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楽しい時間はなぜあっという間に過ぎるの?→四本裕子|素朴な疑問vs東大

掲載日:2022年10月4日

素朴な疑問vs東大
「なぜ?」から始まる学術入門

言われてみれば気になる21の質問をリストアップし、その分野に詳しそうなUTokyo教授陣に学問の視点から答えてもらいました。知った気でいるけどいざ聞かれると答えにくい身近な疑問を足がかりに、研究の世界を覗いてみませんか。

Q.4 どうして楽しい時間はあっという間に過ぎるの?

楽しい時間を過ごしていると、時間の進み方が速くなったように感じることがあります。なぜ時間の知覚が変わるのでしょうか。
A.心の時計を早送りする神経伝達物質が出るから
回答者/四本裕子
YOTSUMOTO Yuko
総合文化研究科 教授

時間知覚を左右する時を刻むペースメーカー

私たちはどうやって時間を知覚しているのでしょうか。その代表的な考え方に「ペースメーカーモデル」と呼ばれるものがあります。それは、私たちの心の中にチクタクと時を刻むペースメーカーと蓄積機があって、そこに一定数、時が溜まると「これだけの時間が過ぎたな」と感じるというものです。楽しい時間はあっという間に過ぎる、ということはこのペースメーカーが普段より早い間隔でチクタクと動き、実際よりも短い時間で時が溜まるということ。これはあくまで概念的なモデルで、文字通りのペースメーカーが私たちの頭の中にあるわけではありませんが、そのようなものを仮定して人間の時間知覚を理解しよう、という研究の流れがあります。

このペースメーカーを何が速めて何が遅くするのか、ということに関連がありそうな神経活動に、アルファ波やベータ波といった周波数が違う脳波があります。脳の細胞は、いろんな周波数の脳波がシンクロナイズしながら活動していますが、その同期活動のタイミングがペースメーカーの速さと関連しているのではないかと考えられています。

脳の構造や機能を測定する機能的MRI。この機器で脳をスキャンして、脳の時間知覚などを調べています。
機能的MRIでスキャンした脳の画像。

楽しいとドーパミンの量が増える

私たちの脳には、音声や画像を認識する視覚野や聴覚野はありますが、時間情報処理だけに特化した領域は見つかっていません。それは別の見方をすると、全ての脳の領域がペースメーカーの速さに影響を及ぼしうるということ。脳の皮質下領域という呼吸の制御や体温調整などを行う部分や、大脳皮質という情報処理や思考といった高次の認知機能を担っている領域も時間の情報処理に関係しています。その中でも特に大きく影響しているのが、大脳基底核という脳の部位。その大脳基底核が関わっているのがドーパミンという神経伝達物質で、これが足りないときちんと時間が知覚できなくなります。このドーパミン、私たちが楽しい、嬉しいなどと感じるときに量が増えるんです。

ただ人間が時間をどうやって認識しているのかは、まだよく分かっていないことも多く、私はそこを知りたくて研究をしています。私の研究室では、数秒から長くて数分の時間知覚のメカニズムについて心理実験や機能的MRIを使って脳活動の測定などを行っています。例えば、脳波の電極を頭の後ろの部分に貼って測定すると、8Hzから12Hzくらいのアルファ波成分がよく観察されるんですが、そこに外から電流を流して神経同期活動を無理やり早めたり遅くすると、時間知覚にどう影響するのかということを測定したりしています。基礎研究は、「これは世の中に役立つぞ」と予想するものではありません。目の前に謎があるから、それを知るために実験をし、答えを見つける。その過程は楽しく、喜びです。

脳波測定や行動実験により、人間が時間を感じる仕組みを調べます。 
脳波を計測できるヘッドキャップを被る四本裕子教授
参考図書
脳のなかのびっくり事典』(ポプラ社、2020年)
脳にまつわる様々な「ざんねん」や「びっくり!」をやさしく紹介し、脳の謎に迫る児童向けの一冊。四本先生が監修を担当。
 

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