の1時間くらい前に必ず電離層に決まったパターンの変動が起きているということを見つけたことで、地震予知が原理的にできるという可能性が一気に高くなったんです」と中谷はいう。
「だから僕も、地震の先行現象はあるという前提で研究している。あとはメカニズムを解明するのみです」

取材・文/菊地原 博、撮影/今村拓馬

Memento

子どもの頃から「物事の系統的な分類やメタな論理構造を考えるのが好きだった」という中谷が、研究する上で大切にしていることが2つある。それは「データを素直に見ろ」「“当たり前”を大事にしろ」ということだ。
「結果が予測できる当たり前のことと対比して、当たり前じゃないことがあったら、それは追求する価値がある。どうしてかな、おかしいなと思うことには何かがあるから」 持ち前の好奇心と天才的なひらめき、そして地道な実験を重ねていく力、その両面を持つのが中谷の強みだろう。

Message

Maxim

「“実感”のない中で何かを発見するということはできないと思っています」。中谷が“実感”できるのは目視できる範囲や、手で触れられるもの。その感覚は人それぞれで「数学者はおそらく数字だけの抽象的な世界に“実感”が持てているのだと思います」と言う

プロフィール画像

中谷正生(なかたに・まさお)
1997年東京大学大学院理学研究科地球物理博士課程修了。コロンビア大学ラモント・ドハーティ地球観測所研究員を経て、2002年東京大学地震研究所助教、2008年同准教授(現職)。多様な地震現象を説明する摩擦の時間効果について、その物理・化学メカニズムを実験および理論的に研究している。また、摩擦インターフェイスの内部状態を非破壊的にモニターする方法を開発し、地震の前駆滑り域の検出への応用をめざしている。鉱山の地大数キロの巨大な岩盤で微小破壊をモニターした研究でも有名。

取材日: 2018年1月11日

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