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サッカー少年の実感を基点に睡眠の制御機構解明に挑む | 岸 哲史 | UTokyo 30s No.5

掲載日:2019年10月22日

やらいでか!UTokyo サーティーズ
淡青色の若手研究者たち

約5800人いる東京大学の現役教員の中から、30代の元気な若手研究者を9人選びました。職名の内訳は、教授が1人、准教授が2人、特任准教授が1人、講師が1人、特任講師が1人、助教が3人です。彼/彼女らは日々どんな研究をしているのか、そして、どんな人となりを持っているのか。その一端を紹介します。(広報誌「淡青」39号より)
※2019年9月10日現在での30代を対象としています。

睡眠科学

サッカー少年の実感を基点に睡眠の制御機構解明に挑む

岸 哲史
KISHI, Akifumi
教育学研究科助教
写真
被験者用のベッドが置かれた実験室にて。「自分ではもう3年もFitbitを装着しています」 写真:井上匠

文系に入る教育学研究科で、理系の研究者が多い身体教育学コースに籍を置く岸先生。主に脳波や心拍や筋電といった生理計測とそのデータの数理解析から、生命の神秘ともいうべき睡眠現象の解明に挑んでいます。睡眠科学の道に進んだのは、自身が不眠症だったから、というわけではないそうです。

「高校時代、部活でサッカーに打ち込んでいましたが、進学校だったので、練習で疲れても勉強時間を確保する必要がありました。そんな中、徹夜で勉強するより2~3時間でも寝たほうが試験でいい点が取れると気づいて、睡眠は大事だと思ったんです」

知識を入力した後の適切な睡眠が短期記憶を長期記憶に移行させることを実感した高崎の高校生は、勉強と運動と睡眠の関係を見事に制御して東大へ。今度はフットサルチームの活動に打ち込み、ゲームを俯瞰しながら制御するフィクソというポジションで活躍しながら、睡眠科学の基礎を身につけました。あるプロジェクトでは、4時間の軽度短縮睡眠の蓄積が労働者に及ぼす影響を調べたとか。

「被験者24人に2週間もの管理生活を課す過酷な実験は、調べるこちらも大変でした。誰かがトイレに行くたびに計測装置を外してつけ直す必要があり、仮眠も難しかったですね」

軽い睡眠不足が続くと、自覚症状がなくても作業効率が明らかに下がることを実証した岸先生。大学院に進み、ニューヨーク大学の睡眠障害センターで武者修行した後、レム睡眠とノンレム睡眠が90分周期で繰り返されるという常識を塗り替えました。90分の中により細かい状態遷移があり、背後に数理的な法則があることを見つけたのです。それは疾患の治療にも適用できる成果でした。

「慢性疲労症候群ではレム睡眠が、線維筋痛症では徐波睡眠が阻害されるなど、病態によって特徴があることがわかりました。たとえば後者は、脳の適切な部位に弱い電気刺激を与えると改良されます。脳の状態遷移を制御して質の高い睡眠を確保する試みを進めています」

もう一つの取組みは、入眠のアシスト。適度な揺れがあるバスで眠くなるとはよく言われますが、自宅で同様の状態を作るのは大変です。しかし、人が感じない微弱な電気刺激を耳の後ろに左右交互に与えるだけで脳は擬似的な揺れを感じる、と岸先生。まずは原理の解明が先決ですが、スマートフォンのような簡易デバイスで入眠を支援できるようになる可能性はあります。寝付きの悪さを改善し、現代人の睡眠をうまく制御するのは、睡眠科学界のフィクソかもしれません。

Q & A
本郷・御殿下記念館にも籍があるとか? 「スポーツ相談室専門職員の兼任です。睡眠には運動も大事ですよ」
休みの日は何を? 「5歳児と3歳児をキャンパスに連れてきて遊ばせたりしています」
東大フットサル部の愛称「さんぱち先生」って? 「文科三類8組のチームが母体でした。現在、運動会直轄部所属です」
30代になって感じることは? 「昔より研究を俯瞰して見られるようになり、徹夜はキツくなりました」

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