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障害という切り口を通して社会を見ていくということ。| UTOKYO VOICES 043

掲載日:2019年3月18日

UTOKYO VOICES 043 - 大学院教育学研究科 附属バリアフリー教育開発研究センター 准教授 星加良司

大学院教育学研究科 附属バリアフリー教育開発研究センター 准教授 星加良司

障害という切り口を通して社会を見ていくということ。

星加は1歳のときに小児がんを発症、5歳で視覚を失ったが、とにかくよく動き回る活発な子どもだったという。
小中高と一貫して一般の公立校を選択するも、常に前例のないケースとして扱われ、「両親や学校はバタバタしていた」と笑う。「自分としては特別な気持ちはなくても、社会的には大きな選択と取られる。そのことは意識せざるを得なかった」と振り返る。

東京大学文学部では社会学を専攻し、ボランティア論をテーマとする卒業論文を執筆。修士課程で「ディスアビリティ・スタディーズ(障害学)」という学問に出会い、「研究の道をやっていくのもいいかな」と思えた。

ディスアビリティ・スタディーズとは、個々の障害者等が抱える困難を「社会とのかかわりの中で生じる現象」として考えようとする学問で、「身体的な不具合ゆえに困難がある」とする医学的アプローチによる従来の障害論とは切り口がまったく異なる。
たとえば、大学の授業一コマ(105分)の間、じっと座っていることが困難な人もいる。誰にも苦手なことはあるが、それが社会ルールの範疇におさまる人はマジョリティとして難なく過ごせて、そうでない人はマイノリティとして不便や困難を抱えて暮らすことになる。
そういう社会的な不均衡に気づく切り口の一つとして、星加は「障害」を捉えている。中高時代から持ち続けてきた社会への関心に、視覚障害を持つ個人としてのリアリティがリンクし、自らのテーマが定まった格好だ。

そうして書き上げた博士論文をもとに出版した書籍「障害とは何か―ディスアビリティの社会理論に向けて」は、従来の障害の概念を問い直す論考として高い評価を受け、研究者としての基盤をつくった。

女性、LGBT、外国人など、マイナーな特性や属性を持つ人々が今の社会の形に合わせるよう強要されるのも「バリア」なのではないか、と星加は指摘する。誰もがマジョリティにもマイノリティにもなり得るが、「差が生まれてしまっていること自体が一つの障害」だと話す。

多様な個性を持つ人々が共生できる社会の実現に向けて、星加が所属する「バリアフリー教育開発研究センター」では、内閣官房主導による「心のバリアフリー」教育研修をはじめ、企業・社会向けのさまざまな教育コンテンツを作成し、その成果の検証も進めている。2020年の東京オリンピックを間近に控えた今、法整備や社会ニーズの点からもまさに旬の案件だ。

しかし、バリアフリーという言葉は本来、建築用語であり、どうしても絵に描きやすい物理的なバリアに目が行きがちになるきらいがあるという。「すべての個人」を含み込みながら、種々の社会的困難や不均衡を是正して、誰もが生きやすい社会づくりを目指す、という自身の考え方からすれば、バリアフリーよりも「むしろ、ダイバーシティなんですよね」と、星加は話す。

今は理論から社会への実装につなげる種まきをしているところで、「実社会にフィードバックされてこそ、理論研究の価値も高まる」という。

ダイバーシティの視点を持った人をどれだけ増やしていけるか。「夢は夢として」と冷静さも覗かせつつ、どこまでもその裾野を広げることが星加の願いである。

写真:(点字ディスプレイ)

Memento

PCとつなぐことで、カーソルのある画面上の文字情報を点字として表示する点字ディスプレイは、星加にとって欠かせないアイテムだ。音声で文字を読み上げるソフトと併用し、ダブルで確認を進めていくという

コメント:努力すれば報われることもある

Maxim

中学時代の恩師の言葉。報われること「も」あるという言い回しに、何か響くものがあった。環境などの因子を無視して、すべてを個人の努力に押しつけるような一般的な考え方に違和感があったのかもしれない

プロフィール写真

Profile
星加良司(ほしか・りょうじ)

東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(社会学)。東京大学先端科学技術研究センター特任助教等を経て、現職。主な研究テーマは、ディスアビリティの社会理論、障害者のシティズンシップとアイデンティティ、障害平等施策としての合理的配慮等。国・自治体の障害施策関連の委員を多数務めるほか、障害や多様性に関する先端的な知の社会還元を進める観点から、オリンピック・パラリンピック等経済界協議会との共同プロジェクト「『心のバリアフリー』教育の講師養成講座」等を展開している。

取材日: 2018年11月28日
取材・文/加藤由紀子、撮影/今村拓馬

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