ボードゲームからビジネスまで、多分野で有用なゲーム理論
遊戯としてのゲームの解析だけでなく、社会問題解決にも有用な「ゲーム理論」。
経済学の分野ではほぼ全ての研究者が学んでいるというゲーム理論とはどういうものなのか。
その知見はなぜ課題解決に役立つのか。
難解ゲーム理論とその応用を研究してきた野田俊也先生が紹介します。
プレイヤーの行動選択を俯瞰的に分析する
経済学研究科講師
NODA Shunya
「ゲーム理論」という言葉を聞いたことはありますか?ボードゲームのように、それぞれ異なる目的を持つ複数のプレイヤーが、自分にとって最も得になる行動を選ぶ状況において、全体として何が起こるのかを分析する学問です。
プレイヤーが1人だけのときに最善手を選ぶのは単なる最適化問題です。しかし複数のプレイヤーがいると、自分にとっての最善手が何かは相手の行動に依存するため、複雑になります。例えばジャンケンを考えてみましょう。相手がグーを出すならパーが最善ですが、相手がチョキを出せばパーは最悪の手です。また、相手がグーを出すかチョキを出すかが事前にわかればそれに対して勝つ手を選ぶのは簡単ですが、ジャンケンは同時に手を出すため、相手の行動を予想する必要もあります。
ゲーム理論は、このような状況で、各プレイヤーの手番における取れる行動の種類・観測できる情報・その後のゲームの進行・帰結の良し悪し(勝ち・負け・〇〇点など)などを数学的に整理して、プレイヤーが相手の行動をどう予想し、どのような行動を選ぶのかを俯瞰的に分析します。ポーカーでどういう手札のときにレイズすべきかなど、遊戯としてのゲームの分析にも使われますし、必勝法の探索や、ゲームAIの開発にも応用されています。


科学で活用されるゲーム理論
ゲーム理論は、経済学・政治学・生物学・工学・計算機科学など多くの学問分野を支える重要な基礎理論です。特に現代の経済学においては、ゲーム理論は基礎研究でも応用研究でも多数のノーベル賞の受賞テーマとなるほど重視されており、ほぼすべての研究者がゲーム理論を学んでいます。その理由はシンプルで、社会のほとんどの状況に複数のプレイヤーが関わっているからです。
例えば企業が利益を最大化するために新商品の価格を決める問題を考えても、その商品の売上は、自社の価格設定だけではなく、競合企業の価格設定に影響を受けます。互いの出方をゲームのように分析しなければ、最適な価格を設定できません。
私が専門とするマーケットデザインは、社会における状況をゲームとみなして構造を明らかにするゲーム理論の分析をさらに一歩進めて、望ましい「ゲームのルール」(=制度)を設計する学問です。オークション、保育園の入園調整、入試など、様々な場面において、制度次第で参加者のインセンティブや行動は大きく変化します。マーケットデザインは、設計した制度の下で参加者がどう行動するかまで予測・分析した上で、望ましい制度を数学的に導出します。この知見を活かした制度は、すでに多くの場面で社会実装されています。
経済学、特にミクロ経済学の研究では、社会的課題を取り巻く環境の構造を、ゲーム理論を使って分析し、その原因を突き止め、解決することを目指します。もしあなたがボードゲームのプレイングに自信があり、あなたのゲームを分析する力を社会課題の解決に役立てたいと思ったら、ぜひ経済学を学んでみてください。
- 野田先生の推しゲー
- 『レジスタンス:アヴァロン
』(ホビージャパン)
「嘘をつく、正体を見破ることを楽しむ『人狼』のような正体隠匿系のボードゲームですが、誰も最後まで脱落しないので、全員が最後まで楽しめます」 
- 『ゲーム理論の〈裏口〉入門
』(野田俊也著、講談社サイエンティフィック、2023年) - ボードゲームのプレイ体験を通じて、ゲーム理論への導入を行う入門書。様々なボードゲームを題材に、ゲーム理論のエッセンスを学べます。


