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UTokyoオンライン授業の現在|コロナ禍と東大。

掲載日:2020年9月29日

コロナ禍と東大。
活動制限下の取組みから見えてくる新時代の大学の姿とは?
2020年。新型コロナウイルス感染症の影響で、東京大学の活動は想定していたものから大きく様変わりしました。本特集では、このおよそ半年間に東京大学の現場で行われてきた取組みの数々を記録し、ウィズコロナ時代の大学の活動とは何かを考えるきっかけを提供します。
5,000を超える科目を学事暦どおりに展開中

UTokyoオンライン授業の現在

コロナ禍の影響を受け、日本のほとんどの大学は2020年度の授業開始を遅らせました。しかし、東大では学事暦を変更することなく5,000を超える授業の全てをオンラインで行ってきました。コロナ禍以前には多くの教員がリモート授業の方法など知りませんでしたが、前例のないこの試みはどのようになされたのでしょうか。各々の現場でできる最大限の努力を続けてきたキーパーソンたちの声からまとめて紹介します。

Zoomなどのツールや必要なインフラを整備し情報共有

田浦教授写真
田浦健次朗 TAURA Kenjiro
情報基盤センター長 教授

コンピュータ科学の研究者で、情報系の学内組織である情報基盤センターの長を務める田浦健次朗先生は、東大のオンライン授業を支えたキーパーソンの一人です。その重要な任務は、オンライン授業を行うためのインフラを整備すること。Zoomなどのビデオ会議ツールを構成員全員が十分活用できるよう契約し、情報セキュリティを担保し、授業履修に必須の学務システムを増強する、といった役割です。そしてもう一つ重要だったのは、こうしたインフラの情報を学内の構成員と共有することでした。

「学務システムのUTASや学習管理システムのITC-LMSはもちろん、GoogleやMicrosoftの各ツールもすでに全学で契約して使えるようにしていましたが、実はそれを知らない構成員も多く、情報周知の重要性を以前から感じていました」

授業の登録に使うUTASや授業の資料共有や教員とのやりとりに使うITC-LMSは、学生にとっては必須ですが、すべての教員が使っていたわけではありません。GoogleのG Suite for EducationやMicrosoftのOffice 365は、とても便利なツールではあるものの、使うのは詳しい人に限られていました。そして、コロナ禍以前、ほとんどの教職員は、Zoom、Webex、Google Meetなどのビデオ会議ツールを用いるだけで数百人規模の講義もできるとは考えていなかったようです。「私もリモートの会議には重厚なシステムが必要だと思っていました。専用機器を導入して、せいぜい5~6グループがテレビ画面を介してつながるイメージ。数百人が同時接続するオンライン講義にはもっと特別なシステムが必要だろう、と。でも、調べてみると必要なのはPCとソフトウェアだけでした」

日頃から迅速に行動することの意味を感じていた田浦先生は、センター内での話し合いを経て、教育系の学内組織である大学総合教育研究センター(以下、大総センター)を交えた打ち合わせをセッティング。全学の新型コロナウイルス対策タスクフォース座長である福田裕穂理事・副学長、福田理事から事前に話を受けていた副センター長の栗田佳代子先生と、アクティブラーニングの専門家である吉田塁先生も参加した3月9日の会議で、教職員向けの説明会を開催すること、教職員・学生のためのオンライン授業情報サイトを用意することを決めました。「授業を全面オンライン化するという大学としての意志決定はまだでしたが、その日が来ることを想定して、できる準備を進めたほうがいいね、と話しました」と栗田先生。3先生を中心に、ほかの教員有志も協力して突貫作業を行い、3月11日にはオンライン授業の情報を集約したポータルサイト「UTELECON※1」を開設。複数の担当者が別々の場所から共同編集するのに適したGitHub Pagesというツールを用いたのが結果的によかった、と田浦先生は振り返ります。

