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ヒゲの謙虚な理論屋が、数学と物理、学問の過去と未来を架橋する | 立川裕二 | UTokyo 30s No.2

掲載日:2019年10月1日

やらいでか!UTokyo サーティーズ
淡青色の若手研究者たち

約5800人いる東京大学の現役教員の中から、30代の元気な若手研究者を9人選びました。職名の内訳は、教授が1人、准教授が2人、特任准教授が1人、講師が1人、特任講師が1人、助教が3人です。彼/彼女らは日々どんな研究をしているのか、そして、どんな人となりを持っているのか。その一端を紹介します。(広報誌「淡青」39号より)
※2019年9月10日現在での30代を対象としています。

理論物理学(素粒子論)

ヒゲの謙虚な理論屋が、数学と物理、学問の過去と未来を架橋する

立川裕二
Tachikawa, Yuji
カブリ数物連携宇宙研究機構教授
写真
黄色の壁が印象的な機構の廊下にて。「私の研究は直接世の役には立ちません。他分野の同様の研究には親近感があります」 写真:貝塚純一

物質を、分子、原子、電子と細かく分解した最後にある素粒子。これを粒でなく紐であると考えるのが弦理論です。そして、弦理論に関連する「場の量子論」の研究者として知られるのが、36歳の若さで教授となった立川先生です。場の量子論とは何なのか。一般人には当然難解ですが、数学者にとっても同じでした。

「物理学の様々な面で有効な数学的理論の一つで、素粒子の標準模型の記述や、物性理論でも重要な役割を担います。量子力学や一般相対論なら数学者に説明できますが、場の量子論ではできません。でも、そこで扱う計算は実験結果とよく合い、数学と物理学に多くの発見をもたらしてきました。そこが面白い」

早くから天才と噂された立川少年。高校時代には数学オリンピックで活躍し、先生の模範解答を上回る解法で周囲を驚かせた逸話も伝わりますが、東大理学部に進学して選んだのは物理学でした。

「終始厳密さが求められる数学と違い、物理では直観が許される面もあると気づき、物理のほうが向いている、と思ったんです」

以来、数学と物理学の橋渡しをしてきた理論物理屋には、世界が認めた功績があります。「AGT対応」と「マシュー・ムーンシャイン現象」の発見です。前者は発見者3人のイニシャルから、後者はマシュー群に関する荒唐無稽な発見といった文脈でついた名。どちらも異分野にまたがる共通性を見出し、数学と物理の新しい研究テーマを創出するものでした。

「AGTはプリンストン高等研究所時代に同僚が考えた説を頼まれて検証しただけ。マニアックな計算をできるのが私ぐらいだったんです。もう一方は、江口徹先生、大栗博司先生とともに、大栗先生の20年前の博士論文に載った数列と岩波数学辞典の数表との一致を見つけたもの。たまたま幸運だっただけで、功績というのは面映ゆいです」

十年来のばしているヒゲが似合う先生は謙虚ですが、それが幸運だけの賜物でないことは、ヘルマン・ワイル賞、西宮湯川記念賞、基礎物理ニューホライズン賞などの名だたる受賞歴が証明しています。

「今後は研究者として学生に有意義な助言ができるようになりたい。人生の総研究時間の半分を消費した身で思うのはそんなことです」

学部生の頃は当時流行っていた別のテーマを研究していた、と立川教授。亡き恩師・江口先生の助言を聞いて方向を変えていなければ、現在の姿はなかったのかもしれません。研究室の書棚では、捨てられかけているのを見つけて譲り受けたという古めかしい物理論文誌集の厚い背が、大学という場の意味を物語っているようでした。


 

Q & A
趣味は?休みの日には何を? 「Macのプログラミング」「小さい子どもを連れて公園へ」
幼少時の記憶が少ないそうですね? 「七五三のときに飼い犬のトムに引きずられた記憶があるくらいです」
学生時代、研究以外の思い出は? 「『ピアノの会』にいましたが、会長選の派閥争いを見てやめました」
30代になって感じることは? 「頭の回転が20代より鈍くなった。亀の甲より年の功でがんばります」
理学部物理学図書室から譲り受けた “Progress of Theoretical Physics” 創刊号。戦後すぐの発刊

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