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どうして歳を取るとボケるの?→富田泰輔|素朴な疑問vs東大

掲載日:2022年10月20日

素朴な疑問vs東大
「なぜ?」から始まる学術入門

言われてみれば気になる21の質問をリストアップし、その分野に詳しそうなUTokyo教授陣に学問の視点から答えてもらいました。知った気でいるけどいざ聞かれると答えにくい身近な疑問を足がかりに、研究の世界を覗いてみませんか。

Q.9 どうして歳を取るとボケるの?

人の名前が思い出せなかったり、同じことを何度も言ったりといった症状が現れる認知症。脳の中で何が起こっているの?
A.脳内に「ゴミ」が溜まるから
回答者/富田泰輔
TOMITA Taisuke
薬学系研究科 教授
1.神経原線維変化
タウというタンパク質から作られる神経原線維変化。脳に溜まると、神経細胞死が起きる確率が高いと考えられています。
2.老人斑
アミロイドβというタンパク質から構成される老人斑。脳に溜まると、将来的にアルツハイマー病を発症する確率が高いと考えられています。これまで脳内のアミロイドβ蓄積量を調べるためには、脳画像を解析したり脳脊髄液を分析するといった大掛かりな検査が必要でしたが、分析技術の進歩により血液で推測できるようになり、実用化に向けての取り組みが進んでいます。

脳内にタンパク質が蓄積

認知症で一番問題なのは、記憶したり、考えたり、判断したりといった認知機能が低下することです。脳では神経細胞同士がコミュニケーションを取ることによって、記憶ができたり、感情が生まれたりしていますが、認知症の過半数を占めるアルツハイマー病の患者さんの脳を見ると、多くの神経細胞が死んでしまっています。そのメカニズムを理解するための研究が、100年以上前から行われてきました。

タンパク質の分析技術や遺伝子の解析の進歩などにより分かってきたのは、老人斑と神経原線維変化と呼ばれる「ゴミ」が脳内に溜まり、それが神経細胞死を引き起こしているということです。老人斑はアミロイドβ、神経原線維変化はタウというタンパク質で、脳ができた時から脳内にあります。すべてのタンパク質は、作られては壊される、というプロセスを常に繰り返していますが、特にアミロイドβについては、歳を取ると代謝が下がり、脳内に蓄積しやすくなります。今考えられているのは、このアミロイドβが蓄積し、その状態が長時間続くと何かしらのストレスがかかりタウが溜まる。それが最終的に神経細胞死を引き起こすということです。

脳に光を照射しゴミを分解

アルツハイマー病に対する根本的治療法は、まだ確立されていません。神経細胞は死んでしまうとほとんど復活できないというのが脳の病気の難しいところ。近年では発症前の治療法として、脳内に蓄積したタンパク質を除去するための研究が、さまざまな研究機関で行われています。私の研究室が金井求教授の研究室と共同で取り組んでいるのが、光認知症療法です。光を当てると活性化してアミロイドβが分解されやすくなる薬(光酸素化触媒)を投与しておき、脳に光を照射するという方法です。薬剤の問題の一つに副作用がありますが、この治療では光を当てたところだけ活性化するため、薬が全身に巡っても悪さをしません。今後数年以内に治験を開始できればと思っています。

脳内にアミロイドβが蓄積したモデルマウスに光酸素化触媒を投与し、脳に光を照射。触媒を投与していないマウスと比べて、触媒を投与したマウスの脳内のアミロイドβの量が減少しました。

認知機能低下のリスクを下げるために日常生活でできることは、頭を使いながらの運動と健康的な食生活です。ありきたりですが、確実に一定のリスクを下げることが分かっています。最近では睡眠との関係も注目されていて、マウスの実験では、睡眠中に脳からゴミが除去されていることが分かってきました。

今私が注目しているのは、アミロイドβが蓄積するとなぜタウが溜まるのかということです。アミロイドβ蓄積→タウ蓄積→神経細胞死というプロセスは全部で10年から20年ほどかかりますが、それぞれの間で何が起こっているのかはまだ分かっていません。アミロイドβやタウが脳内に蓄積していても、神経細胞が死んでない人もいます。そこをきちんと理解したい。その時の脳の変化や体の変化を調べることができれば、アルツハイマー病の診断にも治療にもつながると思っています。

参考図書
『実験医学 Vol.37』(羊土社、2019年)
「神経変性疾患の次の突破口~脳内環境の恒常性と異常タンパク質の伝播・排除」という特集の企画を富田泰輔先生が担当しました。
 

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