3月13日に理学部の講義室で開催し、Webexを使ってオンライン配信も行った説明会には、通知が直前だったにもかかわらず、計350人の教職員が参加しました。福田理事がマスク姿で「対面での講義は最小限とし、オンライン化を推進する」という基本方針を述べた後、各ツールを使うのに必要なアカウントの情報、ビデオ会議ツールの種類、UTASとITC-LMSの関係などについて、田浦先生が紹介しました。

「このときの題名は「授業のオンライン化を念頭に置いたTV会議ツールと使い方説明会」。まだ慎重な言い方をしていたことが当時の状況を物語っています」と吉田先生。

 

Zoomの使い方講座に1000人超の教職員が殺到

吉田先生と栗田先生写真
吉田 塁 YOSHIDA Lui(写真左)
大学総合教育研究センター 特任講師
栗田佳代子 KURITA Kayoko(写真右)
大学総合教育研究センター 准教授

3月19日には「オンライン基礎講座Zoomの使い方」をZoomで開催。このときは、教職員の関心が高まっていたせいか、参加者数がすぐにセッションの最大定員である1,000人を超えました※2。その後、「ライブ配信ではないオンデマンド型オンライン授業」「語学学習について」「Sセメスター開始2週間を経ての振り返り」「著作権について」などの説明会を繰り返し実施。要望があった4つの部局・部署には個別の説明会も開催しました。

新学期が始まり、4月22日からは、多くの人がより気軽に参加できるようにと、昼休みの時間に情報交換会シリーズを開始。東大構成員なら誰でも参加できる40分間のランチョンミーティングを8月初旬まで15回開催しました。グループワークのやり方、動画教材の作り方、通信データ量の節約、学生の成績評価、オンライン授業を受けた学生からの声、障害のある学生への支援など、そのテーマは多岐にわたります。

4月16日からは、大総センターが中心になって「クラスサポーター」制度を開始しました。TA(ティーチング・アシスタント)よりも軽い負荷で授業を支援する学生を配置し、事前にZoomの設定をテストしたり、授業中に不具合を先生に伝えるなど、登録した学生有志が授業を支援する仕組み。これまでに約440の授業でクラスサポーターが謝金を得ながら活動しています。「教員が個別に学生を見つける例が多いですが、部局をこえて教員とサポーターをマッチングする仕組みも動かしています。コロナ禍でアルバイトが減った学生の受け皿になれるといいのですが」と吉田先生。

さらに、5月中旬には「コモンサポーター」制度も開始しました。UTELECONのサイト用にチャットボット※3を開発し、ボットだけでは解決しない場合に対応するオペレーターとして、約50人の学生が活動しています。1日に5,000~7,000人がUTELECONのサイトにアクセスし、そのうち50名程度がチャットを利用、そこから数人がオペレーター対応に進んでいるとか。当初は殺到した5,000件もの問い合わせに対応しなければいけませんでしたが、この制度の開始はその業務を減らすのに確実に役立ちました。

教育を研究するのが本務のセンターとして、オンラインならではの新しい授業手法の提案もしていきたいと語る両先生。たとえばZoomの「ブレークアウトセッション」※4という分科会機能はグループワークに適しており、オンラインでも学生が主体的に学べる授業ができるのだとか。「人手不足のため、いまは説明会や制度を回すので手一杯ですが、オンライン授業だからこそのいいところを体系的に共有していきたいですね」と栗田先生。

東大に限らず、大学にある教育支援系のセンターと情報系のセンターは、これまであまり密接に連携していないことが多かったようです。しかし、今回は組織の縦割り問題に縛られたりすることなく、2つの組織が早くからうまく連携して動けたことが、ここまで何とかやってこれたポイントだったのではないか。3・4年生と大学院生が主となる本郷キャンパスに拠点を置く3先生は、口を揃えて振り返ります。

 

「当初はオンライン授業なんて無理だと思っていました」

四本先生写真
四本裕子 YOTSUMOTO Yuko
総合文化研究科 准教授

一方、主に1・2年生が学生生活を送る駒場キャンパスでは、4月に入学する3,000人以上の学生のための準備が3月中旬に本格化しました。「実は、当初はオンライン授業なんて無理だと思っていました」と語るのは、総合文化研究科・教養学部で実験心理学の教育・研究活動を行う四本裕子先生。3月12日に研究科長室に設立された、駒場のオンライン授業を推進するタスクフォースのリーダーを務めてきました。

