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温泉でチョコレートを作りながら学んだこと ~伊豆の樹芸研究所での5日間のゼミを通して学生達が考える~

掲載日:2020年6月5日

みなさんチョコレートは好きですか?

普段、勉強や研究で疲れた時などのエネルギーとして、おやつにコンビニで買ったチョコレートを食べるという方も多いと思います。

チョコレートは身近な食品の一つですが、「どこから輸入されて来たのか」、「どういう風に作られているのか」ということを考えたり、カカオ豆を直接見たりすることはあまりないのではないでしょうか。そのような、普段は気に掛けることもなく見えていないものと、立ち止まってどのように向き合っていくべきかを考えるきっかけとなるのが、全学体験ゼミナール「伊豆に学ぶ-熱帯植物編-」です。

温室の中で、汗だくになりながらカカオ豆をすりつぶしてチョコレートを作ったり、窯で火の番をしながら竹炭を作ったりする中で、学生たちはどんなことを学ぶのでしょうか。

温室で栽培されている樹芸研究所のカカオ豆

自然を「体験」する5日間

大学院農学生命科学研究科附属演習林樹芸研究所では、毎年、夏に3回と冬に4回、主に学部1~2年生向けのゼミを開催しています。2020年2月、2019年度冬学期 全学体験ゼミナール「伊豆に学ぶ-熱帯植物編-」は5日間のプログラムで実施され、13名の学生達が敷地内の運動会寮(現在は大学院農学生命科学研究科の下賀茂寮宿泊施設)にて共同生活を送りつつ、樹芸研究所の温室や青野作業所にて、熱帯植物などに関するプログラムに参加しました。

樹芸研究所は、静岡県賀茂郡南伊豆町にある農学生命科学研究科の附属施設で、第二次世界大戦中の1943年に熱帯・亜熱帯産の特用樹木の研究施設として設立された歴史ある施設です。敷地に入るとすぐに右手に大温室がありますが、この温室は地下149mから湧き出す伊豆の温泉を熱源として温められています。

樹芸研究所は、演習林の中でも大学の全学教育分野に注力する組織として、体験ゼミの様な教育活動を積極的に行っています。また、教育・研究活動だけでなく、地域貢献・産学連携などにも力を入れています。

温室で栽培されているカカオの木

カカオ豆からのチョコレート作り

樹芸研究所では2015年から株式会社メリーチョコレートカムパニーとの産学連携を進めており、2016年には「くらべるカカオ」という日本産カカオ(樹芸研究所の温室で育ったカカオ)によるチョコレートを合同で制作したこともあります(現在は販売終了)。また、一般市民を対象としたチョコレート関連の公開セミナー開催などのコミュニティーアウトリーチも協力して進めています。

今回の全学体験ゼミでも、株式会社メリーチョコレートカムパニーの笹瀬斉美さんが講師として参加し、チョコレートに歴史、種類、作成工程などの座学に加え、実際にカカオ豆をつぶすところからスタートするチョコレート作りを学生に対して指導しました。

樹芸研究所が制作していた『くらべるカカオ』
東京大学のコミュニティーセンターで販売していました
写真提供:樹芸研究所

普段私達は製品化されたチョコレートしか食べる事はありませんが(バレンタインデーの手作りチョコも、板チョコを溶かす工程からスタートする人が多いでしょう)、今回の作業ではカカオ豆を煎って、皮を剥き、胚珠を取り出す所から始めます。その後、皮を剥いた豆をすり鉢ですりつぶし、普段私達が目にするチョコレートに近い、つやつやしたペースト状の「カカオマス」になるまで作業を続けます。

カカオ豆を剥くのも、すりつぶすのもかなりの重労働です。学生達は汗だくになりながら、ひたすら豆を砕いて、すりつぶしていきます。

カカオ豆がペースト状になったら、次はカカオバターの結晶を安定させるための温度調整をする「テンパリング」という行程に移ります。この工程は、樹芸研究所の所員が温泉地という特性を活かして作った湯煎場所で行われます。温泉のお湯で湯煎しながら、カカオマスにカカオバターや砂糖・ミルクなどを加えつつ温度調節していきます。

最後に型に流し込み冷蔵庫で冷やしたら完成です。自分達で一から作ったチョコレートは少しじゃりじゃりしたカカオ分が残っていても、達成感からかいつもより美味しく感じられた様です。

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焙煎して皮を剥いたカカオ豆を、すり鉢ですりつぶしていきます
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粒は大きいですが、ペースト状になるまで続けます
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樹芸研究所お手製の湯煎装置で、温泉の暖かさを感じながら作業する学生達(写真右手:メリーチョコレートの笹瀬斉美さん)


