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光を当てる場所を変えてみたら、自分の道が見えてきた。| UTOKYO VOICES 052

掲載日:2019年3月27日

UTOKYO VOICES 052 - 大学院人文社会系研究科 日本史学研究室 准教授 三枝暁子

大学院人文社会系研究科 日本史学研究室 准教授 三枝暁子

光を当てる場所を変えてみたら、自分の道が見えてきた。

子どものころから本好きで、『赤毛のアン』や『小公女』を好む空想がちな少女だった。両親と同じ国語教師になるつもりでいたが、高3の政経倫理の授業が非常に面白く、先生の人柄も印象に残った。湾岸戦争のさなかでもあり、「社会で今起きていること」と学問をつなぐことに興味を覚えた三枝は、日本女子大学の史学科に進む。

専攻テーマを模索する中、永村眞教授の日本中世史の授業を受けて「この先生につきたい」と直感。厳しい指導には高い志とパッションがあり、女子学生に対して本気で期待し向き合ってくれる姿勢に感動した。

「何を学ぶか」より、むしろ「誰に学ぶか」を優先したことで、おのずと専攻も日本中世史に定まった。ほぼゼロからのスタートとなったが、史料や先行研究の読み方を徹底的に叩き込まれたことで、史料に当たる面白さ、研究書や論文で目にしてきた史料の原典を書庫で見つける喜びに目覚め、「体が震えるほどの感動」を味わった。

東大歴史文化学科の研究生を経て、翌年、同大学院の修士課程に進むが、研究室のレベルの高さに加えて、自身が関心を持つ分野においては「誰もが認める先行研究」がすでに存在することに、三枝はすっかり自信を喪失。母校の永村教授に助言を求めると、「あなたはあなたが理想とするスター研究者のようにはなれないし、なる必要もない。地味に努力をするのが持ち味なのだから、10年後に認めてもらえるような研究をしていきなさい」と諭された。

そこで、マイノリティを取り巻く社会構造への関心を再認識し、彼らを取り込む組織の側にフォーカスして歴史を分析してみると、彼らがいかに時の権力と渡り合いながら生き延びようとしたかが、新鮮に浮かび立ってきた。「光を当てる場所を変えてみたら、自分の道が見えてきた」という。

博士課程の単位取得後、いったん東大を離れ、立命館大学文学部の任期制講師としてかつては首都としてさまざまな生業の人々が集まっていた京都の都市構造のフィールドワークに着手。すると、神社・寺を中心に農家や商家、一般家庭など、あらゆる場所に中世の名残があり、これまで「文字で追ってきた中世の情報」と「今、リアルに追うことのできる京都の情報」がリンクする瞬間に何度となく立ち会うことができた。

2014年に上梓した『京都 天神をまつる人びと―ずいきみこしと西之京―』は、市井の協力者や共著の写真家など、「たくさんの不思議な縁に導かれてできた、二度とつくれない宝物のような本」であり、研究者としても最大の成果だと胸を張る。

京都には現存する文化をいかに持続させていくかという重い使命があり、そこで暮らす人々もそのための努力を怠らない。現代に残る手がかりを見つめることで「中世を見直している感覚がある」一方、「研究を通じてどのような使命を果たしていくのか自分も考えざるを得ない」という三枝は、必要なときに必要な「人」に出会い、そこに自らの問題意識をすり合わせることでブレークスルーを果たしてきた。そんな特別な「人との縁」こそ、三枝が拓こうとしている中世史の闇、その歩む道を静かに照らす光源なのかもしれない。

(小物)「記念写真」

Memento

初の著書『比叡山と室町幕府―寺社と武家の京都支配―』(2011)出版パーティーの記念写真。「研究のためなら」と女人禁制の場所にも立ち入ることを許してくれた西之京瑞饋神輿保存会の方たち。彼らが集まり祝ってくれたときの感激は今なお忘れがたい

(直筆コメント) 「愚直」

Maxim

「自分たち研究者も職人のように純粋にひたむきに自らの仕事に徹する者でありたいね」と、かつての同僚が「愚直」という言葉を教えてくれた。器用とはいえない自分自身を表すと同時に、欲にかまけて大事なことを見失ってはならない、という戒めの言葉でもある

Profile
三枝暁子(みえだ・あきこ)

1995年日本女子大学文学部史学科卒業。東京大学文学部歴史文化学科研究生を経て、同大学大学院人文社会系研究科日本文化研究専攻(日本史学)修士課程入学、同博士課程単位取得退学。日本学術振興会特別研究員(PD)、立命館大学文学部総合プログラム任期制講師等を経て、2008年立命館大学文学部日本史学専攻准教授、2016年より東京大学大学院人文社会系研究科(日本史学) 准教授。日本中世の都市社会構造、身分制に焦点を当て、綿密なフィールドワークを行いながら新たな中世の捉え方を提起している。

取材日: 2018年11月19日
取材・文/加藤由紀子、撮影/今村拓馬

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