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東大の海の実験所/吉田学・林昌奎・菊池潔 日本の臨海研究と教育の重要拠点

掲載日:2021年12月14日

海と東大。
すべての生命の故郷にかかわる研究・教育活動集

あらゆる生命の故郷であり、地球の生物の生存を支えている海に関する科学を世界で進めるための「国連海洋科学の10年」。2021年はこの大きなキャンペーンがスタートした年です。そして東大は今年、海とともに歩んできた科学者を新総長に迎えました。工学、物理学、生物学、農学、法学、経済学……。様々な分野の事例が映し出す東大の海研究と海洋教育の活動について紹介します。
日本の臨海研究と教育の重要拠点

東大の海の実験所

海に関する研究・教育の活動を進めるには、 海の近くに活動の拠点があることが重要な価値を持ちます。 三崎で、平塚で、浜松で。それぞれの場で長い時間をかけて 東大の海研究を推進してきた3つの実験所について、 現地に一番詳しい研究者に紹介してもらいました。

「海から生命を学ぶ」三崎の実験所

理学系研究科附属臨海実験所
吉田 学/文
理学系研究科准教授
YOSHIDA Manabu

理学系研究科附属臨海実験所(通称:三崎臨海実験所)は東大が出来て僅か10年後の明治19年、動物の多様性では量・種数とも世界に誇る相模湾に面した三浦三崎の地に設立されました。当時は生物学が分類学だった時代です。多種多様な海産生物を観察することで生物の分類体系、ひいては動物進化の過程の理解が進んできました。その後、研究の中心は分類学から発生学、生理学、分子生物学と移ろいましたが、一貫して、多種多様な海産生物の理解を元に、動物の進化や多様性の理解をめざして研究を行っています。また、臨海実験所は海の生物を研究する上での重要な拠点となっており、所員が研究を行うだけでなく、共同利用施設として実験材料の供給や多くの外来研究者の受入れを行っています。多様な海産生物を観察することは生きた系統分類学の教育となることから、多くの大学・高校の実習も受け入れ、研究利用・教育利用あわせて年間のべ2万人超の外来利用があります。さらに、三浦市とも連携し、アウトリーチ活動として一般の方を対象とした自然観察会や、小学生を対象とした真珠養殖プロジェクトなども行っています。2020年には80年以上も実験所のシンボルとして親しまれていた旧本館(記念館)と水族館が老朽化により取り壊され、これらに変わる建物として新たに教育棟が竣工しました。教育棟には最新の設備を持った実習室の他、展示室や会議室、共同実験室、水槽室などが新設され、実験所の外来利用の新たな拠点として歩み出しました。「海から生命を学ぶ」をモットーに、臨海実験所は多種多様な海産動物の研究教育活動を進めます。

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実験所の歴史を物語る資料が並ぶ教育棟の展示室
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取り壊し前の記念館と調査船の臨海丸
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2020年8月の教育棟完成披露式典より

海洋データの沖合プラットフォーム

海洋アライアンス連携研究機構平塚総合海洋実験場
林 昌奎/文
生産技術研究所教授
RHEEM Changkyu

平塚総合海洋実験場は、相模湾平塚沖1km、水深20mの海域に設置されている海洋観測のための研究施設である平塚沖総合実験タワー(以下、平塚タワー)と陸上の支援施設で構成されています。

平塚タワーは、1965年に建設され(当時の名称は波浪等観測塔)、主として波浪観測の分野で55年以上の長きに亘り、海洋データを集める上で大きな力を発揮してきた、我が国の数少ない貴重な沖合プラットフォームです。国立研究開発法人防災科学技術研究所より、新たな海洋研究を発展させる施設として、2009年に東京大学に移管されました。海洋アライアンス連携研究機構は、平塚沖総合実験タワープログラムを設置して管理運営をおこない、海洋実験プラットフォームとして有効活用し、機器開発や海洋観測などの研究・教育施設として利用しています。内部には観測機器の設置や観測作業のためのスペースがあり、電力及び通信設備が備えられています。陸上には観測データの管理及び解析をおこなう装置、研究室、会議室などを備えた施設があり、タワーへの通船が運行されています。