構成員に割り振られる共通アカウントを取得する方法、授業に登録する方法、オンラインでクラスやサークルのオリエンテーションを行う方法など、目前のさまざまな問題を解決しようと、タスクフォースのメンバーが皆よれよれになるまで働いたという3月。その結果、Sセメスターにオンラインで開講した授業数は計2,506にのぼります。

「フィールドワーク主体のものなど開講を次学期以降に順延したものはありますが、私の知る限り、「やりたくない」と言った先生はいません。「自信がない」と言った先生はいますが、アドバイスを自ら求め、周囲の支援を受けて実施につなげてきたんです」

そこで気になるのは、実習・実験を伴う授業です。コロナ禍における全学の活動制限により、学生は基本的にキャンパスに来ることができません。Face to Faceの授業を大事にしてきた大学にとって絶望的な状況ですが、教員たちは実習・実験のエッセンスを伝えるやり方を編み出しました。

たとえば、認知脳科学を教える四本先生は、自宅でワイヤレスのヘッドセットを装着し、脳の電気信号をPCに表示して、脳波測定実験を自宅で再現し、撮影しました※5。豚の眼球と脳の解剖も自宅で行い、撮影した動画教材をYouTubeに載せて、学生にレポートを書かせました。学生に手作業の模様を動画で撮って中継させ、それを見ながらZoom越しに指導することもありました。また、必修科目の一つである体育の授業では、教員が自撮りした実技のお手本動画などを見て学生が家で運動し、内容をまとめて提出するのが一つの形に。語学の授業では、ネ ット環境がよくない学生にこまめに声をかけるといったケアもしているそうです。

「もちろんオンラインではできないこともあります。危険な薬品を使う化学の実験や、高価な機械を使う物理の実験や、スーパーコンピュータを使う演算なども無理。その辺りをAセメスター以降にどう埋め合わせるかが課題です」

これまで学事暦どおりにこなせてきた要因を聞くと、研究科長室のフレキシブルな対応、準備を開始した時期の早さ、本部との密な連携などに加え、学生側の協力も見逃せない、と指摘した四本先生。そこには、インターネット環境がよくない学生向けに全学で実施したWi-Fiルーターの無料貸出制度※6に対する、少し意外な反応がありました。

「駒場での貸出実績は200個ほどで、想定よりだいぶ少ないものでした。3月半ばに新入生宛に手紙を送り、オンライン授業に必要な環境を整えるようお願いしたら、そこで対応してくれた人が多かったようです。自分より環境が悪い人がいたらそちらに回すよう書いてあったのを読み、グッときた日もありました」

 

東大のオンライン授業を成功と呼ぶのはまだ時期尚早

しかし、四本先生は、東大の取組みを成功と呼ぶのは時期尚早だと釘を刺し、新たな課題が次々と浮上していると付け加えました。現在、オンライン授業でもフェアな成績評価をしようと教員が学生に過大な課題を課してしまう傾向があることや、数ヶ月にわたる遠隔学習によって学生が感じるストレスが、大きな懸念となっているのです。

「一度、授業で匿名の質問を募ったら、ノイローゼになりそうだといった学生がいました。話を聞く時間を設けると、課題の多さ、人に会えないつらさ、構内に入れない不満……ととまりませんでした。受験生時代よりつらいとこぼした学生もいます。仲間と相談し、愚痴を言い合う機会が全然足りていない。キャンパスライフは授業と同じくらい重要です」

田浦先生もまた、オンラインだけの大学生活が長期化し、教室で知り合う友達とのつながりを持てずに寂しい思いを味わっている学生たちのことを慮っています。大学の価値は、知識の伝達だけではなく、学生間や学生・教員間の深い人間関係を築くことにあると実感しているからです。

