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じゃんけんに勝って政治学の道に。結論を急がず、資料を丁寧に集め忠実に見る。| UTOKYO VOICES 039

掲載日:2019年3月1日

UTOKYO VOICES 039 - 大学院総合文化研究科 国際社会科学専攻 准教授 鹿毛利枝子

大学院総合文化研究科 国際社会科学専攻 准教授 鹿毛利枝子

じゃんけんに勝って政治学の道に。結論を急がず、資料を丁寧に集め忠実に見る。

5歳の時からロンドンに4年間滞在した鹿毛は小学時代を東京で過ごし、中学・高校をニューヨークで暮らす。「何となくアメリカの大学に行くと思っていたのですが、父の転勤で日本に戻り、京都大学に入学しました」。

当時の京都大学法学部と経済学部は帰国子女を取ることに熱心で、弁護士になろうと思って法学部に。しかし、微に入り細をうがつ法律の議論が苦手だった鹿毛は、「政治学の単位を取れば卒業できると知り、3年のときに大嶽秀夫先生の講義を受けていた。先生からアシスタントを募集するというお話があり、じゃんけんに勝ってアシスタントになりました」。

大嶽教授が政治家などに行ったインタビューのテープ起こしや資料のコピー取りなどをしながら、「先生から出された課題のレポートをまとめているうちに楽しいと思うようになり」研究者の道を進むことになる。修士は京都で博士課程はアメリカでという先生の勧めでハーバード大学に留学。当時はNGOやNPO、市民参加の研究が盛んで、そのテーマで博士論文『Defeat and Reconstruction(敗北と再建)』をまとめる。

「第二次世界大戦前の日本は多様な市民参加活動やボランティア活動が活発でしたが、戦時中にできなくなってしまいました。しかし、どれだけ物理的に破壊されても、戦前から市民参加のネットワークがあったところが生きていて、戦後に復活していたことがわかったのです」

現在は、法律分野を巡る政治学的な研究に取り組んでいる。その成果が2017年に発刊した『Who Judges? Designing Jury Systems in Japan, East Asia, and Europe』だ。韓国・台湾・スペインと日本を比較しながら、日本の裁判員制度の導入を巡る政治学を扱っており、「政治の力関係が大きく影響していることがわかりました」。
例えば、捜査の可視化などはいろいろな政治的判断を踏まえながら進められていることがわかるという。

「研究の面白さは、社会のことがちょっとだけわかった気になるところですね。裁判員制度はある日突然決まったような感じがしてびっくりしますが、1950~60年代の国会の議事録を見ているとずっと議論がされており、その上で制度ができたことが見えてきます」

現代につながる研究分野だけに、「あまり結論を急がないこと。資料を丁寧に集めてできるだけ資料に忠実に見ようとすることが大切」と鹿毛は話す。また、今の政治学は統計的な分析が大はやりで有名なジャーナルに論文に載りやすいが、「流行には一長一短あり統計的な研究にそぐわないテーマもあるので、流行には左右されずに本質を理解することが重要だ」と考えている。

「日本では、今取り組んでいる司法と政治の接点の研究が充分にされていませんので、今後はそれを掘り下げてきたいと思っています」

(小物)お茶

Memento

朝はまず、起きて、紅茶を入れて、目を覚まして、仕事モードに入る。季節によって春夏はダージリン、秋冬はアッサムティーなどに変えているが、「これがないとエンジンがかからない感じです」。

(直筆コメント)「Why?」

Maxim

「社会がなぜこうなっているのか」と疑問を持った時、元を辿ると政治に原因があることが多い。「学生には、いろいろな疑問を持ってほしい」と伝えている。

プロフィール写真

Profile
鹿毛利枝子(かげ・りえこ)

京都大学法学部卒業、ハーバード大学政治学部Ph.D.(政治学)。神戸大学大学院法学研究科准教授を経て2007年より東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻准教授(現職)。この間ハーバード大学日米関係研究所客員研究員、ミシガン大学日本研究所客員教授。専門は比較政治学。著書に『Who Judges? Designing Jury Systems in Japan, East Asia, and Europe』(Cambridge University Press, 2017)ほか。

取材日: 2018年12月10日
取材・文/佐原 勉、撮影/今村拓馬

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