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どうして利き手と非利き手があるの?→野崎大地|素朴な疑問vs東大

掲載日:2022年11月3日

素朴な疑問vs東大
「なぜ?」から始まる学術入門

言われてみれば気になる21の質問をリストアップし、その分野に詳しそうなUTokyo教授陣に学問の視点から答えてもらいました。知った気でいるけどいざ聞かれると答えにくい身近な疑問を足がかりに、研究の世界を覗いてみませんか。

Q.13 どうして利き手と非利き手があるの?

左利きの人はスポーツで有利だとか器用だとかいわれる一方で社会的に不便なことも多々あります。そもそも利き手があるのはどうして?
A.二つの手をうまく協調させて動かすため
回答者/野崎大地
NOZAKI Daichi
教育学研究科 教授

反対側の手に合わせて動かす能力は非利き手の方が高い

学生時代に漕艇部で活躍した野崎先生は東京大学スポーツ先端科学研究拠点のRowing Science Laboratoryを主宰。ラボにはエルゴメーターやフォースプレートを備えたローイングマシンが。

手に何か重みのある物体を載せているとき、それを他人が取ると、手は一瞬上がります。保持のために下から加えていた力の名残です。一方、反対側の手を使って自分で取ると手の高さは変わりません。軽くなる程度を予測し、瞬時に調整するからです。左手を動かすのは右脳で右手を動かすのは左脳ですが、両手を動かす際は両脳が互いに情報をやりとりします。たとえば両腕でオールを漕ぐ漕艇競技では、右腕と左腕の筋力に差があっても上級者はボートをまっすぐ進めることができます。各々の手がこう出力したらこのぐらい進むと理解し、情報交換を繰り返して協調しているのです。

その協調の仕方を2011年に調べたところ、各々の脳はまず相手の動きを邪魔していました。邪魔の仕方はいつも同じなため、こう邪魔されたらこう返せばいいということを互いの脳が学び、最終的には右腕と左腕が柔軟な協調運動を行えるようになります。2014年の研究では、邪魔をする量が右腕と左腕で違うことがわかりました。右腕は左腕を大きく邪魔します。干渉が多い分、左腕は右腕の情報を多く取り込み、柔軟に対応できるようになります。左腕は右腕に合わせて運動を制御する能力が非常に高いのです。一方、左腕は右腕にあまり干渉しません。右腕は自己中心的に振る舞い、左腕に合わせて運動を調整する能力が低いことがわかったのです。

左利きの比率は、人間では1割程度ですが、チンパンジーやゴリラでは4割程度といわれます。彼らは何かのジェスチャーを示すときに右手を使うことが多い。ジェスチャーは進化論的にいうと言語の元で、言語を司るのは左脳です。ジェスチャーに右手を使うのは、人間になって言語能力が発達したことに関係するかもしれません。人間は言語を発達させたから右利きが多い、とはいえませんが、ジェスチャー制御の副産物として左脳が発達した可能性はあるでしょう。

野崎先生の本
脳と運動のふしぎな関係』(くもん出版、2014年)
体を動かす際に常に学習している脳。運動科学の研究でわかった体を動かす脳の仕組みをやさしく説明する科学読み物。

一般的には利き手のほうが筋力も強く制御能力も高い。しかし、非利き手が劣っていると決めつけてはいけません。利き手に合わせて運動を調整できるという、非利き手が持つ特殊能力のおかげで、両手を協調させて行う複雑な運動が可能になるのです。非利き手がなければ、靴紐を結んだり、楽器を演奏したり、スマートフォンを操ったりする人間ならではの活動も不可能になるでしょう。この観点からすれば、利き手・非利き手という概念が、とても一面的な見方に過ぎないといえるのではないでしょうか。利き手・非利き手はそれぞれ別々の役割を担っているのです。

 

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