GX(Green Transformation)に関係する21の質問にUTokyo教授陣が学問の視点から答えます。他人事にできない質問を足がかりにGXと研究者の世界を覗いてみませんか。
Q.19 余った白菜が建物になるってホント?
廃棄食材から新素材を作った研究者がいるって!?それは本気なの?目指すのは「お野菜の家」!?回答者/酒井雄也
SAKAI Yuya
生産技術研究所 准教授
持続性建設材料工学
コンクリート・リサイクルの研究が出発点
コンクリートは砂や砂利に水とセメントを混ぜて作ります。石灰石を主原料とするセメントが、砂や砂利の隙間を埋めてくっつける接着剤の役割を担います。コンクリートは世界で水の次に使用量が多い物質で、その量は鉄と木材とプラスチックを合わせた総量の倍以上。結果として大量に生じる瓦礫は、砕いて道路の下に埋める以外にはほぼリサイクルできていません。また、セメントの製造では、世界の総排出量の8%を占める大量の二酸化炭素が排出されています。そうした背景をもとに、私たちは6年前からコンクリートのリサイクルに着目してきました。
コンクリートが湿気によって縮んだり膨張したりする仕組みを知ろうといろいろ試すなかで、瓦礫を砕いて粉にしてからプレスしたところ、元のコンクリートと同等以上の強い素材ができました。当初は強度が出ませんでしたが、粉のサイズを調整し、固めた後に高圧水蒸気で処理し、二酸化炭素を吸わせることで、強度が想像以上に増しました。水酸化カルシウムが反応して炭酸カルシウムになり、砂や砂利の隙間が埋まると考えられます。
次に、セメント以外のものを接着剤にできないかと考え、廃木材を粉砕した木粉をコンクリート瓦礫に混ぜ、熱をかけながらプレスしました。木粉と瓦礫の割合を1対1にして作ると、木材中のリグニンが接着剤となり、生分解性も期待できるボタニカル・コンクリートができたんです。その延長で木粉を別のものに置き換える発想が生まれ、お茶っ葉を試したところ、よい香りがする素材ができた。いっそ食べられる素材はどうかと思って着目したのが、野菜や果物の廃棄食材です。籠城時を考えて壁に干瓢を練り込んだ熊本城のイメージもありました。野菜や果物は、収穫から調理への過程で大量の不可食部が発生し、規格外等の理由で捨てられるものも多い。それを利用したいと思ったんです。
コンクリートの4倍の強度を白菜で実現
キャベツやオレンジの皮など約30種の廃棄食材を乾燥・粉砕し、水を加えた上で熱圧縮成形したところ、建材として十分な強度の素材ができました。固いカボチャの皮やゴボウが有力かと思いきや、一番強いのは白菜で、通常のコンクリートの4倍もの曲げ強度(18 MPa)がありました。同じ食材でも、粉粒の大きさや温度の違いや乾燥のさせ方によっても強度が変わります。糖分と食物繊維の組み合わせ具合が関係するようです。野菜や果物に含まれる糖分(グルコース)が熱で軟らかくなり、隙間に入ってくっつく。糖分だけ、食物繊維だけよりも、両者を混ぜたほうが強くなり、糖分と繊維の相互作用が強い素材を生みますが、糖分が高いほど強いわけではありません。白菜はこのバランスが絶妙なのでしょう。
廃棄食材素材の特長は、香りがすること、色がつくこと、食べられること。愛媛みかんの皮で作ったコースター、コスタリカ・コーヒーのかすで作った皿など、地域の特産品を使ったグッズ製作は有望な用途になります。廃棄食材にプラスチックを加えた素材は従来もありましたが、100%廃棄食材は初だと思います。フリーズドライ食品のようなものなので耐水性が課題ですが、このテーマを卒業研究にした学生が創業したベンチャー企業では、ウレタン塗装で耐水性を高めた商品を提供しています。
被災地の瓦礫、砂漠や月面の砂も建材に
私たちが開発したリサイクル・コンクリートは、基本的には粉砕機とプレス機があれば作れます。トラックにその二つを積んでいけば、被災地で出た瓦礫を建材に転換できます。2~3年ほど雨曝しにして耐久性を調べていますが、今のところ大きな変化はありません。これなら山を削ってセメント原料を採掘しなくてすむ。リサイクル・コンクリートの製造では、CO2排出量が通常の方法に比べて3分の1程度になります。民間企業との共同研究で、まずはコンクリート・ブロックを開発中です。
昨今、ちょうどいい砂や砂利が不足しています。砂漠の砂は細かすぎてコンクリートには使いにくいんです。私たちは、砂にエタノールと金属アルカリの触媒を混ぜて加熱し、ひと晩置いて固まりにするという技術も開発しました。砂の表面が溶け、化学結合が切られて元に戻るという工程を繰り返すとくっつくという仕組みで、使い道がなかった砂漠の砂でコンクリート・ブロックを作ることができます。110度程度の加熱処理と水酸化カリウムなどの安価な触媒によってコンクリート並みの強度を実現し、企業との共同研究で実用化を目指しています。将来は、月の砂を現地で調達して固め、月面基地の建材とすることもできるかもしれません。
廃棄食材を再生させるベンチャー
2020年6月に酒井先生から卒論テーマの一つとして提示されたのが、廃棄食材で作る素材の研究でした。コストコで野菜と果物を大量に買い込み、実験を重ねて、翌年2月には卒論を提出。いつか社会実装できたらなとは思っていましたが、卒業後に小学校時代の友人2人と話してみて決心し、2021年10月に3人で起業しました。
- 様々なモノの基礎となる部品をイメージしたロゴ
https://fabulajp.com
展示会の販促用にキーホルダーやマグネットなどのノベルティグッズとして注文いただくことが多いです。新しく漆器メーカーとのコラボを進めているほか、大阪万博2025では廃棄食材を建材として用いる技術を会場内のギャラリーを担当する建築家に提供する予定です。
要らないものとして処理されたゴミを生まれ変わらせる価値に気づいてもらいたいのはもちろんですが、純粋にいいモノと評価される商品を作らないといけないとも感じています。