中国発の革新の現在を現場からあぶり出す | 伊藤亜聖 | UTokyo 30s No.4
やらいでか!UTokyo サーティーズ
淡青色の若手研究者たち
約5800人いる東京大学の現役教員の中から、30代の元気な若手研究者を9人選びました。職名の内訳は、教授が1人、准教授が2人、特任准教授が1人、講師が1人、特任講師が1人、助教が3人です。彼/彼女らは日々どんな研究をしているのか、そして、どんな人となりを持っているのか。その一端を紹介します。(広報誌「淡青」39号より)
※2019年9月10日現在での30代を対象としています。
現代中国経済研究 |
中国発の革新の現在を現場からあぶり出す
伊藤亜聖 ITO, Asei 社会科学研究所准教授 |
世界二位の経済大国、中国の産業動向は世界中の関心の的。伊藤先生は、中国経済に関する実態調査と理論的解釈の「ベストミックス」の実践を目指しています。
慶應義塾大学経済学部で中国経済を専攻に選んだのは、2000年代前半、二桁のGDP成長率を記録し「飛ぶ鳥を落とす勢い」の隣国に惹きつけられたからでした。
修士課程に進んだ2006年の夏から1年間、北京の中国人民大学に留学し、オリンピック直前で活気づく高度成長の時代を体験します。それ以降、何度も留学や調査で訪問。現場仕込みの語学力と現地調査、特に「世界の工場」と評された製造業拠点の調査の経験が現在の研究に生きています。
「ある片田舎の工場を見学したとき、靴下工場に従業員が8000人もいて、見渡す限り機械が並び、とんでもない光景だと思いました。何足作っているのか聞くと、年間10億足ぐらいだ、と。その衝撃はすごかった」
「百均のふるさと」浙江省義烏市にある世界最大の雑貨市場では、「当たって砕けろ」の精神で外国人バイヤーにアンケート調査を敢行。玩具からアクセサリー、衣服や家具に至るまで、ありとあらゆる商品を扱う市場が、品揃えと安さ、取引の柔軟性を強みに拡大し、世界中からバイヤーを呼び込んだ要因を明らかにしました。
一方、経済学的な考証も欠かせません。「中国の経済発展が、従来の発展モデルと比べて異質なパターンなのか、それとも標準的なのかは、非常に大事な論点です」。
2017年から准教授を務める社研の研究室には、デジタル・サイネージで中身が変わる額縁や、ルンバに似たシャオミの自動掃除機、DJIのドローンなど、様々な中国製品が並びます。経済の動向を現場から追うことが「研究のインスピレーションになる」と話す伊藤先生は、論文執筆以外の情報発信も大事だと考えています。
「調査して論文にまとめて査読を経て出版、となると2年後ぐらいになってしまう。中国の状況の変化は激しい。いまはウェブメディアで直接発信できるし、イベント企画のハードルも下がっていて、社会の中で研究者に求められるアウトプットが幅広くなっています。中国企業を追いかけてエチオピアに到達することもある。こうした新しいチャンネルでの発信も必要になっています」
Q & A | |
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20代の頃と比べて変わったことは? | 「翌年の境遇への不安が消え、40歳時の研究者像を考えるように」 |
オフには何をしていますか? | 「子どもが水族館が好きなので、週末には家族で出かけます」 |
書棚に飾ってあるフィギュアは? | 「中国の動画共有サイトbilibili発の33娘というキャラですね」 |
影響を受けた経済学者を2人挙げると? | 「理論の上では中兼和津次先生。現場派という意味では末廣昭先生」 |
伊藤先生の著書 『現代中国の産業集積』(名古屋大学出版会/2015年12月刊/5,400円+税) |