「東京大学の海研究」を束ねて進めて14年/木村伸吾 海洋アライアンス連携研究機構
すべての生命の故郷にかかわる研究・教育活動集
あらゆる生命の故郷であり、地球の生物の生存を支えている海に関する科学を世界で進めるための「国連海洋科学の10年」。2021年はこの大きなキャンペーンがスタートした年です。そして東大は今年、海とともに歩んできた科学者を新総長に迎えました。工学、物理学、生物学、農学、法学、経済学……。様々な分野の事例が映し出す東大の海研究と海洋教育の活動について紹介します。
「東大の海プロジェクト2」 |
「東京大学の海研究」を束ねて進めて14年
海に関わる東大の研究教育を語る上で欠かせない役割を果たしてきたのが海洋アライアンスです。学生の教育プログラム、インターンシップ、そして全学の海研究を束ねるシンポジウム。14年の歩みについて機構長に聞きました。
海に関する研究・教育を部局の枠を越えて進めようという意識の高まりを受け、2007年に誕生した全学ネットワーク組織が海洋アライアンスです。海洋研究所(現・大気海洋研究所)、理学系の惑星科学や臨海実験所、農学系の水圏生物科学、工学系や生産技術研究所の海洋工学など、海に関する取組みは多くの部局で行っていましたが、特に教育の部分で横の連携が乏しかったのです。
2009年、横断型教育の柱として大学院生向けの海洋学際教育プログラムを立ち上げました。感染症を水際で防ぐマリンバイオセキュリティ、洋上風力発電、海洋プラスチックごみ、食料安全保障という4つのプロジェクトに所属の異なる学生たちが参画し、講義と演習を組み合わせて各々の現場でPBL(Problem-based Learning)を行っています。また、駒場の1・2年生向けには入門講義「海研究のフロンティア」と全学体験ゼミナール「海で学ぶ~臨海実験所での体験実習~」を開講しています。
インターンシップにも力を入れ、2014年に海外派遣制度を開始しました。国連の工業開発機関(UNIDO)や食糧農業機関(FAO)、国際海事機関(IMO)といった組織に学生を3~6ヶ月間派遣するものです。これまでに10の機関に50人が赴き、世界が直面する課題の解決に向けた方策を実務の現場で探求してきました。
研究では、海洋関係の研究者が学内だけで250人以上いるという強みを生かした取組みを続けています。たとえば海洋の利用に関する合意形成手法の開発です。海では様々なステークホルダー間での合意形成が必要となり、EEZ(排他的経済水域)やBBNJ(国家管轄権外区域の海洋生物多様性)の問題もあります。実は他国のEEZで水を汲むだけでも複雑な手続きを踏む必要があり、科学の研究においても法律が関わってくるのが現代の海洋です。公共政策大学院や東洋文化研究所など、社会科学の研究者も参画している当機構では、数年かけて様々な問題点を洗い出し、海洋利用のガイドラインを公表しています。
メガ津波から命を守る防災の高度化研究、海洋生物の回遊生態の解明、マイクロ・ナノ海洋複合センシングにも機構として力を入れてきました。勉強会をもとに大きく成長したのは、沖ノ鳥島・小島嶼国プログラムです。サンゴ礁の形成による保全など、海面上昇の問題を抱える国々の支援に生態工学的技術を役立ててきました。もう一つ特徴的なのは、沖合1kmの観測タワーを使った平塚タワープログラムです。大がかりな観測船を使わずとも波浪、水位、水温、風など洋上のデータを取得できます。データは神奈川県にリアルタイムで提供し、サーファーや漁師が海に出る際の判断材料になっています。
アウトリーチ活動では、「東京大学の海研究」と題したシンポジウムを毎年行ってきました。あえて海洋研究と言わず海研究と呼んでいます。15回の歴史は海に関わる東大の研究の歴史そのものと言えるでしょう。培ってきた知とネットワークを軸に、海に囲まれた日本と、そして世界に貢献していきます。
1 | 海からの恩恵と災害 |
2 | 海から未来を考える |
3 | 海と人間との新たな接点 |
4 | 海の現在と明日 |
5 | 地球システムとしての海 |
6 | 震災を科学する |
7 | 人と海のかかわりの将来像 |
8 | 撹乱の時代 |
9 | 海洋研究と社会の接点 |
10 | 新たな手法と視点が海洋の常識を覆す |
11 | 海洋アライアンス発・海研究の最前線 |
12 | 社会への提言 |
13 | 若手研究者の最近の成果から |
14 | 水産改革と日本の魚食の未来 |
15 | 海洋プラスチック研究のゆくえ |