チョコレート作りを「体験」する意義

チョコレート作りと聞くと楽しそうな作業ですが、作業を実際に学生達が体験することにどのような意義があるのでしょうか。学生一人一人、思うところはあったようです。

「普段食べているチョコレートは滑らか。20ミクロンの粒にして作るという説明もありましたけど、今回自分達で作ったものはそんなに細かくなく、目が粗いから、じゃりじゃりしていて、カカオの分が残っていて。なかなかカカオの実を直接見る機会はないので、すごく新鮮だった」(理科一類 津旨まいさん)

温度調節をしたチョコレートを型に流し込む作業

今回のゼミは、熱帯植物を学ぶという学術的なテーマに加えて、実際の作業を通じて「普段意識していないものと、どうやって向き合っていくのか」という「体験を通じた気づき」を生むきっかけが込められているプログラムでした。

授業終了後の学生からも、「チョコレート作りを通じて『見えていない部分について、意識を巡らせることの大切さ』を意識した」という声が聞かれました。

「実習で扱ったチョコ、キャッサバ、コーヒーは全て、先進国が嗜好品として使っているけど、その裏には、後進国の苦労があることを意識しました」(文科三類 高瀬晴羽さん)

学生達は授業後の夜、グループワークでその日に体験した出来事について議論します。ディスカッションを通じて、他者の考え方を聞くのも興味深い経験です。夏に開催された前回のゼミで体験修学の面白さを知り、冬のゼミにも参加したというリピーターの学生が、今回のゼミのリーダーとなり他の学生をサポートする様子もみられました。

「この授業はどの科類からも参加できる。異なるバックグラウンドの仲間が集まるので、自分とは異なる経験や価値観が見えてくる機会になった」(理科一類 藤本陸さん)

グループに分かれてディスカッションを行う学生達

ゼミのプログラムを通じて、学生達は議論を深めていきますが、自分達が感じた「気づき」の大切さを他の人にも体験してもらうにはどうしたらいいのか。グループごとに温室植物を使った環境教育プログラムを考え、ゼミの最終日に実際に実施することで5日間の学びの集大成となります。


竹と向き合う

チョコレート作り以外にも、様々な活動を行いました。温室植物以外のゼミのもう一つの重要教材は『竹』です。

例えば、樹芸研究所の青野作業所にて竹炭を作るために釜で「炭焼き」を行い、後日、自分達が作った竹炭で火をおこしたバーベキューで昼ご飯を食べます。食器も自分達で作った竹の器と箸という徹底ぶりです。撓る竹の性質を利用した、凧も自分達で作り、下賀茂近くの弓ヶ浜海岸で実際に飛ばしました。なかなか最初は凧が飛ばず、試行錯誤しながら飛ばす過程も貴重な体験です。

竹は身近にある植物で、少し都会を離れると竹林はたくさんありますが、実は外来種です。プログラムの中で学生達は「荒れた竹林」と「演習林内の整備された竹林」を見比べました。体験の中で色々な活用方法を学んだ竹ですが、活用されずただの荒れた竹林になることも多いのです。チョコレート同様に、普段は気に掛ける事のない竹に関する作業を通じて、自然問題などにも改めて考えるきっかけとなった様です。

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炭焼きを行う窯に火をくべていきます
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完成した竹炭を観察する学生達
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学生達が制作した竹でできた器と箸


5日間の体験を今後に活かす

チョコレート作り以外にも、1日目には自分達でキャッサバを収穫してタピオカ澱粉を精製し、後日、その精製した澱粉を使用したタピオカ桜餅を作ったりと、さまざまな活動を体験しながら、学生達は充実した5日間を過ごしました。樹芸研究所付近の菜の花畑や河津桜を見学したり、夜の演習林を散策するナイトウォークなど、普段なかなか触れることのできない自然にも接する機会となりました。

5日間のプログラムで最も印象的だったのは、常に学生達が議論を重ねている姿でした。プログラムの活動を通じて、炭焼きなどの普段は接することのないような体験をすることはもちろんですが、それ以上に「普段は気に掛けることもなく見えていないものを考える」きっかけとなったのは、今後の学生生活や将来の道を考えていく上でも大切な学びの経験となったのではないでしょうか。

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薪割りはなかなか木が切れず、どのグループもコツをつかむまで苦労していました
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凧作り
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キャッサバを精製して作ったタピオカ澱粉をピンクに着色して、桜餅を作ります

弓ヶ浜での集合写真、完成した凧を掲げながら(写真中央:鴨田准教授)
写真提供:樹芸研究所

取材・文:ウィットニー・マッシューズ、大熊 祐子

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