広報ツールからRRI教材へと進化したカードゲーム『ひみつの研究道具箱』
日本科学未来館で科学コミュニケーターとして活躍した後、工学のあらゆる分野を対象とする生産技術研究所(生研)の広報を2017年から担当している松山桃世先生。
生研発の最新技術を社会課題解決につなげる方法を楽しみながら考える大喜利系カードゲームを開発し、科学コミュニケーションの可能性を広げる活動を続けています。
70周年事業の一環でゲームを考案
生産技術研究所准教授
MATSUYAMA Momoyo
2019年、生研70周年事業の一環で、戦後まもなくのロケット開発で縁がある各地をつなぐコンソーシアム
が設置されました。そこで、それぞれの地域が抱える課題の解決に生研のどの技術が役立ちそうか、各地の人々とともに楽しみながら知るツールは何かと考えて作ったのが、『ひみつの研究道具箱』です。
およそ120のラボから最新技術を選び、52枚の「技術カード」を作成しました。表には技術名を、裏には技術の概要と用途例を短く記しています。たとえば「マイクロニードル」なら、概要は「目に見えないほど小さく、体の中で溶ける注射針」で、用途例は「貼るワクチン、肌の奥まで届く美容シート」です。もう一つのカードは「ピンチカード」で、日本全体が水不足に、南海トラフで大地震が発生、致死率の高い感染症が発生といったピンチの例が書かれています。
ゲームの参加人数は5-6人が基本。ビーズ(持ち点)を5個ずつ配り、8枚の技術カードをランダムにめくります。示されるピンチごとに、最大8種の技術を自由に組み合わせて解決策を考え、順に発表。他の人がアイデアを評価して0~2個のビーズを渡します。それを繰り返し、ビーズが0になる人が出るか、発表する人がいなくなったら、終了。ビーズが一番多い人が勝ちです。
ピンチに対する姿勢は人それぞれで、議論が噛み合わないことはままあります。たとえば「台風が来て大きな被害が出そうだ」というピンチの場合、インフラを強化する、人を避難させる、台風を人がいない地域に誘導する……と、被害減少の願いは同じなのに違う考えが出てくる。課題を具体的に分解し、判断の価値基準の多様さに気づけるのがこのゲームです。

技術カードの裏には技術の概要と用途例の紹介が。

では体験版がプレイ可能。最新技術についての解説記事も読めます。技術をよりよく使うために
新技術が社会に導入されると、生活や価値観に影響を与え、工学以外の領域、たとえば倫理的な問題や法的な問題を引き起こすことがあります。技術をよりよく使うには、他の諸学問の視点が必要です。当初は生研の技術の紹介を意識していましたが、いまではRRI(責任ある研究・イノベーション)を考える教材ツールという色が強まっています。
これまで、駒場IIキャンパスや柏キャンパスの一般公開、JST「サイエンスアゴラ」など、多くのワークショップで使われてきました。2024年3月にURAが集まる「人文・社会科学系研究推進フォーラム」で使われた際には、文系分野の技術カードが追加され、文理融合の議論で盛り上がりました。販売はありませんが、学校向けに貸し出しをしています。最近は企業からの照会も入るようになり、自社の製品・サービスと生研の技術を組み合わせた新展開の検討に使われています。ゲームで出たアイデアの実現を探る流れが産学連携につながることを期待しています。
2017年にアウトリーチ活動を行った際、「この研究ではこの点が心配だという声を聞けてよかった」と喜ぶ研究者を見て、市民の声が届くことで研究者も得るものがあると気づきました。一般公開の来場者が葉状の短冊に書いた願いに研究者が答える企画を実施し、生研ウェブマガジン「もしかする未来 Case#UTokyo-IIS
」の記事にコメント応答欄を設けているのは、そうした気づきからです。科学コミュニケーションは研究者→市民の流れで捉えられがちですが、私は市民→研究者の方向性に面白みと可能性を感じています。
- 松山先生の推しゲー
- 『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム
』(任天堂)
「RPGだと取り組むイベントの順がだいたい決まっていますが、これはゴールに至る道のりの自由度が高くて好きです」


