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サステイナビリティへの道のり 東京フォーラム2019パラレルセッション「サステイナビリティに向けたトランスローカルアプローチ — SDGsの時代の新しい協創スキームを目指して」レポート

掲載日:2020年3月17日

このシリーズでは、地球と人類社会が直面する課題について議論し意見交換するためにスタートした国際会議「Tokyo Forum(東京フォーラム)」について取り上げます。東京フォーラムは東京大学と韓国の学術振興財団Chey Institute for Advanced Studies (CIAS) が共催し、 毎年開催されます。2019年12月6日から8日、本郷キャンパスで開催された会議には、政治、経済、文化、環境などの分野のリーダー120人以上が世界中から集まり、「Shaping the Future(未来を形作る)」というテーマで議論に参加しました。

世界のサステイナビリティの専門家たちにとって、自身のローカル、もしくは特定のプロジェクトがグローバルなサステイナビリティにどう関係するかは大きな関心事だ
  Credit: Jacob_09/Shutterstock.com

サステイナビリティとは何でしょうか? そして、なぜ私たちはそれを追い求めるのでしょうか?

東京大学で開催された「サステイナビリティに向けたトランスローカルアプローチ — SDGsの時代の新しい協創スキームを目指して」と題したパラレルセッションでは、世界中から招かれた講演者が一堂に会し、これらの疑問について議論を交わしました。このセッションは2019年12月7日に、「東京フォーラム2019」のプログラムの1つとして行われました。

国連開発計画(UNDP)が発表した「人間開発報告書 2019」によると、「持続可能な開発目標(SDGs)」とは、2015年に全ての国連加盟国によって採択された行動計画であり、2030年までに貧困に終止符を打ち、地球を保護し、すべての人々が平和と豊かさを享受できることを目指す普遍的な行動を呼びかけるものです。

味埜俊東京大学教授

国連はSDGsについて17項目から成る数値目標を設定しており、そこには貧困の解消、飢餓ゼロ、健康と福祉といったものから、ジェンダー平等、気候変動対策、平和と公正などの内容が含まれます。

このセッションのオーガナイザーを務めた東京大学の味埜俊教授は、新領域創成科学研究科で設立されたサステイナビリティ教育のカリキュラム開発に携わっています。セッションでは、味埜教授に招聘された様々な研究分野を牽引する16人の新世代研究者が、自身の研究プロジェクトについて講演しました。主なテーマは、ローカルの問題をサステイナブルな方法で対処することと、それがグローバルなサステイナビリティにどう関係するか、という点に置かれました。

 

また、このセッションには国際的に有名な3人のコメンテーターも参加しました。Secretaría General Iberoamericana 事務局長で元コスタリカ副大統領のレベッカ・グリンスパン氏、元ニュージーランド首相で前UNDP総裁のヘレン・クラーク氏、そして、東京大学教授で国連大学教授の沖大幹氏です。

セッション開催にあたり、次の2つの主な問いが提示されました。
・サステイナブルな社会の構築のために、人類全体にもローカルなコミュニティにも受け入れられる共通の価値とは何か?
・SDGsは人類全体にとっての包括的目標である。一方、ローカルな行動はそれぞれのローカルな事情で決まるものである。どうしたら、多様なローカルの事情を排除せずにサステイナビリティに向かって進むことが出来るのか?

ローカルの多様性

導入セッションでは、東京大学の2人の研究者による発表が行われました。東京大学東洋文化研究所の佐藤仁教授は、「逆サステイナビリティ」の問題に言及しました。佐藤教授は、ラオスやカンボジアなどの東南アジア諸国で行ったフィールド調査の結果に基づき、環境に優しいと思われる政策が、時には逆効果を招くことがあり、ローカルの人々に全く予期しない結果をもたらす可能性があると述べました。

その一例として、ラオスでは森林保全を目的とした政策が、結果的に森林破壊をもたらしたことを説明しました。カンボジアでは、世界的でも有数の生産性に優れた淡水漁業が行われているトンレサップ湖に対する漁業政策が、地元漁師の生活と湖の豊かな生態系を脅かす可能性が懸念されています。

東京大学の工藤尚悟助教は、「トランスローカルアプローチ」の概念を紹介するにあたり、北日本の秋田県と南アフリカのフリーステート 州の住民を対象に行ったフィールド調査について話しました。 どちらのコミュニティも、高齢化や人口減少といった同様の問題に直面しています。 しかし同時に、2つのコミュニティにおける地元住民はこのプロジェクトを通じ、双方の共通性だけでなく、「田舎」の概念をはじめとする双方の違いも認識するようになったと述べました。

導入セッションに続いて行われた「学際的・分野横断的な視点」と題したサブセッション1にでは、サステイナビリティのさまざまな側面が取り上げられました。

このセッションでは、ローカリゼーション、分野横断的な協創と理解の重要性、ローカルなコミュニティで人々が直面する課題について議論されました。

また、教育分野におけるボトムアップアプローチの重要性が強調されました。このアプローチは、子供やローカルのコミュニティから始まり、ローカルの政府、そして最終的にはグローバルレベルにまで及びます。

