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消臭剤はどうして悪臭だけを消すの?→中村優希|素朴な疑問vs東大

掲載日:2022年11月1日

素朴な疑問vs東大
「なぜ?」から始まる学術入門

言われてみれば気になる21の質問をリストアップし、その分野に詳しそうなUTokyo教授陣に学問の視点から答えてもらいました。知った気でいるけどいざ聞かれると答えにくい身近な疑問を足がかりに、研究の世界を覗いてみませんか。

Q.12 消臭剤はどうして悪臭だけを消すの?

トイレなどで重宝する芳香剤入り消臭剤。考えてみると、嫌な臭いだけ消していい匂いを消さないのは不思議です。なんで?
A.孔に吸着しない芳香剤を選んでいるから
回答者/中村優希
NAKAMURA Yuki
総合文化研究科 助教

マスキングと化学反応と吸着で悪臭を排除

最もよく知られた多孔質材料、活性炭(activated carbon)。

においを放つ分子が鼻腔にあるセンサーの働きをする細胞にくっつくと、その刺激が脳に伝わってにおいを感じます。いいにおいがする分子が多くくっつけば、嫌なにおいがする分子はあまりくっつかず、嫌なにおいは感じにくい。このマスキングという効果を使っているのが、芳香剤入り消臭剤です。いいにおいの分子でセンサーをマスクするわけです。嫌なにおいのする分子の構造を化学的に変える方法や、嫌なにおいのする分子を物理的に閉じ込める方法もあります。前者では、たとえばアンモニアならアルカリ性なので酸性の薬剤を入れて中和することで、硫化水素などの硫黄化合物なら金属を入れて硫化物にすることで悪臭を消します。後者で用いられるのは、活性炭やゼオライトのように小さな孔が多数空いた多孔質材料。分子を孔の表面に吸着させて出てこられなくするわけです。

市販の消臭剤では、マスキング効果と分子の構造を変えるしくみと分子を吸着するしくみを組み合わせている場合が多いようです。消臭ビーズのように据置型のものは吸着剤を多めに、スプレー型のものだと分子の構造を変える薬剤を多めに配合しているはずですが、内訳は商品の表示欄を見てもわかりません。各メーカーが工夫して編み出した配合は企業秘密でしょうね。

では、消臭剤で嫌なにおいは消えるのに、消臭剤に入った芳香剤のにおいが消えないのはなぜか。硫黄やアンモニアの窒素など悪臭を放つ元素が入った分子は多孔質材料の孔にくっつきやすい一方、リモネンを含むテルペン類など芳香を放つ炭化水素はくっつきにくいんです。いいにおいがする分子で孔に吸着しやすいものもありますが、芳香剤にはそうでないものが選ばれているということです。

メソポーラスシリカの一種の模式図。メソは大きさを、ポーラスは多くの孔を、シリカは二酸化ケイ素を表します。

このような多孔質材料には、物質を吸着するという性質だけではなく、不安定な化合物を孔の中に取り込むことで安定化させるという効果も知られています。私は、その性質をうまく利用して、繊細な構造を持つ酵素を剛直な多孔質材料の孔に閉じ込め、いわば鎧を纏わせる方法で、固体触媒としての酵素の新しい機能を研究しています。強い結合を切って新しい結合を作るには、熱を加えたり強い試薬を使ったりと無理を強いるものが多いのですが、常温下で無理なく反応させられるのが酵素です。植物や菌類などから抽出でき、現行の触媒に使われる貴金属より入手しやすい点も重要です。また、多孔質材料として私が注目するのは、酵素を入れやすいサイズの孔を持つメソポーラスシリカ。将来的には、廃棄されたバイオマスやプラスチックから有機合成に必要な原料を再生したいと思います。

 

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