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東京カレッジ・連続シンポジウム「コロナ危機を越えて」総括ダイジェスト |コロナ禍と東大。

掲載日:2020年10月27日

コロナ禍と東大。
活動制限下の取組みから見えてくる新時代の大学の姿とは?
2020年。新型コロナウイルス感染症の影響で、東京大学の活動は想定していたものから大きく様変わりしました。本特集では、このおよそ半年間に東京大学の現場で行われてきた取組みの数々を記録し、ウィズコロナ時代の大学の活動とは何かを考えるきっかけを提供します。

東京カレッジ・連続シンポジウム「コロナ危機を越えて」総括ダイジェスト

その後の世界を6つの分野で専門家たちが討論

6つのテーマを設定し、コロナ危機とその後の世界について専門家同士が議論を繰り広げた、東京カレッジの連続シンポジウム「コロナ危機を越えて」。各セッションでコーディネーターを務めた6人の先生と、東京カレッジ長の羽田正先生、東京カレッジの若手研究者、そして五神真総長も参加した総括シンポジウムが7月8日に行われ、YouTubeライブで配信されました。当日の模様の一端を抜粋して紹介します。

医学・疫学|シンポジウム1|6月17日

区別した情報開示でInfodemicを防ぎたい

南学教授写真
南学正臣 NANGAKU Masaomi
医学系研究科教授

日本感染症学会理事長の舘田一博先生、日本集中治療医学会理事長の西田修先生と私で議論しました。舘田先生からは、無症状のキャリアの存在が問題を難しくしている、市民のメリハリのある行動変容で感染症伝播を減らすべきだ、との指摘が。西田先生からは、日本の救命率は高い水準にあるが、医療現場はギリギリの状態であり、通常診療の縮小を余儀なくされて病院経営を圧迫している、との指摘がありました。セッションのまとめとして確認したのは、いわゆるInfodemicの問題です。Misinformation(誤報)とDisinformation(偽情報)が合わさって不確かな情報が伝染病のように広がってしまう。これを防ぐため、アカデミアとして正確な情報を提供するのはもちろん、科学的に明らかであることとそうではないことを区別して開示することが重要だと確認しました。

暮らしと社会|シンポジウム2|6月23日

コロナ禍は暮らしを本来の姿に戻す好機

横張 真教授写真
横張 真 YOKOHARI Makoto
工学系研究科教授

環境工学の小熊久美子先生、建築史の加藤耕一先生、公共政策大学院の大橋弘先生と、コロナ危機で暮らしと社会が得たものと失ったものについて、また、コロナ危機をいかにインクルーシブ社会形成に結びつけるかについて議論しました。まず、デジタル技術には、リモートでも生活や業務が継続できるといった「功」の部分がある一方、欲するものしか見なくなるといった「罪」の部分もあると整理。Diversity(多様性)とRedundancy(冗長性)をどう考えるかとの文脈では、With-の期間が長いコロナ禍は、社会システム全体のリデザインのチャンスだとの指摘がなされました。階層や所得に基づくDistancingの克服に向けては、変動要因に対応できるagileな計画が必要であり、コロナ禍は労働や子育てや寝ることに単純化した戦後社会の暮らしを本来の姿に戻す好機になるという話に帰着しました。

価値|シンポジウム3|6月25日

「良き統治」で民主主義のアップデートを

中島隆博教授写真
中島隆博 NAKAJIMA Takahiro
東洋文化研究所教授

私たちは、17世紀のペスト、20世紀の第一次世界大戦とスペイン風邪、現在のCOVID-19を通して、価値の問題を考えました。総合文化研究科の武田将明先生は、デフォー『ペストの記憶』を訳し始めた2011年と現在の状況がよく似ており、この本は正解が見えない状況での人の振る舞い方を示している、と指摘。経済学研究科の小野塚知二先生は、個人の行動を監視する技術が進み、安寧な生が保証されるかわりに人権・自由・私権の価値が形骸化している、とCOVID-19の世界史的位置付けを概観。社会科学研究所の宇野重規先生は、緊急事態においてなお民主主義が機能しうること、疫病を通じて行政権と生命を管理する政治権力が拡大し、安全・経済・自由のトリレンマがあることを報告。無責任の体系に陥ることのない「良き統治」で民主主義のアップデートを進める必要があることを確認しました。