サブセッション1で座長を務めたマレーシア・国際イスラム大学センター長のザイナル・アビディン・サヌーシ氏は、SDGsの17目標の1つである福祉の概念について講演しました。 サヌーシ氏は、福祉という概念は様々な文化の中に存在することを指摘し、それぞれの文化では、福祉の概念および福祉を実現する方法についての考え方が異なると述べました。

サヌーシ氏に続いて登壇した英国、韓国、米国の講演者らは、インフラ、気候変動の影響、難民問題などの特定のテーマに焦点を当てた講演を行いました。

ソウル国立大学のリ・ワンヒ氏は、日本と韓国における都市化と熱中症リスクを比較し、人口増加、人口密度、医療アクセスの低下が両国における熱中症による死亡リスクの上昇と関連していることに警鐘を鳴らしました。

セッションの参加者らは、サステイナビリティ構築のプロセスの中で、ローカルの多様性を考慮することに賛同しました。

サステイナブルな目標への取り組みの難しさ

「地域的・文化的な視点」と題したサブセッション2では、ランド大学のバリー・ネス准教授が座長を務め、サステイナブルな目標に取り組むことの難しさがテーマとして扱われました。

このセッションでは、地域的および文化的な視点と、それらをグローバルレベルに適用させる方法が議論されました。延世大学のジョン・テヨン教授は、「サステイナビリティを目指したトランスローカルアプローチ」と題した基調講演で、「自然」資本と人的資本への投資の問題を取り上げました。

このセッションの講演者らは、いかにしてサステイナビリティの目標に取り組むべきか、そして、科学から土着的知識に至るまでさまざまなタイプの知識システムをどうやって集約するか、という点について議論しました。

参加者らは、経済成長がもはや豊かさを示す唯一の尺度と見なされておらず、人々がより良い生活の質とサステイナブルな変革を重要視するようになっている点について同意しました。

サンパウロ大学研究員のドリエリ・ペイエル氏は、現在ブラジルで進行中の、深海に掘削した岩塩洞窟に天然ガスと二酸化炭素を貯蔵する技術の開発プロジェクトについて紹介。このプロジェクトは、ブラジルのガスイノベーション研究センターによって推進されています。ペイエル氏は、このプロジェクトは「安価でクリーンなエネルギーへのアクセス確保」と「気候変動と戦うための行動」という2つのSDGs目標に直接貢献するのみならず、飢餓ゼロ、質の高い教育、パートナーシップの実現など、他の目標への間接的な貢献も期待されていると述べました。

チェンマイ大学講師のワラチダ・チャイヤパ氏は、地域エネルギー計画プロジェクトについて発表しました。このプロジェクトでは、ボトムアップのアプローチとステークホルダーの関与を通じて、地方・地域レベルでエネルギー政策が策定されます。チャイヤパ氏は、タイのエネルギー省に提出した最終報告書が、2020~2024年以降の国家的な最初の地域エネルギー計画として実施される予定であると述べました。

サブセッション2の議論に対するコメントとして、元ニュージーランド首相で前UNDP総裁のヘレン・クラーク氏は、サステイナビリティは達成可能であると主張する一方、適切なリーダーシップが必要だと述べました。

サステイナビリティに関する疑問

2つのサブセッションでの議論では、2つの基本的な疑問が示されました。サステイナビリティとは何か?そして、なぜそれを提唱するのか?参加者らは、グローバルの視点とローカルな要素との間にはギャップが存在することに同意し、さまざまな状況下にあるさまざまな人々にとってのサステイナビリティについて、普遍的な原則を確立する必要があると述べました。

総括セッションでは、参加者からさらなる疑問が提起されました。サステイナビリティはどのように定義され、誰が定義するのか?あるシステムが他のシステムを排除することなく、どうやって知識システムをサステイナビリティに統合するのか? どうやって議論を政治レベルまで引き上げるのか?誰がその緊急性を定義するのか?そして、どうやってこれをサステイナブルな方法で実行するのか?

東京大学生産技術研究所教授で国連大学の上級副学長も務める沖氏は、行動を起こす重要性を強調し、ある格言を紹介しました。「行動を伴わないビジョンはただの白日夢ですが、ビジョンを伴わない行動は悪夢です」

味埜教授は、東京フォーラムの最終日に開かれたサマリーセッションにおいて、サステイナビリティの専門家が意見交換できる場を継続的に提供する必要性を訴えました。

味埜教授は、「議論のプロセスは非常に重要です。セッションに参加した人々が新しいアイデアを思いつき、見識を広げられる可能性があるからです。それこそが議論において最も大切なことです」と述べ、「私たちはこのプロセス を続け、サステイナビリティに関する問題を追究したいと思います」と締めくくりました。

専門家たちは、グローバルの視点とローカルな要素との間にはギャップが存在し、さまざまな状況下にあるさまざまな人々にとってのサステイナビリティについて、普遍的な原則を確立する必要があると話した

この記事はUTokyo FOCUSに掲載された東京フォーラム2019についての英文記事の翻訳です。セッションの一部は東京フォーラムウェブサイト別ウィンドウで開くにて視聴いただけます。
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