千字で語るコロナ論|教育学 野澤祥子|コロナ禍と東大。
千字で語るコロナ論
東京大学が擁する全26部局から十人の研究者を選び、自身の専門分野の視点からコロナ禍について千字で執筆するよう依頼しました。それはコロナ禍を通して自身の研究を綴るという試みでもあるでしょう。2020年夏、東大研究者たちは何を思い、考えていたのか?
コロナ禍について語るときに研究者の語ることとは?
千×十の計一万字でお届けします。
ストレスを抱える子どもとその保護者たち
コロナ禍は、子どもたちの生活にも大きな影響を与えています。教育学研究科附属発達保育実践政策学センター(CEDEP)では、実態を現場の声から把握し、共有・発信することが重要だと考え、『新型コロナウイルス感染症に伴う乳幼児の保育・生育環境の変化に関する緊急調査』を実施しました。乳幼児の保護者を対象とした調査(保護者調査)と、園長や保育者を対象とした調査(園調査)であり、実施期間は4月30日~5月12日でした。
まず、保護者調査では、登園自粛や外出自粛等が要請される中で高いストレスを抱える保護者が多かったことが示されました。WHOの精神的健康状態表により最近2週間の精神状態を尋ねたところ、うつ病検査を推奨される基準を超える回答者は56.8%と半数以上でした。子どももストレスを抱えており「わけもなくいらいらしたり、不機嫌だったりする」ことが増えた子どもが3割以上でした。緊急事態宣言発令中という特殊な状況下での、一時的な精神的健康の悪化である可能性も高いですが、withコロナの状態が長期化することが懸念される中で、支援のあり方を検討する必要があることが示唆されます。
一方、園調査では、緊急事態宣言発令中であっても、何らかのかたちで保育を実施していると回答した割合は9割以上を占めていました。コロナ禍において、保育施設は、いわゆるエッセンシャルワーカーとよばれる人たちを中心に働く親を支える重要な役割を果たしていることが示されました。休園の場合はオンライン保育や動画配信を行った園もあるようです。一方で、乳幼児とのかかわりは密にならざるを得ない中で感染リスク抱えて保育を行うことの困難さがあげられました。また、感染予防対策を厳密に行うためには子どもの活動を制限する必要があり、そのことが子どもの育ちに与える影響を心配する声もありました。こうした感染予防対策と子どもの発達保障のジレンマについては、withコロナの中では引き続き難しい課題となっています。子どもの安全を守りながらも、過度な活動の制限によって子どもたちが発達上のリスクを抱えることのないよう留意していくことが必要だと考えています。
以上のようにコロナ禍は、子ども、保護者、保育者に大きな負担を強いていることが調査から見えてきました。その支援のあり方や、現下の感染予防対策と将来にわたる発達への影響の可能性をどう考えるかについて、CEDEPでは引き続き研究をしていきたいと考えています。