コロナ禍ならではの作品群を「ディスタンス・アート」と命名 | 宮本道人さん|コロナ禍と東大。
活動制限下の取組みから見えてくる新時代の大学の姿とは?
2020年。新型コロナウイルス感染症の影響で、東京大学の活動は想定していたものから大きく様変わりしました。本特集では、このおよそ半年間に東京大学の現場で行われてきた取組みの数々を記録し、ウィズコロナ時代の大学の活動とは何かを考えるきっかけを提供します。
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コロナ禍ならではの作品群を「ディスタンス・アート」と命名
コロナ禍のなか、アートやエンタメの分野では新しい創作手法が続々と生まれています。複数の演奏動画を分割表示する、次の演奏者を指名しリレーしていく、元の演奏動画に自分のセッションを重ねる、Zoomの映像だけで映画を作る、視聴者が画面に出す演出指示に即興で応じる、画面が固まることやタイムラグを笑いに昇華する……。こうした動きを捉え、5月頭に「ディスタンス・アート」と命名したのが宮本さんです。
「短期間でこうも芸術の在り方が変化したことは過去にない。早めに分析して言語化するのが重要と考え、ウェブで発表しました。新しい文化は言葉で括ると理解されやすくなりますし、それなりに反響がありました」
ディスタンスは、空間的な距離だけでなく、時間のズレや、精神的な隔たり、言語的なギャップ、社会的な格差、政治的な差異などまで含む概念。たとえば任天堂の「あつまれ どうぶつの森」の中で香港の若者が民主化のスローガンを掲げた動きもこの文脈で捉えられています。
「理学系研究科時代、ショウジョウバエの神経回路を研究しながら、ゲームやSFを論じる文筆活動も行っていました。縁あって科学技術社会論のコミュニティに入り、研究者だけでなく評論や広報なども含む社会との相互作用で成り立つのが科学だと気づいたんです。執筆で新しい科学の文化を作るという意味で今は「科学文化作家」と名乗っています」
ディスタンス・アートは一過性のものではなく、ポストコロナでも重要な存在になると見る宮本さん。二足歩行を覚えてアフリカから活動範囲を拡大した500万年間を、人類が時空のディスタンスを克服してきた歴史として捉えれば、次のステージは空の向こうです。
「時間と空間の隔たりがより顕在化する宇宙時代。ディスタンス・アートが発展しなかったら、狭い宇宙船で暮らす人類は代わり映えしない毎日を送るしかないでしょう」
宇宙暮らしはまだ遠いとしても、感染症、地震、噴火、洪水、戦争など、今後も様々な災害が待っているはず。ディスタンス・アートのチャンネルは人類の可能性と隔たりなくつながっています。