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地に足がつく木と風のメインスタジアムを設計|隈研吾|オリパラと東大。

掲載日:2020年3月17日

オリンピック・パラリンピックと東大。
~スポーツの祭典にまつわる研究・教育とレガシー
開会が迫る2020年のオリンピック・パラリンピック。56年ぶりに東京で行われるこのビッグイベントにはホームを同じくする東京大学も少なからず関わっています。世界のスポーツ祭典における東京大学の貢献を知れば、オリパラのロゴの青はしだいに淡青色に見えてくる!?
和の伝統と現代の要請を統合して

地に足がつく木と風のメインスタジアムを設計

世界が抱える様々な問題に建築を通じて答を示したい

隈 研吾 工学系研究科 教授 KUMA Kengo
南青山にある隈研吾建築都市設計事務所からは秩父宮ラグビー場、神宮球場、そして国立競技場も一望できます。「建築は多様な人々が集えるプラットフォーム。その場所でしかできないものを、建築家が引き立て役となって作っていきたいと思います」 写真:貝塚純一

前回の東京オリンピックのとき、隈先生は小学4年生でした。競泳種目で4つの金メダルを獲得した18歳のドン・ショランダー選手の勇姿をテレビで観て感激したという隈少年。大会後、建築好きのお父さんに連れられ、競泳会場だった代々木競技場第一体育館のプールによく泳ぎに行ったそうです。

大先輩から継承したアーチ

「外観の迫力が圧倒的で、子どもながらに度肝を抜かれました。中にあるプールでは、高い天井の窓から差し込む光が水面に反射してキラキラ輝いていて。自分もこんな建物を作ってみたいと思いました。建築家を志したのはそこからです」

2本の主柱をワイヤーでつないで大屋根を吊り下げるという、世界的にも珍しい吊り屋根構造の体育館を設計したのは、丹下健三先生。後に「世界のタンゲ」となる東大建築学科の大先輩が仕込んだ、強度と美しさが融合したアーチは、時を経て後輩が設計に携わった新しい競技場にも取り入れられています。

「スタンド全体を覆う円形の大屋根は、中央部に行くにつれて盛り上げています。外縁と高低差をつけることで、柱がなくても十分な強度を持つ屋根になりました。丹下先生のアーチを自分なりに踏まえたつもりです」

とはいえ、全体的に見れば、第一体育館と国立競技場は対照的です。前者が垂直方向を意識させるとすれば、後者は水平方向。天に高く伸びるか、地に低く広がるか。そこには時代の違いが関係しています。前回大会の頃は日本が右上がりの経済成長を遂げている最中。欧米とひと味違う独自の価値を日本が世界に誇示しつつあることを、建築が体現していたのかもしれません。

「明治期には独立国家である証として威厳のある建築が、関東大震災を経験した大正期には耐震性の高い建築が求められました。そして丹下先生は、戦後に広島平和記念公園を、オリンピックの際は代々木競技場を設計した。振り返れば、東大の建築家は時代ごとに社会が必要とするものを作ってきたと言えます」

47都道府県産の木材を活用

そのDNAを継ぐ隈先生が、現代に求められるスタジアムとして設計に携わった国立競技場。大きな特徴は、外周の軒庇、大屋根のトラス、内部空間に至るまで、輸入木材より環境負荷が低い国産木材を積極的に使っていることです。森林認証を得た47都道府県産の木材を調達したのは、明治神宮造営の際に全国から集まった献木が杜を形成した歴史も鑑みたもの。部材のほとんどをモジュール化したのは、やがて経年劣化する木材の交換を容易にするためです。

日本オリンピックミュージアム横の広場には、オリンピックシンボルや過去に日本で開催された3大会の聖火台レプリカなどが展示されています

「法隆寺の五重塔の垂木は、もともとサイズが長めに設定されていて、露出した先端が傷んだら削り、内側から送り出して使われてきました。それを見習った形です。コンクリートと鉄を前提にスクラップ&ビルドを繰り返す時代ではありません」

同様に五重塔にヒントを得たのが、庇が重なる外観のデザイン。一番上と3層目の間に空間を設けたのは、そこに風を通すことでピッチとスタンドの温熱環境を整えるため。蓄積した現地の風の年間ビッグデータを徹底分析することで風の大庇の角度と密度を丁寧に割り出し、設備機器に頼らない気流循環を可能にしています。

自然の力を最大限に利用する姿勢は風に限りません。大屋根の先端部に設置されているのは、日本の技術が生んだシースルー薄膜太陽電池。ガラスのような太陽電池が電力供給の一助となります。屋根や舗装に降った雨は地下の水槽に集め、フィールドの芝生や、最上階の回廊式遊歩道に植えられた110種もの在来植物の灌水に利用されます。

前の人が立ってもOKの車椅子席

関係14団体とのワークショップを経て、「史上最もユニバーサル・デザインに配慮したスタジアムになった」と設計者が胸を張るバリアフリー仕様も見逃せません。450席以上ある車椅子席では、前の人が立っても視界を妨げない環境を実現。トイレの全個室にスピーカーを、主要なトイレや休憩室にフラッシュランプを設置し、視覚や聴覚に障害がある人にも緊急事態を知らせる仕組みを整えました。

「環境問題を筆頭に、世界が抱える様々な問題に対し、建築を通じて何らかの答を提示することが、いま求められていると思います」

折り紙をモチーフにした屋根の高輪ゲートウェイ駅、組み合わせたポリタンクの壁の中を水が循環する「ウォーターブランチ」、15本の傘をつないでドーム型の家を形成するCasa Umbrellaなど、多種多様な答を示してきた隈先生。50年の歴史を持つ日本庭園の再生プロジェクトで訪れたポートランドでは、現地の関係者から思いがけない話がありました。

本郷で見られる隈作品といえば、春日門近くにあるダイワユビキタス学術研究館(2014年竣工)。2020年1月には工学部11号館の講堂とラウンジがHASEKO-KUMA Hallに生まれ変わりました

「庭園の近くに湖があるんですが、そこで泳いで強くなった金メダリストがいると言われたんです。少年時代の僕のヒーローと会えることになりそうで、楽しみにしています」

プールで建築家を志してから56年後に再び東京で迎えるオリンピック。隈先生は風が吹き抜けるスタンドで大会が観戦できる日を待っています。この杜のスタジアムが、次代の隈少年にとっての第一体育館になることを願いながら。

 

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