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東京フォーラム2019を開催 世界の有識者が一堂に会し、人類の課題解決への道筋を議論

掲載日:2019年12月19日

このシリーズでは、地球と人類社会が直面する課題について議論し意見交換するためにスタートした国際会議「Tokyo Forum(東京フォーラム)」について取り上げます。東京フォーラムは東京大学と韓国の学術振興財団Chey Institute for Advanced Studies (CIAS) が共催し、 毎年開催されます。2019年12月6日から8日、本郷キャンパスで開催された会議には、政治、経済、文化、環境などの分野のリーダー120人以上が世界中から集まり、「Shaping the Future(未来を形作る)」というテーマで議論に参加しました。

© Hiroyuki Shima

アジアで最もパワフルな実業家である孫正義氏とジャック・マー氏が初めて出会ったのは2000年のこと。お互いが、インターネットを通じて世界に大変革を起こそうとしている起業家同士だとたった10分間で気づいたそうです。それから20年近く経った今も、「友人でありパートナー」である2人は、デジタル革命に強い情熱を持ち続けています。ただ、2人の夢の中心はいまや、人工知能(AI)の分野に移っています。

孫ソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長は、「次の10年、(AIへの)投資をもっと増やし続けていきます。世界には引き続き変革が必要だからです」と述べ、一千億ドル規模の投資ファンド「ビジョン・ファンド」を通じて、スタートアップへの支援を続ける意欲を示しました。孫会長は、世界を変えるために自身の支援を利用できる「若く、クレイジーで情熱的な起業家」を見分けることに関心があります。

2019年12月6日、東京大学で開かれた東京フォーラム2019の特別対談で、笑顔を交わすソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長の孫正義氏(中央)とアリババグループ創立者のジャック・マー氏(右)。モデレーターはキャスターの小谷真生子氏が務めた

一方で、アリババグループを小さなスタートアップから中国最大のeコマース企業に育てた創立者の1人であるマー氏は、変革の時代に備えて人々を教育することに関心を持っています。「教育の方法を変えなければなりません。子どもたちが創造的、建設的で、革新的になれるように」

この二大起業家は、東京フォーラム2019の初日、12月6日に東京大学で行われた特別対談に参加しました。3日間の日程で開催された東京フォーラムは、ビジネス、テクノロジーから政治まで、幅広い分野における世界的なトッププレイヤー間の議論の場となることを目指す、野心的で新しい試みです。東京フォーラムのテーマは「Shaping the Future(未来を形作る)」で、孫氏やマー氏といった実業界の代表者、元首相、ノーベル賞受賞者をはじめ、明日の世界で重要な役割を果たす数多くの分野の専門家が一堂に会しました。東京大学と韓国の学術振興財団Chey Institute for Advanced Studies(CIAS)の共催で開かれたこの会議では、120名を超える講演者が意見を共有しました。

社会を一変するデジタル革命

五神真東京大学総長は、数多い重要議題の中で、孫氏とマー氏の対談の議題でもあったAIを含むデジタル革命が、社会の変化を理解するための鍵であると強調しました。

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五神真東京大学総長
 

「デジタル革命は、困難な社会問題を解決し、インクルーシブな未来社会をつくるための絶好の機会です」と、五神総長は開会挨拶で述べました。「一方で、デジタル革命には格差を大きくする危険性もあります。データは、すでにあるところに蓄積する傾向があるからです」

五神総長はまた、東京大学は社会課題の解決に向けて取組んでいく、と決意を述べました。

「デジタル革命の恩恵をみんなが享受できるよう、多くの人を巻き込んで協力していくよう促すことが重要です。それを実現するためには2つのことが必要です。1つ目は、未来について共通のビジョンを共有し、それを目指して強い意志を持って努力することです。2つ目は、社会問題の解決に貢献してもらえるよう、人々、特に若い人を促すことです。大学は、この両方を進めるのに最高の場所です」

この東京大学とCIASの協力プロジェクトは、日本と韓国の外交関係が不安定となっている時期に実施されました。この規模での会議開催は、政治的確執が続く中で、二国間関係をよりポジティブな方向に変えたいという、両国の学術界と実業界のリーダーたちの希望を象徴するものです。

「今こそアジアが世界の舞台でその役割を果たし、影響力を持って発言するときです」と、CIAS理事長であるチェ・テウォンSKグループ会長は開会挨拶で述べました。「私たちは本当のコミュニティとなり、違いを乗り越えなければなりません。例えば、貿易投資分野の協力を増やしていきましょう。また、政策当局には、両国共通の学術的・文化的関心について思い出させなければなりません。解決策を模索し、不要な行き詰まりを避けるよう、政策当局とも協力していきましょう」

日韓関係の未来

東京フォーラムでは、日韓の実業界のリーダーが両国に関連する問題を議論するセッションも開催されました。

2019年12月6日、日韓財界リーダーによるパネルディスカッションの中で発言する韓国SKグループ会長で学術支援財団CIAS理事長のチェ・テウォン氏(中央)。CIASが東京大学と共催した東京フォーラム2019にて。左は韓日経済協会会長のキム・ユン氏、右は中西宏明経団連会長

キム・ユン韓日経済協会会長は、長く続く外交的確執が、日本の化学メーカーや部品メーカー、韓国の半導体メーカーなどのグローバルなサプライチェーンを混乱させると日韓の実業界のリーダーが強く懸念している、と述べました。キム氏は二国間関係を正常な状態に回復させるための3つの提案をしました。自国で就職できず困っている韓国の若者が、深刻な人手不足状態に悩む日本で就職できるよう支援すること、AIやIoT(モノのインターネット)、無人運転やロボット技術といったテクノロジー分野で起きつつある「第四次産業革命」で、両国の協力を奨励すること、そして外国で事業を展開するための合弁企業を両国の企業に作ってもらうことです。これらの協力は、これからの世代にとって二国間の緊張緩和に役立つだろう、とキム会長は述べました。