平塚タワーでは1965年の設置以来、波浪、水位、水温、流れなどの海象データ、風、気圧、気温、湿度、温度などの気象データ、ライブカメラによる映像データの観測を行い、データベース化するとともに、神奈川県と共同でWEB(https://www.hiratsuka-tower.jp/)によるリアルタイム配信を行っています。観測データは、水産業、海洋レジャー、気象解析、海難事故解析、海岸構造物の設計などに活用されています。運営費用は施設やデータを利用するユーザーの負担金で賄われており、設置目的に沿った活動であれば誰でも利用可能で、広くユーザーを募集しています。

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平塚沖1kmにそびえる黄色のタワー。
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タワー内部には様々な機器が。
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タワーに設置されている波浪観測レーダー。

浜名湖のほとりの海洋生物研究拠点

農学生命科学研究科附属水産実験所
菊池 潔/文
農学生命科学研究科教授
KIKUCHI Kiyoshi

水産実験所は、静岡県は浜名湖のほとりにある農学系の附属施設です。東大には古くから神奈川県三崎町に臨海施設がありましたが、そこは地形的に養殖や内湾性生物の研究にむかないという理由で、敗戦前、二・二六事件があった頃に、ふたつの水産実験所が愛知県につくられました。その後、高度経済成長のまっただ中に今の場所に移転・統合されましたが、水産生物の飼育実験ができるということで、東京都からたくさんの学生がおしよせて、当時はたいへんな盛況だったそうです。東大をふくめた日本の水産研究が、世界をリードしていた時代だったと聞いています。

水産実験所のすぐわきにある浜名湖ですが、湖という呼称とはうらはらにほぼ海水でみたされています。湖の面積としては、日本で10番目の大きさだそうです。浜名湖は魚介類の赤ちゃんのゆりかごという機能も担っているとのことで、いかにも沖合にいそうな魚の子供をみかけることもしばしばです。気候は温暖で(冬の風はかなりすごいのですけれど……)、 広々として気持ちのよいところです。

現在、水産実験所には3人の教員(菊池潔・細谷将・平瀬祥太朗)がいて、おたがいに協力しつつ研究を進めています。水産生物を研究対象とすることと、それをゲノム遺伝学的手法で解析することが3人の共通点です。それに加えて3人の技術職員が配置されていて、学生実習の補助、実習船の運転、海産生物の採取・交配・飼育、施設の維持などを担当しています。

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弁天島乙女園にある実験所の外観。
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100面以上の飼育実験水槽があります。
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実験所から望む夕焼けの浜名湖。

東大の海研究者の専門分野名内訳

20 海洋物理学
8 海洋生物学
7 水産海洋学、生物海洋学
6 海洋環境工学、海洋生態学、海洋生物地球化学
5 海洋生態系工学、海中プラットフォームシステム学、海岸工学
4 海洋フォトニックス、海洋地球化学、海洋地質学、
3 化学海洋学、海洋工学、海洋生理学、海洋微生物学、海洋微生物生態学、海洋力学、船舶海洋工学
2 海中ロボット学、海洋音響システム工学、海洋化学、海洋再生可能エネルギー、海洋生物生態学、古海洋学、海洋環境学
1 沿岸海洋学、海域地震学、海域地震観測、海運、海運GHG削減、海事産業政策、海生哺乳類学、海中・海底情報システム学、海底固体地球計測、海底広帯域地震学、海底地質学、海底電磁気学、海氷、海面観測、海面災害、海洋エネルギー、海洋ゲノム学、海洋システム工学、海洋マントル岩石学、海洋科学、海洋学、海洋観測地震学、海洋空間利用、海洋構造動力学、海洋細菌学、海洋情報、海洋植物学、海洋政策、海洋生物地球科学、海洋地球物理学、海洋底地球物理学、海洋土木工学、海洋物質循環気候学、海洋保全政策、海流・波浪機構解明及び工学的応用、海洋法、深海工学、深海生物学、深海乱流混合、先端海中センサー工学、総合海底観測工学、微生物海洋学、物理海洋学、分子海洋生物学

東京大学海洋アライアンス連携研究機構に名を連ねる研究者のなかで各々が記した専門学問分野名に「海」が含まれるものだけを抽出して数えたのが上の一覧です。東大で行われている海研究の全貌を捉えるのは難しいですが、その多様性はここからも浮かび上がります。

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