「コロナ禍が終息した後の授業形態としてベストなのは、オンラインと対面の混在でしょう。学生はキャンパスに来たければいつ来てもいいというのが理想です」

ある日は自宅でオンライン授業を受講し、ある日はキャンパスの実験室で手を動かし、またある日にはサークル活動のために学生会館やグラウンドへ。構内の好きな場所でオンライン授業を受ける選択肢も用意できれば、確かにすばらしいことでしょう。ただ、それにはキャンパスやインターネット環境の拡充が必要です。現行の時間割を大幅に調整する必要も生じます。オンラインと対面の混在スタイルを導入するのが現実的に困難なのは間違いありません。まさしく「言うは易し、行うは難し」です。「ただ」と田浦先生は続けます。「コロナ禍前に行っていた教育活動にただ戻るだけでは、この数ヶ月間の経験はいったい何のためのものだったのか、と誰もが訝しがることになるでしょう」

障害のある学生とオンライン授業

中津先生写真
中津真美 NAKATSU Mami
バリアフリー支援室特任助教

授業がオンライン化され、障壁が減った学生もいます。社交不安がある人は実際の教室に入る際の不安を感じなくてすみます。発達障害の人が教室の雑音を気にせずにすむこともありますし、車椅子の人は荒天の日に苦労して移動しなくていいわけです。一方でより困難が増したのは、聴覚障害の学生です。オンデマンド型なら事前に字幕をつけられますが、東大ではライブ型の授業が多く、リアルタイムに音声を文字化して伝える必要が生じました。

方法は大きく3つ。一つは音声認識アプリ「UDトーク」を使って先生の話を文字にする方法。学生サポートスタッフが授業をZoomで視聴しながら文字を逐次修正し、それを聴覚障害の学生が端末で読む仕組みです。二つ目はGoogleドキュメントを共有する方法。先生が話す言葉を学生サポートスタッフがGoogleドキュメントに逐次入力し、それを聴覚障害の学生が読みます。もう一つは「Meta Moji Share」というアプリを使う方法。文字入力が難しい語学や、数式や図形を使う授業で、学生サポートスタッフが端末に手書きしたものを聴覚障害の学生に共有します。

実はひたすら自動認識された文字列を見続けるのは相当な目の疲労になるので、Googleドキュメント方式に切り替える例が見うけられます。話の網羅より要約を希望するという状況は始めてみてわかったことでした。学生サポートスタッフには事前に90分の講習会を課し、なるべく主観を入れずに要約する練習をしており、現在8名の学生が活動中です。対面授業だとサポートスタッフが隣にいるのでケアができますが、オンラインではそうはいきません。指示語を使わないとか、ゆっくりはっきり喋るとか、先生側の配慮がより求められます。たとえば発音が明瞭な先生の授業では、聴覚障害の学生が直接音声認識アプリを使うという可能性もあるでしょう。

今後もオンライン授業の選択肢があることが重要だと思います。障害特性に応じて授業形態を選べるようになると理想的ですね。

受講写真
聴覚障害のある学生さんの受講の様子。複数の端末を注視する必要があるため、必然的に目の疲労が大きくなります
 

脚注

1

UTELECON(UTokyo+Teleconference/ユーテレコン)のトップページ。多いときは情報更新回数が1日100件に迫るほど頻繁にアップデートが重ねられました

2
経済学部の教員が駒場の1・2年生向けにZoomで行ったオムニバス講義「現代経済理論2020」でも1000人を超える学生が参加し、Twitterで話題になりました
3

UTELECONのチャットウィジット。オペレーターを務めるコモンサポーターは学部も研究科も文理もさまざま

4
ホストが参加者をグループに分けて分科会を行う機能。教室よりも各グループの話を先生が把握しにくい難点があるものの、情報交換会ではそれを補うアイデアも報告されています
5

四本家で撮影されたビデオ教材(脳波測定)より。21 KOMCEE EASTのシールドルームにあるMRIの使い方を紹介するビデオも自撮りで提供したそうです

6
月に50GBまでの容量を使えるソフトバンクのWi-Fiルーターを全学で1000台以上用意し、希望する学生に無料で貸し出しを行いました

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