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東京大学ネットゼロ計画のいま |GXと東大 02|菊池康紀准教授の巻

掲載日:2022年11月14日

このシリーズでは、GX(グリーントランスフォーメーション)に関する東京大学の取り組みを、キーパーソンへのインタビューを通して紹介します。持続可能な社会を地球のキャパシティの枠内で実現するための変革に向けて、東京大学は動き始めています。

UTokyoGXlogo

© neirfy / Adobe stock

1990年代から本格的に地球温暖化対策に取り組んできた東京大学の新しい試みの一つが、国連が主導するRace to Zeroキャンペーンへの参加です。世界中の企業や自治体、そして大学などが、2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ」を目指すこのキャンペーン。昨年10月に参加を表明してから、学内で議論や検討を重ね、10月31日にゴールに向けての行動計画「UTokyo Climate Action」を公表しました。

   
Kikuchi
菊池康紀准教授

大学のGHG排出量削減目標は、スコープ1、2、3(直接排出、間接排出、その他の排出)全体に関し、2030年までに2013年比で34%減、2040年までに67%減、そして最終的にネットゼロにするというもの。約40,000人の学生や教職員が日々研究や教育活動を行っている東大は、東京都内でも大きなGHG排出源となっていて、この目標に到達することは簡単ではありません。しかし教育や研究の効用を減少させず、むしろ加速させていくことを目標に削減を進めていきます、と話すのはClimate Actionを作成したGX推進分科会の中心メンバーである未来ビジョン研究センターの菊池康紀准教授です。

「正直、大いなるチャレンジです」と話す菊池先生。「大学はCO2を減らしていくことが難しい組織です。何か特定の製品などを作っているわけではありませんし、教育や研究の質や量を下げていくということもあり得ません。しかし、高効率化など取れる対策もたくさんあります。とにかくいろいろなことを考えて挑戦し続けていきます」

 

 

東大全体のCO2排出量を算定する

確実にGHG排出量を削減してくために必要なのが、正確な現状把握です。東大全体で、どのくらいの温室効果ガスを直接、もしくは間接的に排出しているのか。その算定自体が大変な作業で、約8か月かかったと菊池先生は話します。

環境影響を評価する方法論などを専門にする研究者でチームを組み、GHGの排出量をGHGプロトコルという算定・報告の国際的な基準に基づき、3つの種類 に分けて算定しました。スコープ1の大学自らによる直接排出と、スコープ2の学外から供給された電気や熱の使用に伴う間接排出の算定はこれまでも行っていて、削減自体も大学に供給されるエネルギーを低炭素化していくことで可能だと菊池先生は説明します。問題は、全体の排出量のなかで大部分を占めるスコープ3。スコープ1と2に入らない全ての間接排出を含むため、通勤や出張、購入した製品やサービス、そして調達物流などさまざまなものが入ってきます。スコープ3の算定の仕方にはいくつかあり、未だ完璧なものは無いとも言われています。そのような中、現時点で収集可能な情報源から、適用可能で最適な方法について議論し算定してきました。まず、全ての部局の財務データを洗い出すことから始め、消耗品などをリストアップし、一つ一つの製品に対して、製造から破棄までのGHG排出量を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)を行った、と菊池先生は説明します。「算定結果から感じたのが、やはりスコープ3が排出量のなかで大きいということです。消耗品の量や、建物を建設するときにかかる環境負荷というのはそれなりの量があると感じます」

スコープ3は研究活動や教育活動に直結するものが多く、東京大学だけの努力でも削減できません。どうやって学内外で連携していくかが大きな課題だと菊池先生は指摘します。「物を購入するときに、どういうものを買うかってことも考えなければいけないですし、もっと言うと、例えば私たちが使用するパソコンなどの製品を作っている企業と一緒に、どのようにCO2を減らすのかを考えていかなければいけないと思います」

また、環境に配慮している製品の積極的購入や環境負荷減少に寄与する研究や教育活動以外にも、太陽光パネルの設置や廃棄物処理の委託先の選定、そして東大生協の学食メニューに環境負荷情報を併記することによって行動変容を促すなど、できることを考え、今後の取り組みとして検討しています。

今後、年1回以上アップデートをしていくとういう東大のClimate Actionはまだ未完成で、記載したとおりのことをやればGHG排出量がゼロになるというものではないと菊池先生。「これはRace to Zeroキャンペーンだけのために作ったのではなく、東京大学がこの気候変動というものに対してどのように取り組んでいくのか、ということを社会と対話するためのドキュメントになっています。いろいろな東大の状況を情報開示し、学内外の方々と対話をしながら、大学としてどのような活動を展開していくかということを考え、進めていきます」

現在日本の大学でこの国連が主導するキャンペーンに参加するのは、東大と千葉商科大学のみですが、他の大学にも是非参加してほしいと菊池先生は話します。「このClimate Actionは算定部分など他の大学が真似しやすいよう作っているので、今後参画してくれる大学が増えてくればと願っています」


東京大学のGHG排出量削減計画。スコープ1,2,3全体に関し、 2030年までに2013年比で34%減、2040年までに67%減、そして最終的にネットゼロにする計画です。スコープ1は事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセスなど)。スコープ2は他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う間接排出。スコープ3は、スコープ1 & 2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)。

 

スコープ3に含まれるGHGの排出源。 UTokyo Climate Actionの概要 より抜粋

学内外との連携

ネットゼロは東大単独の努力だけで実現することは非常に難しい目標です。しかし、GHGを2030年度までに2013年度比で46%削減するという目標を政府が掲げ、多くの企業や団体が対策を進めている今なら計画どおりに削減を推進していけるはずだと菊池先生は考えています。「大事なのは、どこかが失敗するとみんなが倒れるということです。このネットゼロへのレースは誰かが勝つのではなく、みんなでゴールを迎えなくてはいけません」

学内周知にも力を入れ、9月に開催した対話集会などを定期的に開催していくことで、連携を強化していきたいと菊池先生は話します。特に東大の構成員の約3分の2 を占める学生を巻き込んでいく仕掛けを作りたいと考えています。そして菊池先生が期待しているのが、研究者の連携です。学内には地球温暖化に関連する分野の第一線を走る研究者が多くいますが、これまで横の連携がなかなかできていませんでした。「このプロジェクトが、学内の構成員として先生方も一緒に連携して取り組んでいただける、そんなきっかけや場になればと思っています。連携することによって、そのシナジー効果のようなもので、ものすごいことができるのではないかと期待しています」

ネットゼロの流れを上手く利用して、教育と研究活動をさらに強化していきたいと話す菊池先生。「ネットゼロやサステイナビリティなどを議論するときに、我々自身の組織も変わっていく意志を同時に示していくことで、研究成果の信憑性も高めることができると思っています。教育と研究のために皆で東大のネットゼロを達成していきたいと思っています」

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