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三島vs東大全共闘の討論会を熱と言葉のドキュメンタリーに/豊島圭介さん

掲載日:2022年5月3日

UTokyo映画祭2022
カンヌやベルリンでやっているものとは違う、大学ならではの映画祭です。用意したのは、映画監督と研究者の対談、映画研究者4人による研究紹介、映画人として活躍する卒業生紹介、研究者12人が薦める映画作品集……。映画と大学の掛け算の成果をご覧ください。3、2、1、アクション!

半世紀前に駒場で行われた伝説の討論会を熱と敬意と言葉のドキュメンタリーに

豊島圭介さん
TOYOSHIMA Keisuke
監督の後ろに見えるのは900番教室の演壇に直結する通用口
写真:貝塚純一

1969年5月13日、駒場で一つの討論会が行われました。東大全共闘の学生の求めに応じて900番教室に乗り込んだのは、三島由紀夫。市ヶ谷駐屯地で割腹自殺する1年半ほど前に、1000人超の聴衆と4時間にわたって熱く真摯に言葉で対決する伝説の討論会となりました。

このときにTBSが撮影した記録映像を軸に、当時の関係者13人の証言を集めて全貌を伝えるドキュメンタリー作品を撮ったのが、教養学部出身の豊島圭介監督です。浜松で育った映画好きの少年が東大を志したきっかけは、本学の研究者が書いた一冊のブックレットでした。

「高3のとき、書店で『映画からの解放』という本を手に取りました。小津安二郎監督の作品を予備校生向けに解説した講演のまとめ本でしたが、そのなかに、表象文化論という新しい学科を立ち上げたから興味を持ったらぜひ来てほしいと書いてあったんです。著者は蓮實重彥先生でした」

上京して予備校に入り、「気が狂いそうになるほど」勉強し、文科三類へ。1年生の頃から映画関連の授業を履修し、三木秀則さん(現・鉄緑会主任)や木下千花さん(現・京都大学教授)との交流を通して自主映画を撮るようになった豊島さん。4年生となり、松浦寿輝先生の指導で書いた卒論のテーマは、エルンスト・ルビッチの『生きるべきか死ぬべきか』。ドイツのワルシャワ侵攻時に『ハムレット』を上演する劇団員がナチスに扮して逃げるという世界史的にも重要な作品に向き合いましたが、いまも心に刺さるのは、審査の場で蓮實先生に言われた言葉でした。

「第一部で歴史的な位置付けを、第二部で映画の構造を分析したんですが、『この先の第三部を書かないと意味がない』と言われました。新しい発見を試みないとダメだ、と。僕は器用なほうでどんな分野でもある程度対応する自信がありますが、映画でも「第三部」を書けていないのではないか、といまも自問自答しています」

卒業後にアメリカの映画学校(AFI)に留学し、帰国後はホラー、コメディ、アイドルものなどジャンルを問わず職業映画監督として活躍してきた豊島さんですが、ドキュメンタリーの分野は手付かずでした。社会問題の現場に長期間入り込んで撮る小川紳介監督や佐藤真監督のやり方を在学中に知り、自分にはとても手に負えないものだと思っていたのです。学生運動に関わる世代ではなく、三島作品の大ファンでもありませんでした。それでも、同窓ながら学生時代は面識がなかったプロデューサーの刀根鉄太さんから打診を受けた豊島監督は、企画を引き受けます。三島自決のインパクトを知らない世代の視点で作りたいと言われたのが決め手となりました。

辱めを受けた場合には自決する覚悟で討論会に臨んだという三島と満員の聴衆たち
撮影:新潮社 清水寛

「監督としてできることは限られます。登壇者のなかでも特に印象が強烈な、赤ん坊を抱いた舌鋒鋭い青年の現在の姿と感情の動きを撮らないと映画にならないと思いました。現役の演劇人で独特の宇宙を持つ芥正彦さんの取材は一筋縄ではいかず、叱られているような感触の4時間でしたが、一方で「撮れてる!」と手応えも感じていました」

13人の取材と映像の編集を通して豊島監督が仮想敵のように意識するようになったものがありました。それは、醜い言葉が匿名で発せられ、拡散され、人を傷つけることも少なくないSNSのコミュニケーションです。 「討論の中身を現代の我々がすべて理解できるとは思いません。でも、三島だ、全共闘だ、ときちんと名乗りを上げ、相手の呼吸が感じられる距離で言葉をぶつけ合う姿に、コミュニケーションの正しさを感じました」

本編のナレーションに監督が組み入れたのは「討論会にあったのは熱と敬意と言葉である」という一節でした。「第三部」の存在は、ここからも確かに伝わってきます。

映画本編より、紛争時の安田講堂と討論会の様子。赤ちゃんを抱っこするのが芥さん。
©2020映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」製作委員会

『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』
監督:豊島圭介 出演:三島由紀夫、芥正彦、木村修ほか ナレーション:東出昌大 配給:ギャガ 2020年 DVD 4,180円(税込)発売元:TBSテレビ 販売元:TCエンタテインメント

 

豊島監督の著書『東大怪談』(サイゾー出版)
遭遇した怖い人間の話や超常現象の体験など東大出身者11人による怪談を集めた本。「理詰めで考える東大出身者は安易に超常現象を鵜呑みにしないはず。そういう人が体験したというなら本当かもしれない、という意図です。監督デビュー作の『怪談新耳袋』をはじめとするホラー作品の経験と三島の映画で培ったインタビュー力を使って書いた、怪談を語る東大出身者にフォーカスした一作です」

取材協力:ルヴェソンヴェール駒場 旧制一高の同窓会館を改修したフランス料理店&ゲストハウス。https://leversonverre-tokyo.com/restaurant/komaba.html

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