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一枚の絵画から、人と人の結びつきや文化の多様性が見えてくる。| UTOKYO VOICES 091

掲載日:2020年7月2日

UTOKYO VOICES 091 - 東洋文化研究所 東アジア第二部門 准教授 塚本麿充

東洋文化研究所 東アジア第二部門 准教授 塚本麿充

一枚の絵画から、人と人の結びつきや文化の多様性が見えてくる。

東北大学3年の夏、集中講義に来ていた小川裕充先生(東京大学名誉教授)が投影したスライド『早春図』(山水画家・郭煕)を見て、「世の中がひっくり返えるほどの衝撃を受けました」と、塚本は当時を振り返る。

「墨だけで表現された立体感の凄さは、先生に指摘されなければわかりませんでした。初めてアジアに出会ったという驚きと、こういう絵を知らずに生きてきたことが恐いと思ったのです」

骨董屋だった父親の影響で古美術に触れていたこともあり、小学生の頃から仏像が好きで美術家に憧れていた。「ところが、高3の時に受験デッサンの勉強をしていたら、先生が『美術史という選択もあるから』と囁いたのです。デッサンが下手だったからでしょうね」。
そこで、通っていた博物館の学芸員に相談したところ、仏像が好きなら九州大学か東北大学の仏教美術がいいと言われ、東北大学に進んだ。そこで、人生の航路を決める『早春図』に出会うことになる。

学芸員になりたいと思っていた塚本は、博物館で働くには修士号が必要だからと大学院に進んだ。一時は研究に行き詰まって大学院も辞めようと思ったこともあったが、「観念的な研究はしていても実際のアジアを全く知らないことに気が付いたのです。それで博士課程1年目に南京と台湾に留学し、暮らしの中に絵画が生きていることを体験して感動しました。モノに出会い、人に出会い、絵画にもアジアに対する見方も大きく変わりました」。

その後、大和文華館や東京国立博物館の学芸員として働きながら博士論文『北宋三館秘閣における文物の収集・公開活動と「北宋絵画史」の成立』(2011年)を執筆。その後、博士論文をベースに、北宋時代に成立した文物の収蔵・公開機関である三館秘閣を中心に、北宋絵画史の成立に至るまでの過程を明らかにした『北宋絵画史の成立』を2016年に上梓した。

絵画のライフサイクルという新しい視点から、北宋美術が内包する時代と地域を越えた文化的多様性を検証した論文だ。「今までの研究は様式論で終わっていたのですが、一枚の絵画というモノを通して人と人がどう結びつくのか、どういう文化をつくるかを実証的に追究しました。博物館での経験がないと書けなかった論文です」

「最初は誰でも絵画の見方はわからない」と塚本は言う。「小川先生に教えてもらい、中国で教えてもらい、博物館で教えてもらってわかるようになりました」。絵画の見方は時代意識に大きく規定される。しかし、単なる好き嫌いとも異なる。「新しい価値を見出し、自分の目で見た経験をベースに伝えることが大事だと考えています」。

2015年に東洋文化研究所に入り、鈴木敬先生が始めた世界中の中国絵画のすべてを撮影する『中国絵画総合図録』(3編全15巻)プロジェクトに参加している。索引も完成し、鈴木先生が取り組み始めてから50年かかった一大プロジェクトの完了を記念して2020年3月15日にシンポジウムを行うこととなった(新型コロナウィルス拡大のため延期)。「約20万点の写真があり、デジタル化も含めてこのアーカイブをいかに活用するか検討しています」。

絵画研究には、「素晴らしい作品の持っている力に触れられる面白さがある」と塚本は言う。
「また、作品は創り出されたときに終わるのではなく、作家亡き後も新しい価値を創り出していきます。テキストと違ってモノである絵画によって伝え続けられることは沢山ある。絵画でしか表現できない人間精神の大事な側面を明らかにしていきたいと思います」
塚本は、今後も絵画の持つポテンシャルと文化的多様性を追究していく。

(小物)観察・記録のための道具

Memento

作品を壊さずに近づくために大学時代から使っている単眼鏡やルーペで、作品を観察・記録する。「とにかく作品に一ミリでも近づきたい。写真撮影ができない時は見て覚えます。絵画研究は作品を見ることが一番大事なのです」。

直筆コメント「林泉之心」

Maxim

北宋時代の山水画家・郭煕の言葉。どんな素晴らしい芸術も、「林泉之心」でみればよいものとなり、悪い心でみればつまらないものとなる。「北宋時代の士大夫たちの内面の自由を尊ぶ藝術観がよく表れた言葉で、仕事も研究も何事にも常にこの『よい心』でのぞめるような人間になりたいと願っています」

Profile
塚本麿充(つかもと・まろみつ)

1999年東北大学文学部史学科東洋・日本美術史専攻卒業、2001年同文学研究科歴史科学専攻東洋・日本美術史博士課程前期修了・後期入学、2001~2003年南京師範大学美術学院留学、2003~2004年國立台湾大学藝術史研究所留学、2005年大和文華館学芸部部員、2010年東京国立博物館研究員、2015年東京大学東洋文化研究所准教授。第21回國華賞(展覧会図録賞)および第24回 國華賞受賞、第7回三島海雲学術賞受賞

取材日: 2020年1月17日
取材・文/佐原 勉、撮影/今村拓馬

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