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温暖化が進むと日本の梅雨はどうなるの? →横山千恵 GX入門/身近な疑問vs東大

掲載日:2023年7月25日

身近な疑問vs東大
GX(Green Transformation)に関係する21の質問にUTokyo教授陣が学問の視点から答えます。他人事にできない質問を足がかりにGXと研究者の世界を覗いてみませんか。

Q.20 温暖化が進むと日本の梅雨はどうなるの?

日本人の季節感覚に刻まれた梅雨。しとしと長く続く印象だけど近年はどうも様子が変わってきてる?
災害につながる豪雨が各地で増えそう

回答者/横山千恵
YOKOYAMA Chie

大気海洋研究所 特任助教
気象学

横山千恵

梅雨時の雨には三つの型がある

小面積タイプの雨域、組織化タイプの雨域
全球降水観測(GPM)衛星の二周波降水レーダーによって観測された日本の5~7月の雨域例。右の組織化タイプは大きな被害を引き起こした2018年西日本豪雨のものです。

梅雨は日本に限らず東アジアにおいて5~7月に広く見られる現象です。太陽高度が上がって地表が温まり、地上の気圧が海上より低くなると、海から大陸に向かう季節風が生じ、南から暖かく湿った空気が運ばれます。大陸南部からもチベット高気圧に覆われた暖かく湿った空気が運ばれます。大気のもっと上層ではジェット気流が西から東に吹いており、その南北で大気は熱帯的な状態と温帯的な状態に分かれています。そうした条件で生じるのが梅雨前線です。前線とは温度や湿度など違う性質の大気の固まりがぶつかり拮抗するところ。湿った空気が入ると状態が不安定になって鉛直方向のかきまぜが起こり、雨の日が続きます。夏が近づくと太平洋高気圧が勢力を増し、ジェット気流が北上して、梅雨前線の条件が崩れます。

梅雨時の雨にはいくつか降り方があります。私は、GPMやTRMMという衛星の観測データを使って梅雨時の雨の3次元構造を分析しました。衛星から電波を発射し、戻ってくるエコーと時間差から、雨の鉛直分布がわかります。同じように見える大雨でも、高い位置から狭い範囲で降るものと、それほど高くない位置から広い範囲で降るものがあることがわかります。

13年間の衛星データから、梅雨時の雨の降り方を、小面積タイプ、組織化タイプ、中緯度タイプの三つに分類しました。小面積タイプは、雨が短時間で止み、雷を伴います。海面水温の高い領域で多い傾向があります。組織化タイプは、雨が大規模に広く長時間で降り、あまり雷を伴いません。集中豪雨に多い形です。この二つは熱帯に多いものですが、中緯度タイプでは温帯低気圧に伴って比較的弱めの雨が降ります。下層の暖かく湿った空気と上層のジェット気流、そして三つのタイプの別が、梅雨時の雨の降り方に影響していました。

「組織化タイプ」の雨が北へ広がる

小面積タイプの雨の将来変化、組織化タイプの雨の将来変化
黒点は9割以上の気候モデルで変化傾向が一致する箇所、黒実線は現在(1980-2005年平均)の雨量分布を示します。将来(2075-2100年平均)の気候は、現在以上の緩和策を取らない場合を想定したRCP8.5というIPCCシナリオに基づきます。

次に、25の気候モデルを選び、各モデルの予測データと過去の実験データを用いて、三つのタイプの雨の将来変化を日本周辺の各地で推定しました。雨の状況と大気の状態がどんな関係にあるのか、その関係は将来どうなるのか。衛星で捉えたデータを現実と関係づけたうえで環境がどう変わるかを気候モデルで予測するという、従来はあまりなかった手法です。

温暖化が最も進行すると想定したシナリオに基づき、100年後の梅雨時の雨の降り方を予測した結果、多くの地域で組織化タイプの雨が増えることが示されました。現在は西日本に多いタイプですが、100年後には東北や関東まで広がりそうです。組織化タイプの増加は豪雨災害の可能性が高まることを示すので注意が必要です。小面積タイプも全般に増えますが、特に九州から関東の太平洋側で顕著な増加が推定されます。このタイプの増加は突然の激しい雷雨が増える可能性を示唆します。これらの傾向は、25の気候モデルの9割以上で一致しました。

梅雨はアジア特有ですが、梅雨前線に似たものは南米などにも見られます。今後は、そうしたエリアでも同じような結果が出るのか、相違点を調べてみたいと思います。

※所属や職名は2023年3月時点のものです。

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