中西宏明経団連会長は、キム会長の提案に同意し、産業化によって生じる社会的課題の解決という、時に困難なプロセスをすでに経験した両国が、他のアジア諸国での同様の社会的課題の解決に協力して支援するべきと提案しました。

変化するアジアの地政学

東京フォーラムでは、中国の台頭と米国との対立に付随する北東アジアの地政学的転換についても議論されました。

ヘリテージ財団の創設者であるエドウィン・フルナー氏は、米中間で続いている貿易摩擦はすぐには解決しないと予測しました。理由の一つは、米国憲法にも記されている知的財産権に関する不一致。もう一つの理由は、中国に対する世界銀行の低利融資です。「世界で第二の経済大国でありながら、未だに発展途上国でありつづけることはできません」とフルナー氏は述べ、中国は世界銀行における発展途上国としての位置付けから脱却すべき時期に来ていると話しました。

フルナー氏はまた、米国が北東アジアへの関与を減らす可能性についてはっきりと否定しました。「米国は北東アジアにとって長年にわたるプレゼンスであり続ける」とフルナー氏は述べました。「米国と、ここ日本との二国間関係、そして海を挟んだ韓国との二国間関係の両方とも、私たちは極めて強く信じています。(中略)米国は北東アジアに留まり、北東アジアの平和に変わらず注力していくでしょう」

張蘊嶺中国社会科学院教授は、北東アジアの地政学的状況についての中国の見方を提示しました。「新たに起こった大きな変化は、中国の台頭です」と張教授は述べました。「中国の台頭が、勢力構造、勢力関係を大きく変えました。(中略)中国の台頭をどのように受け入れ、適応すればよいのでしょうか。中国は、異なった制度と文化を持ち、そしておそらくある程度、異なった文明を持つ、異なったものなのです。(中略)どうやってこの種の台頭を受け入れていくのか。これは大きな課題です」

張教授はまた、この地域が複数の極めて重要な問題に直面していると述べました。つまり、米中間で新たに発生した戦略的競争や、北朝鮮の核兵器開発、それに中国・韓国・日本の関係再構築の必要性です。「こういった問題すべての中で、最も重要なのは平和です。この地域で再び戦争を許してはなりません」

地域に平和と安定が必要な一方で、「中国は既存の関係性と秩序を受け入れることに躊躇しています」と張教授は述べました。「中国はどんな関係性や秩序を作ることができるのでしょうか。中国自身では(完遂することは)できないと思います」と張教授は述べ、中国は武力衝突を避けるために、国際的なパートナーと共に平和と発展という戦略を取っていく必要があると話しました。

ミドルパワーの重要な役割

より広い世界的な視野からは、自由民主主義が衰退しポピュリズムが台頭していると見受けられる時代の「ミドルパワー」(超大国ではないが、議論形成のための国際的な役割を果たすだけの力を十分に持った国)の役割について、2人の首相経験者が議論を行いました。

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元ニュージーランド首相、前国連開発計画(UNDP)総裁のヘレン・クラーク氏
 

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元イタリア首相でパリ政治学院国際関係学部長のエンリコ・レッタ氏

エンリコ・レッタ元イタリア首相とヘレン・クラーク元ニュージーランド首相との特別対談の中で、クラーク元首相は、民主主義制度と多国間主義の両方が非常に大きなストレスに晒されている今日、すべての国が多国間ルールに基づいた秩序を支えるために全力を尽くすべきだと話しました。「政治的な価値観や政治制度における共通点が本質的には多くないかもしれない国々も含め、対話を継続し、働きかけること」が重要だとクラーク元首相は強調しました。

レッタ元首相もまた、ミドルパワーを重要な役割を果たすものと捉えています。気候変動や個人データ保護など、新しく複雑な問題を扱うための多国間主義を強化するべく、「今こそ、異なった諸国グループ間の大連合、そしてミドルパワーの大連合を行う時だと確信している」と述べました。

東京フォーラム3日目(最終日)の12月8日には、中国、日本、韓国からの招待講演者による特別講演が行われました。

林毅夫前世界銀行チーフ・エコノミストは、中国の一帯一路について、発展途上国が近代的な産業国家に変わっていくために必要視されているインフラの構築に役立つ、と述べました。アーティストで東京藝術大学准教授のスプツニ子!氏は、未来の課題と機会の両方を考えさせるスペキュラティブ・デザイン分野における自身の作品について説明しました。

そして韓国からは、リ・コンホENUMA共同創立者が、教育の機会を奪われた子どもたちを支援するために開発されたアプリを使って試験的に行われ成功したプロジェクトについて述べました。

東京フォーラム1日目には、建築家の隈研吾東京大学工学系研究科教授、元コスタリカ副大統領のレベッカ・グリンスパン・イベロアメリカ事務局事務総長、2001年ノーベル化学賞受賞者の野依良治氏も基調講演を行いました。

一般常識では答えが出ない複雑な状況に直面する今、世界と人間をどう変えていくべきか、最善案を見つけ出すための議論を喚起すべく、東京大学とCIASは東京フォーラムを毎年開催することで合意しました。

2019年12月6日、東京フォーラム2019会場の安田講堂に集まった数百人の参加者
 

この記事はUTokyo FOCUSに掲載された東京フォーラム2019についての英文記事の翻訳です。セッションの一部は東京フォーラムウェブサイトにて視聴いただけます。

 

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