合理より情熱を選んだ伝説の格闘ゲーマーは業界の氷河期をも解かす
2018年にTBS『情熱大陸
』が紹介した東大卒の格闘ゲーマーがいます。
マテリアル工学の研究者を志した大学院生は、いかにしてプロゲーマーの道を選んだのか。
鍵は氷をも解かす「情熱」です。
周囲に反対されてもプロの世界へ
プロ格闘ゲーマー/株式会社CELLORB取締役
TOKIDO (TANIGUCHI Hajime)
CELLORB(セルオーブ)

格闘ゲームのプロとして活躍する谷口さんは、以前愛用した必殺技のセリフの頭文字をつなげた「ときど」の名で知られています。その舞台は『ストリートファイター』。1日12時間以上練習し、海外大会への遠征は年に10回ほど。世界最大の格闘ゲーム大会EVO
で3度優勝し、昨年には殿堂入りを果たしました。冷徹に合理性を追求する戦いぶりからついた異名は「アイス・エイジ」。誰もが認めるレジェンドですが、最大の自己評価は戦績の部分ではないそうです。
「先が見えない業界で生きることを25歳で決め、皆に反対されるなか、好きなことへの情熱だけを信じて飛び込んだ。一番誇らしく思うのはそこです」
麻布高校の頃から大会で活躍した後、一浪して理科一類へ。工学部マテリアル工学科の研究室の先輩から情熱の炎を呼び覚まされ、液体の粘性の面白さに覚醒するも、院試では所属研究室の基準に届かず。仕方なく別の研究室に入ったものの、一度軋んだ歯車を元に戻すのは困難でした。研究室から足が遠のき、大学の門まで来ては引き返す日々。人間関係もうまくいかなくなり、2010年、中退の道を選びました。
「研究室の皆さんには本当に迷惑をかけてしまいました。3年前、学内のイベントに呼ばれて久々に本郷に来たら、西片門を跨ぐときにまた動悸がして……」

」の格ゲー部屋(虎ノ門)にて。

道場に集まって練習する意義
現在、格闘ゲームで生計を立てるプロは日本に50人ほど。ときどさん所属のチームには複数人のプロがいます。大会は基本的に個人戦ですが、「ストリートファイターリーグ
」は唯一の団体戦。4人1組で臨むチームのキャプテンは、4人が道場に集まって練習することを重視しています。
「2024年は皆で集まる機会が足りず、2位どまりでした。同じ空気を吸う状況だと、いまならこう言えるとか、ここは厳しく言っちゃダメだといった機微がわかります。他チームに差をつけるならオフラインのコミュニケーションが重要だと信じています」
日本のプロゲーマーの道を開拓してはや15年。そろそろ加齢から衰えを感じるのが世の常ではないかという問いを、開拓者は一笑に付しました。
「大会で頻繁に起こるルール変更に適応する柔軟さは確かに若い人のほうが上ですね。でも、幸い反射神経も視力も昔と全然変わりません。もちろん情熱も」
自分の価値は「ゲームに人生を捧げていること」だと強い目で語るときどさん。かつて日本の格闘ゲーム界を襲った氷河期が終了した要因には、「東大卒プロゲーマー」の滾る情熱が少なからず含まれています。
- 『東大卒プロゲーマー 論理は結局、情熱にはかなわない
』(PHP新書、2014年) - 半生を綴る著書。東大にはゲームをしていたのに入れたのか、ゲームをしていたから入れたのか。答は後者。
- ときどさんの推しゲー
- 『ストリートファイター
』(カプコン)
「数ある格闘ゲームのなかでも、自分にとって魅力的なライバルが多かったのが、このゲームなんです」


