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どうして深海魚は光を放つの?→猿渡敏郎|素朴な疑問vs東大

掲載日:2022年9月29日

素朴な疑問vs東大
「なぜ?」から始まる学術入門

言われてみれば気になる21の質問をリストアップし、その分野に詳しそうなUTokyo教授陣に学問の視点から答えてもらいました。知った気でいるけどいざ聞かれると答えにくい身近な疑問を足がかりに、研究の世界を覗いてみませんか。

Q.3 どうして深海魚は光を放つの?

よく知られたチョウチンアンコウを筆頭に、多くの深海魚は光ります。なぜ体の一部を光らせるのでしょうか? 照明がわり?
A.餌をおびき寄せたり姿を見えにくくするため
回答者/猿渡敏郎
SARUWATARI Toshiro
大気海洋研究所 助教

突起に発光バクテリアが寄生

太陽光がほとんど届かず、暗く冷たい深海。この水深200メートル以上の海域に生息する生物で、知名度が高いのがチョウチンアンコウです。この深海魚の頭から出ている釣り竿のようなものは背びれの一部で誘引突起と呼ばれます。その先端に発光バクテリアを寄生させた擬餌状体と呼ばれる発光器があります。暗い水中で、この発光器を光らせ、餌のエビや小魚をおびき寄せます。また、これはあくまでも推測ですが、この発光器で同種同士のコミュニケーションをとっている可能性もあります。

白鳳丸で採集され、猿渡先生には「運命の出会い」となったミツクリエナガチョウチンアンコウ(Cryptopsaras couesii Gill, 1883)。
体の左側に7匹のオスが寄生しています。体長は31センチほど。

海の中層から海底の間で浮遊生活を送るチョウチンアンコウの擬餌状体は、種によって形質が異なります。これまでに166種確認されていて、お互いをこの発光器で識別しているのです。

深海魚の多くは発光します。しかし、チョウチンアンコウと違い、多くの場合、発光器は腹部にあります。海の中にわずかに差し込む光は上からくるので、腹部を光せることによって影を打ち消し、見つかりにくくしているのではないかと言われています。この発光器の色、実は魚種によって違います。私が見たことがあるのは、青、緑、ピンク(残念ながらチョウチンアンコウが発光しているところは見たことがありません)。

水深150~450メートルの海底に暮らす深海魚、アオメエソ(Chlorophthalmus albatrossis Jordan & Starks, 1904)。肛門の近くに発光器がありますが、そこを光らせる理由は分かっていません。アクアマリン福島にて撮影。

メスに寄生して生き延びるオス

深海に生息するチョウチンアンコウを採集するのは非常に難しく、めったに目にすることはできません。しかし幸運なことに、2000年の学術研究船白鳳丸での調査で、非常に状態のよいメスのミツクリエナガチョウチンアンコウを採集できました。網にかかった魚のなかにチョウチンアンコウを見つけた時は、膝が震えました。しかも、このメスには8匹ものオスが寄生していました。

100種以上いるチョウチンアンコウのうち、25種はメスの体表にオスが寄生することが知られています。オスは寄生した後、メスから栄養をもらい成長を続けます。常に一緒にいれば、タイミングがよい時に受精し子孫を残せるため、そのように進化してきたのではないかと考えられています。複数のオスが寄生するということは、さまざまな形質の子供を残せるため、多様性の維持の観点からもメリットは大きいのです。

では、オスはどのようにして寄生するメスを見つけているのでしょうか。オスを正面から見ると、中央にとても大きな一対の鼻の穴があります。その鼻腔内には嗅房と呼ばれる匂いを感じる器官があり、とてもよく発達しています。ここを使い、メスのフェロモンの匂いを嗅ぎ分けると考えられています。寄生できなかったオスは、ある程度の大きさまで成長すると死んでしまっているようです。厳しい世界ですね。

深海魚では他にもアオメエソ(通称:メヒカリ)の生態に関する研究を続けています。フライなどで食べるとおいしい魚で、未成魚は大量に捕れますが、成熟すると日本中の漁場からいなくなります。産卵回遊に出発したと思われますが、どこまで行っているのか明らかになっていません。どの深海魚もまだ謎だらけなのです。

猿渡先生の本
生きざまの魚類学』(東海大学出版、2016年)
卵から死まで魚の一生を解説した一冊。マサバやサケなどさまざまな魚の生活史を紹介しています。
 

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