潮流分析でセーリング日本チームに追い風を|早稲田卓爾|オリパラと東大。
~スポーツの祭典にまつわる研究・教育とレガシー
半世紀超の時を経て再び東京で行われるオリンピック・パラリンピックには、ホームを同じくする東京大学も少なからず関わっています。世界のスポーツ祭典における東京大学の貢献を知れば、オリパラのロゴの青はしだいに淡青色に見えてくる!?
海洋物理学 |
セーリング日本チームに追い風を|早稲田卓爾|オリパラと東大。
早稲田卓爾 新領域創成科学研究科 教授 WASEDA Takuji |
以前はヨットと呼ばれていた競技、セーリング。オリンピックでは、帆に風を受けて進む艇のうち、キャビンを備えた大型クルーザー以外のタイプを使って速さを競います。海面に設置されたブイを回って戻ってくるセーリングのレースにおいて、最も影響が大きいのはやはり風ですが、その次ぐらいに大きな影響を持つのは、会場となる海の潮の流れです。海洋技術環境学専攻で海の科学と工学をつなぐ海洋情報の研究を行っている早稲田先生は、潮流の分析やシミュレーションの研究を通じて、セーリング日本代表チームを北京大会の頃からサポートしています。
「工学系研究科の環境海洋工学専攻にいた鵜沢潔先生は、かつて世界選手権に出場し、ロサンゼルス・オリンピックでは強化指定選手でした。その縁で、2007年の秋頃、日本代表チームのコーチから私のいる専攻に支援の打診があったんです。北京大会のセーリング競技が行われる青島周辺の潮流を詳しく分析できないかとのことでした。当時、海外の有力チームはすでに科学的な潮流分析を行っていましたが、日本ではまだでした」
工学部の船舶海洋工学科時代にアメリカズカップのプロジェクトに近いところにいた早稲田先生が中心となり、鵜沢先生も加わる形で、日本チーム支援プロジェクトが出航。学生とともにソフトウェアによるシミュレーションを試みた後、7月のプレ大会で合宿を張るチームに同行し、1週間かけて現地の海のデータを観測しました。
「青島沖は風が弱いことで知られていて、潮流を把握する重要さが取り沙汰されていました。たとえば、艇がブイを回る際、右から入るか左から入るかは自由で、潮の流れを利用できるコースを選んだ艇のほうが有利となります。風が弱いならなおさらです」
近くにある黄海の潮汐の影響を強く受ける青島沖の潮流を分析した科学的知見を役立てるべく、コース上の半径2kmの領域を4つの象限に分けてわかりやすい潮流図を作成した早稲田チーム。濡れてもいいようパウチ加工したこの図は、練習の必携品となりました。続く2012ロンドン大会では、2009年夏の時点から会場となるウェイマスのデータ観測を開始。調査を始めるタイミングが遅く、レース本番の時期のデータを観測できなかった北京での反省を踏まえた形です。ただ、北京とロンドンではメダルに手が届きませんでした。
「もちろん潮流だけで決まるものではないですが、悔しかったですね。2大会に携わって感じたのは、科学的な正確さと選手が求める情報とは別ということ。研究者はより正確なデータを追求しますが、選手はそれよりレースでどうすべきかが知りたい。選手の特性に応じて情報をうまくさじ加減して翻訳するコーチの存在が重要です」
日本開催となる2020大会に向けては、日本セーリング連盟の技術サポートスタッフを務めている早稲田先生。会場となる江の島ヨットハーバーのコースについては、すでに2年にわたってデータを観測しており、相模湾の地形や黒潮の影響でときに生じるローカルな急潮についても織り込み済み。長年にわたる交流でコーチ陣とのチームワークも熟成の色を見せています。「三度目の正直」となりそうな今大会。セーリング競技の行方にご注目ください。