経済|シンポジウム4|6月26日

生命と経済の両立のためにデータが重要

星 岳雄教授写真
星 岳雄 HOSHI Takeo
経済学研究科教授

経済学研究科の渡辺努先生と岩本康志先生、社会科学研究所の川田恵介先生、一橋大学の宮川大介先生と、コロナ危機で何が起こっているのかを議論しました。消費はコロナ禍の前と後でそれほど変わっていない可能性が高い、グローバル化や機械化の影響を受けにくかった業種でも雇用が失われている、生命と経済のトレードオフがかつてない規模で問われているといった現状を確認。現状把握にも政策立案にもタイムリーなデータが必要であること、民間のデータも使用して分析することが必要であること、プライバシーの配慮と活用を両立する上で大学の役割が大きいこと、生命と経済の両立のための施策でもデータとエビデンスが重要であることなどを課題として整理しました。経済学モデルが他の分野より遅れているのはデータ不足が要因だとの指摘もあり、データの価値をあらためて感じました。

SDGs|シンポジウム5|6月30日

いまこそ利他性や公共性が重要

味埜 俊先生写真
味埜 俊 MINO Takashi
東京カレッジ特任教授

コロナ危機は社会の脆弱性を突いており、その克服を目標としたSDGsとポストコロナの関連が私たちの論点でした。国連大学の沖大幹先生は、コロナ禍をSDGs未達の言い訳にするな、グローバル経済下で一蓮托生の各国は感染症に強靭な世界を作るために協力せよ、また、自国主義の台頭でワクチンを全世界に公平に提供できるかが試練と主張。教育学研究科の北村友人先生は、教育に関するゴール4をコロナ禍が脅かしており、平等・公正な教育を超えた包括的教育、社会変革に寄与する柔軟な学びが必要と指摘。新領域創成科学研究科の福永真弓先生は、誰も取り残さないというSDGsの理念の実現には科学的根拠や数字になる前の個別具体の物語が必要と訴えました。以上の議論の根底にある利他性や公共性がいまこそ重要なことが指摘され、SDGsを目標ごとに分断すべきではないことも示唆されました。

情報活用と管理|シンポジウム6|7月3日

データ利活用とガバナンスは車の両輪

渡部俊也副学長写真
渡部俊也 WATANABE Toshiya
大学執行役・副学長

私たちはデータに集中して議論しました。医学系研究科の大江和彦先生は、感染症の早期症例データ収集システム整備とリアルタイムレセプト収集、電子カルテと接続して経過を追跡するなどの施策を提案し、医療デ ータ利活用への期待を報告。工学系研究科の和泉潔先生は、駅の密集度と経済の関係や院内感染など細かい空間でのモニタリングとシミュレーションが可能になっていると紹介し、予測のアナウンスが人の行動に影響する可能性も指摘。法学政治学研究科の宍戸常寿先生は、パーソナルデータの活用に際し、プライバシーvs公衆衛生の安易な図式に逃げ込んではいけないこと、行政や医療サービスの面で国民にメリットが還元される仕組みであるべきことを紹介。討論の最後に、外縁がはっきりせず多義的な特徴があるデータの特性を踏まえたデータガバナンスが重要であることを示しました。

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総括シンポジウムは安田講堂大会議室に用意された特設スタジオにて17時から行われました。最初にコーディネーターの羽田先生が会の概要と次第を説明した後、シンポジウムを開催した順に6人の先生がマイクを握り、各セッションについての報告を展開。「一人8分以内で」という羽田先生の要請に応え、各90分のセッションをぎゅっと濃縮した6つの報告は、スケジュール通りに進行しました。予定が少し狂ったのは、その後に行われた、東京カレッジに所属する2人の若手研究者が6人の大御所たちに質問を投げかける質疑応答パート。豊かな国際性を備えた2人が仕込んだ鋭い質問を矢継ぎ早に繰り出したため、自ずと6人の大御所たちの応答も熱を帯びることとなったのです。

赤藤詩織 SHAKUTO Shiori
東京カレッジ特任助教
フラヴィア・バルダリ
BALDARI Flavia
東京カレッジ特任研究員
羽田先生写真
羽田 正 HANEDA Masashi
東京カレッジ
五神総長写真
五神 真 GONOKAMI Makoto
総長

羽田先生が討論を引き取ったときには残り時間が20分弱。満を持して発声した五神総長は、話に聞き入ってしまったこと、東京大学ビジョン2020を構想した際には話を大きくしすぎたかと思ったがいまはそれでよかったと感じていること、変化がかつてないほど大きい現在は知を活用するチャンスであること、グローバルコモンズをテーマにしたセンターを構想していることなどを紹介し、知を結集してコロナ危機を越えていく決意をあらためて表明しました。最後に羽田先生が、今後も信頼できる情報を集めて分析し、東京カレッジで様々な発信をタイムリーに行う、と展望を述べ、2時間の内容の濃いシンポジウムに幕を下ろしました。

※このシンポジウムの模様はこちらから視聴できます。
https://youtu.be/IUJM0vP_xX4

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