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真珠などが形成される仕組みを生命化学と鉱物化学の間で解明 | 鈴木道生 | UTokyo 30s No.3

掲載日:2019年10月8日

やらいでか!UTokyo サーティーズ
淡青色の若手研究者たち

約5800人いる東京大学の現役教員の中から、30代の元気な若手研究者を9人選びました。職名の内訳は、教授が1人、准教授が2人、特任准教授が1人、講師が1人、特任講師が1人、助教が3人です。彼/彼女らは日々どんな研究をしているのか、そして、どんな人となりを持っているのか。その一端を紹介します。(広報誌「淡青」39号より)
※2019年9月10日現在での30代を対象としています。

バイオミネラリゼーション

真珠などが形成される仕組みを生命化学と鉱物化学の間で解明

鈴木道生
SUZUKI, Michio
農学生命科学研究科准教授
写真
弥生キャンパスにある分析化学研究室にて。「巨人の肩に乗るよりも自分が巨人……いや、中人ぐらいにはなりたいです」 写真:貝塚純一

生物が無機鉱物(ミネラル)を作り出す作用をバイオミネラリゼーションといい、生物が作り出した鉱物をバイオミネラル(生体鉱物)といいます。代表的なのは、真珠、貝殻、サンゴの骨格、エビやカニの外骨格など。私たち人間の骨や歯、そして尿路にできる結石もその仲間です。こうしたバイオミネラルは、非常に緻密な構造と優れた材料特性を備えますが、どんな仕組みで形成されるのかはよくわかっていませんでした。そのメカニズムの一端を、真珠養殖に用いるアコヤガイを例に解明したのが、鈴木先生です。

「アコヤガイの貝殻は、真珠と同じ虹色の光沢を放つ真珠層、その外側の稜柱層、さらに外側の殻皮、蝶番部の靱帯に分かれます。真珠層の微細構造を化学的に分析した結果、Pifという新規の基質タンパク質が鍵であることがわかりました。Pifが炭酸カルシウムの結晶と相互作用して真珠層の形成を制御していたのです」

これは有機物と無機物の両方に通じていないと無理な試みでした。化学の世界では両者をわけて捉えがちですが、農学生命科学研究科で生命化学を専攻し、理学系研究科と海外の研究所で無機鉱物の解析手法を会得していた鈴木先生にとっては自然なことだったのです。

「生体鉱物のトップ研究者が集結するイスラエルのワイツマン科学研究所での1年間は刺激的でした。帰国後、ポスドクの身でしたが、研究室の後輩と結婚しました。当時は1年ごとに任期がやってきて、落ち着くのを待っていたら結婚なんてできない、と思ったので」

バイオミネラル生産機構の解明は「やっと役者が揃った状態」と鈴木先生。未解明の分子メカニズムが多く残されており、ここから本格的に研究を進めようという段階です。もしメカニズムの全貌がわかれば、いまは無駄になる部分が多い真珠養殖の効率を上げることができます。貝殻の持つ土壌改良作用や抗菌効果も見逃せません。また、炭酸カルシウムを多く含む貝殻には大気中のCO2を固定する効果があり、地球温暖化防止の道につながるかもしれません。

「もちろん、何かに役立てようと思って研究をしているわけではないんです。基礎研究を突き詰めた結果として社会で広く使われるようなものが生まれるのが自分の理想です」

以前は睡眠以外の時間をほぼすべて実験にあてていたという鈴木先生ですが、現在は2人のお子さんと公園で遊ぶのが楽しみ。7年前、婚約指輪に選んだのは、やはりミキモトの真珠だったそうです。

Q & A
小さい頃に憧れた職業は? 「海の生物が好きで、小学校の頃は水族館で働きたかったんです」
学生時代にやっていた課外活動は? 「山岳部、生物部、水泳、「ガンダム博士」など」
わが子に期待していることは? 「親の期待に囚われず自由に生きてほしくて、名前に「由」を入れました」
上の世代と比べていまの30代は?  「共働きが普通で、夫婦で育児を行うのも当然。時間が常に足りない」
アコヤガイの貝殻。真珠層も稜柱層も主成分は炭酸カルシウムです

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