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あいうえお/あかさたなの順なのはなぜ?→肥爪周二|素朴な疑問vs東大

掲載日:2022年10月13日

素朴な疑問vs東大
「なぜ?」から始まる学術入門

言われてみれば気になる21の質問をリストアップし、その分野に詳しそうなUTokyo教授陣に学問の視点から答えてもらいました。知った気でいるけどいざ聞かれると答えにくい身近な疑問を足がかりに、研究の世界を覗いてみませんか。

Q.7 「あいうえお/あかさたな」の順なのはどうして?

日本語の五十音の順番はそもそもなんで「あいうえお」の順なの?昔は「いろはにほへと」というのも使われてなかったっけ?
A.密教の僧侶が梵字を勉強したから
回答者/肥爪周二
HIZUME Shuji
人文社会系研究科 教授

呪文を正しく唱えるために僧侶が工夫

「あいうえお」の段順、「あかさたなはまやらわ」の行順は、インドの字母表の配列に従ったものです。密教の僧侶たちは、真言・陀羅尼などの呪文を梵語で正しく唱えるために、熱心にインドの文字を勉強しました。梵語の発音は非常に複雑で、文字数が7,000以上もあり、元の字母表も長大なものでした。五十音図は、それを日本語に合わせて簡略化したような組み立てになっています。

梵字の字母表である「悉曇章」(のごく一部)。標準的な悉曇章は18章から成ります。悉曇は「成就」の意を持つsiddhaṃ の音訳。冒頭にこの語を書いてその表の成就を祝福したのが由来といわれます。

梵字の字母表の冒頭には母音が並びます。まずa ā i ī u ū の基本的な母音、次にe ai o auという二次的な母音が配列されます(以下、話を単純化します)。日本語の仮名一字で書けるものを拾い出すと「あいうえお」の段順ができます。二列目以降には、母音の前に子音を加えた文字が並びます。最初の子音はkなので、二列目にはka kā ki kī ku kū ke kai ko kauが配列され、日本語に移すと「かきくけこ」です。以下同様に30以上の子音と組み合わされたのが字母表の第一章です。

子音は大きく2つのグループに分けられます。まずは強い子音(破裂音・破擦音・鼻音)で、調音位置が口の奥のほうの子音から順に配列され、調音位置が同じものの中では鼻音が最後になります。ここまでを日本語に移すと「かさたなはま」の行順になります(清濁の区別は省略されます)。次に弱い子音(接近音・摩擦音)のうち、調音位置が口の奥のほうから順に配列された接近音(半母音)を日本語に移すと「やらわ」の行順になります。こうして「あいうえお/あかさたなはまやらわ」の順ができました。

ただし、五十音図が最初から現在の形だったわけではありません。現存する最古の音図(西暦1000年頃)は「いおあえう」順であり、二番目に古い音図には「あいうえお」順と「あえおうい」順の二種類が載っています。「あえおうい」順はある程度普及したようで、平安時代の歌学書類に例が見られます。行順はそもそも特定の順で並べる必要がなく、かなり時代が下っても、用途に応じて様々な配列が使われました。江戸時代までの音引き辞書が「五十音引き」ではなく「いろは引き」が一般的だったのは、五十音図の行順が流動的だったからでもあります。

私は梵語を扱う悉曇学を皮切りに、漢字音や国語音へと展開しながら日本語の音韻史を研究してきました。最近では、「みぎがわ/みぎっかわ」「かわべり/かわっぺり」のように、濁音と鏡のような振る舞いをすることのある促音挿入の問題に興味を持っています。膨大な研究の蓄積がある濁音に比べると、促音の方は、歴史的な事実も現代語における実態も十分には解明されていません。促音の研究を深めることが、濁音についても新たな知見をもたらすのではないかと思っています。

参考図書
日本語あれこれ事典』(明治書院、2004年)
日本語に関する様々な疑問に答える一冊。肥爪先生は五十音図の話のほか、「じ」と「ぢ」の使い分けについても解説しています。
 

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