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水損、虫損、カビ、固着……傷んだ歴史資料を修復する|森本祥子

掲載日:2026年10月6日

水損、虫損、カビ、固着……傷んだ歴史資料を修復する

近代以降に作成された比較的新しい資料にも、さまざまな要因により劣化が進んでいるものがあります。
法人文書や大学史に関する資料の保存と活用をミッションとする文書館が行っている、アーカイブズ資料を「元気な状態」で未来に伝えるメンテナンスの取り組みについて、森本祥子先生が紹介します。

資料ごとに「どこまで修復するか」を選択

文/森本祥子
MORIMOTO Sachiko
文書館准教授

東京大学文書館では、歴史的に重要な大学の文書や、大学に関わる様々な歴史資料を保存・活用しています。その多くは紙媒体で、かなり傷んだ状態で当館にたどりつく資料も少なくありません。文書館では、資料の劣化状態、限りある予算や人手、利用ニーズなどを勘案し、どの資料にどのような手当てをするかを決めています。ここでは、ふたつの異なるアプローチをとった修復事例を紹介します。

事例1は、必要最小限の修復にとどめたケース。この資料は水損・虫損で劣化がひどく、まったく利用不可能でした(写真1)※1。この資料については、修復後は原則として原本は利用せず、閲覧はデジタル複製で対応するという方針を立てました。つまり、資料はこれ以上劣化が進まず、複製作成のための一度限りの撮影に耐えられればよしとする、必要最低限の修復にとどめることにしたのです。

その結果、この資料は、固着した紙をはがし、クリーニングをし、虫食いの穴を可能な限り簡易かつ軽度の接着で埋め、用紙のうねりを取る、という修復を施すこととなりました。元は綴じられた簿冊でしたが、修復後は綴じなおさずに一枚ずつ重ねて保存箱に収納するにとどめることとしました(写真2)。

事例1
写真1:和紙に墨書きされた明治期の資料群
写真2:修復後は綴じずに箱に収納

重要文化財資料は簿冊の原形を維持

事例2は、元の形に戻すところまで修復することにしたケース。この資料も今後は原則としてデジタル複製での利用を予定していますが、それでも綴じなおして元どおり簿冊のかたちにするという選択をしたのは、これが重要文化財であって原形維持が求められているためです(写真3)※2。

簿冊形態でも扱える状態まで強度を持つよう修復するには、一つ目の資料のような最小限の補強では済みません。和紙と異なり質の悪い洋紙は酸性劣化で紙端や折れ目を中心にボロボロに崩れていくので、そうした箇所をひとつひとつ補強し(写真4)、錆びて紙を劣化させる金属類を除去してコヨリに取り換え(写真5)、最後は簿冊として綴じなおして完成です。修復前と同じ形まで戻りました。

修復によって資料が甦ることは言うまでもありませんが、同時にその修復手当て自体が資料に負荷をかける側面もあります。不要な手当てはしないに越したことはないのです。できるだけ少ない手当てで資料を甦らせ、将来にわたって安全に利用できるようにするため、資料一点ごとに最適な修復方法を探っています。

事例2
写真3:昭和期の法人文書を綴った簿冊
写真4:酸性劣化の破れ修理
写真5:ステープラー針の除去

※1:写真はいずれも修復士による撮影。写真1、2は花谷敦子氏(紙資料修復工房)、写真3~5は小笠原温氏(鶴見修復工房)。
※2:写真4~5は、同様の方針で修復した同様の劣化状態だった別簿冊のもの。

お知らせ

10月23日・24日の柏キャンパス一般公開別ウィンドウで開くでは、普段入れない文書館の収蔵庫が公開されます。今回は赤門に関する資料紹介の予定も。

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