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女性が発芽する大学になるために |ダイバーシティと東大 06|高橋美保先生の巻 男女共同参画室 進学促進部会長

掲載日:2022年3月16日

このシリーズでは、東京大学のダイバーシティ(多様性)に関する課題や取り組みを、教員たちへのインタヴューを通して紹介していきます。 東京大学は多様な背景をもった人たちが、活き活きと活動できる場の実現を目指します。

2019年に本郷キャンパスで開催した「女子高校生のための東京大学説明会」では参加者と在学生が気軽に話せる機会を設けました。2020年度以降はオンラインで開催されています。

 

東京大学への進学を選択肢の一つとして、一度考えてみてほしい。そう話すのは、2019年から男女共同参画室の進学促進部会長を務め、女子高生に東大に目を向けてもらう取り組みを行ってきた高橋美保教授です。さまざまな女子学生向けの企画を行ってきた中で先生が感じてきたのが、学力があっても、「選ぶ前に東大を選択肢から外してしまっている」のではないかということです。

「私はそれがもったいないなと思っていて。一度吟味してほしい。そして吟味するために、東大に触れてほしいと思っています」

「リアル」な東大に触れてもらおうと、高橋先生が特に力を入れてきたと話すのが、男女共同参画室が毎年開催している「女子高校生のための東京大学説明会」です。2006年に始まったこの説明会では、女子学生への家賃補助などの具体的な支援策の説明や、在学生が経験談などのプレゼンテーションを行っています。近年では、一方的な情報提供だけにならないように、小グループに分かれてのディスカッションの時間も設けています。女子高生4,5名と在学生2人くらいのグループで、気軽に話せる機会は参加者にとても好評だそうです。

「リアルな東大生と話をすることによって、『普通の人なんだ』と感じたり、いろんな人と触れ合うことによって、東大を地続きのものとして体感できるような」場にしたいと、構成を考えてきました。

これまではキャンパスで開催してきましたが、コロナ禍のため2020年からはオンラインで行われています。直接会うことはできないものの、オンラインで行うことで、「東京まで行かなくてはいけない」という物理的ハードルが取り払われ、全国からも気軽に参加できるようになったことが最大のメリットだ、と高橋先生は言います。昨年10月に開催した説明会には、録画での視聴も含むと、日本全国だけでなく海外在住者も含めて計463人の中高生が参加しました。対面で行った2019年秋の説明会の292人から大幅の増加です。

「ぜひ顔を出してほしい。それで違うなと思えばそれはそれでいいと思います。でも、顔を出してみないと、自分の中で何が起こるかはわからないのではないでしょうか」


価値観の影響

進学先として東大を除外する傾向は、地方在住の女子学生に特に強い、と高橋先生は話します。そこには「女の子だから東京は駄目、できれば国立、しかも現役で」といった「自己呪縛」のようなものがあると指摘します。岐阜県出身の高橋先生自身、選択肢として東大は考えもしなかったそうで、実はその感覚がよく分かると話します。

高橋美保教授
高橋美保教授・男女共同参画室 進学促進部会長

この呪縛に大きく影響しているのは、家族や社会や学校といった周囲の価値観です。「保護者からすると、東大にまで行って、『嫁に行けなくなったらどうする』といったような感覚がいまだにあるようです。女性が、高学歴やすぐれた学びを得ることに対して、マイナスの『何か』がついているのかもしれないなと思うこともあります」

「大人も、好きで女子学生に呪縛をかけているのではありません。大人自身が呪縛をかけられたまま大人になったのであれば、呪縛の存在に気づけないかもしれませんし、呪縛を否定することが自己否定につながる気がするかもしれません。でも、その呪縛から目覚めた大人には、次の世代の呪縛を意識的に解いていく責任があると思います」

高橋先生が臨床心理学研究の道を歩み始めたのは、大学を卒業し、5年ほど民間企業に勤めた後に、「自分が自分らしく生きるようになってから」だったそうです。その時「初めて、本当に自分がやりたいことをやっていい、という感覚を持った」と当時を振り返ります。巡り巡って、博士課程で東京大学に入学した高橋先生は、「東大がすべての人にとって一番いいとは思いません。でも、東大という選択肢を持ってみる権利は誰にでもあるんだよ、ということは今の学生に伝えたいです」

先生が女子高生にいつも伝えているメッセージが「迷ったら、まずは今後の自分の選択肢を増やす選択をする」ということです。自分のやりたいことがはっきりしないのであれば、将来の人生のチャンスや、豊かな人間関係を与えてくれるような大学を選んだほうがいいとアドバイスしているそうです。「東大がすごくいいのは、入学してから進学選択ができること。入学してから何がいいかを選ぶチャンスが十分あります」

なぜ女性を増やすべきか

東大全体で見ると学部学生の女子比率は2割程度ですが、高橋先生のゼミでは男女比が逆転しているそうです。「学内でもばらつきがあって、教育学部は東大で一番女子が多い学部なんです。私の専門としている臨床心理学は圧倒的に女性が多い分野なんです。私のゼミには2割しか男性がいない。東大にもそういう世界ってあるんです」と話します。そのような女性が活躍する学問を増やしていくことも大切なのでは、と先生は考えています。

そもそも学問体系自体が男性中心に作られ、発展してきたのではないか、と話す高橋先生。もしそうであれば、女性が活躍する新しい領域を開拓し、アカデミアにしていくべきではないかと言います。

「今の学問体系を超えていくものを作っていくときには、それを生み出せる人たちが必要です。その時に、女性が2割だと少ないと思います。そういう意味で私は女子学生を増やす必要があると考えています」

学問の世界を広げていけるような仲間が増えてほしいと話す高橋先生。これまでの、より多くの女性に進学してもらう取り組みは、「種をまいているようだ」と話します。「願わくは東大に来てもらって、発芽してほしい。それだけの土壌がある大学だと思います。大学のためにも、社会のためにも、女子高校生のためにも、東大との良き出会いがありますように、と願っています」

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