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未来のシナリオを用いて地球温暖化対策の政策選択肢を中立的な立場で提示する。| UTOKYO VOICES 045

掲載日:2019年3月19日

UTOKYO VOICES 045 - 政策ビジョン研究センター/総合文化研究科 国際環境学教育機構(兼務) 准教授 杉山昌広

政策ビジョン研究センター/総合文化研究科 国際環境学教育機構(兼務) 准教授 杉山昌広

未来のシナリオを用いて地球温暖化対策の政策選択肢を中立的な立場で提示する。

地球温暖化対策は喫緊の課題だ。しかし、産業界や環境保護派、先進国と途上国などの利害対立が多く政策形成・合意は容易ではない。杉山は、この難題に温暖化対策のシナリオ研究というアプローチで取り組んでいる。

「高3の時に『地球の医者になりたい』と語っていたので、そのときの想いは叶ったのかもしれません」と杉山は振り返る。地球温暖化対策の研究は、理I入学後に住明正先生の授業で温暖化の話を聞いて興味を惹かれ、3年で地球惑星物理学科に進んだ結果でもある。

学部時代は「環境三四郎」という環境サークルで活動し、97年の地球温暖化防止京都会議にはオブザーバーとして参加。また、東大、マサチューセッツ工科大学、スイス連邦工科大学、チャルマーズ工科大学(スウェーデン)による研究ネットワークAGS(Alliance for Global Sustainability)のつながりで海外の風に触れ、その後の海外留学への誘引となった。

公務員試験に合格したので官僚になろうという気もあったのだが、環境政策についてもっと勉強したいと考え、気象力学など理論に強いMITに2001年から6年間留学。理論的な熱帯気象学の研究でPhDを取得すると共に、工学部の技術と政策プログラムで海面上昇の経済評価を行い修士号も取得した。

杉山の研究トピックで特に論争を呼ぶのが気候工学(ジオエンジニアリング)だ。人工的に地球を冷やすという新たな対策は、地球温暖化問題で苦しむ人類にとって劇薬だ。気温低下をもたらす可能性もあるが、多大な副作用や社会的・倫理的な問題をつきつける。今後の気候工学ガバナンスを考える上で、国際的な枠組み作りが不可欠であり、環境をより良くするための政策も含めてどういう道筋で実行したらいいのかというシナリオ研究に取り組んでいる。

杉山は今、共同研究者と日本の地球温暖化対策の研究プロジェクトを実施している。社会や経済における政策の道筋を複数立て、どのような政策の選択肢があるかを示すためのシナリオ研究だ。

その中核となる考え方が、2018年ノーベル経済学賞を共同受賞したウィリアム・ノードハウス教授が始めた「統合評価」という手法だ。温暖化対策は、技術の問題であると同時に自然科学、社会・経済の問題でもある。再生可能エネルギーや石炭火力発電、原子力発電という技術に加えて、CO2排出を削減するための政策とそのコストなども考慮に入れる必要性がある。統合評価はそれらを統合・評価して未来のシナリオを作成し政策選択肢を提示する。

「シナリオを提示する際、最も大切なのが中立性。たとえば、2050年の日本の電源構成を考える場合、2050年に技術がどれくらい進歩しているかわかりませんので想定でしかありません。しかし、思い入れと価値観がすごく入るので、往々にして人々は選択肢を好きなものに狭めたがる。こういうときは、選択肢の可能性を広げて、それらを横並びにして見せるのが研究者としての役割だと考えています」

エネルギーや温暖化の政策研究をしていると、欧米に比べて「目も当てられないくらい日本に知見が不足していることに気付く」。だから、2016年に『Nature』に書いたエネルギー・環境研究に関する論考で、関連分野で専門的知見が少ないことに警鐘を鳴らし、「夢はこの分野の政策研究とエビデンスに基づく政策形成を向上させることです」と話す。

写真:(小物)「ノートパソコン」

Memento

研究プロセスや成果が詰まったノートPCをいつも持ち歩いている。データはクラウドに保存し研究資料もできるだけデジタルデータ化して場所をとらないため、「研究室もいらないぐらいなんです」と話す。

Message

Maxim

「分析者としての責任は中立であることと、学問的な厳密性を守ること」だ。ある政策を実施した場合はこういう問題があると提示し、政治は政治として、分析は分析として分けることを常に心がけている。

プロフィール写真

Profile
杉山昌広(すぎやま・まさひろ)

2001年東京大学理学部地球惑星物理学科卒業後、2007年までマサチューセッツ工科大学理学部地球大気惑星科学科にてPh.D.(気候科学)、および工学部にて修士号(技術と政策)を取得。東京大学サステイナビリティ学連携研究機構特任研究員、一般財団法人電力中央研究所社会経済研究所主任研究員を経て2014年より東京大学政策ビジョン研究センター講師、2017年同准教授。専門は気候政策、長期的なエネルギー政策、ジオエンジニアリング。主な著書に『気候工学入門—新たな温暖化対策ジオエンジニアリング』(日刊工業新聞社、2011年)。

取材日: 2018年11月28日
取材・文/佐原 勉、撮影/今村拓馬

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