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GXと東大生 - 環境系学生サークル座談会

掲載日:2023年8月8日

撮影:貝塚純一

GXと東大生 GXと東大生

環境系学生サークル
座談会

東大のGXに関わっているのは
もちろん教職員だけではありません。
以前から多くの学生有志が
様々な活動を展開してきました。
ここでは、環境問題に取り組む
三つの学生団体のメンバーに集まってもらい、
これまでどんな活動をしてきたのか、
どんなことを感じているのか、
抱えている課題は何なのかなどについて
語ってもらいました。
司会役は、自身も学生時代に環境系団体で
活動していたという杉山昌広先生です。

  • 杉山昌広
    杉山昌広
    未来ビジョン研究センター 准教授
    (専門:長期気候政策)
    未来社会協創推進本部
    GX推進分科会学生GX
    イニシアティブ メンター
  • 伊藤千尋さん
    伊藤千尋さん
    環境三四郎/理科二類2年
    環境三四郎
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  • 中村明日香さん
    中村明日香さん
    TSCP学生委員会/文科二類2年
    TSCP
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  • ハン リアさん
    ハン リアさん
    UTokyo Sustainable Network/総合文化研究科修士課程2年
    UTSN
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池のアメリカザリガニは900匹!

杉山まず順に各団体の紹介をお願いします。

伊藤環境三四郎は1993年発足です。1992年の地球サミットがきっかけだったそうです。モットーは「学習と行動」「批判ではなく提案」「交流そして成長」。卒業生も現役と捉えるのでメンバーの総数は451人ですが、活動の軸は1・2年生の12人ほどです。昔は、「環境の世紀」※1という講義を支援したり、駒場池をビオトープ化したり、駒場祭委員会と連携してゴミ収集を行った時期もありました。※1 1994年~2012年に環境三四郎がサポートしていた教養学部の授業です。

杉山私は学生時代に駒場祭委員会と三四郎で駒場祭のゴミ問題に関わりました。当時は分別が定着していなかったんです。

伊藤現在の主な活動は学びプロジェクトと池プロジェクトです。前者は目黒区の二つの小学校で環境に関する出前授業※2。年に3回ずつ、ビオトープも使って環境教育を行っています。後者は駒場池の調査をしたり池の活用方法を考える取り組みです。昨年アメリカザリガニの個体数調査をしたら、900匹ほどいました。

中村そんなに!どうやって数えるんですか?

伊藤罠をかけ、捕獲したザリガニたちの尾に印をつけて放します。数日後、同じやり方と時間で再捕獲を行い、印の有無の割合から全体の個体数を推定します※3。標識再捕獲法という方法です。昨年6月には「ゴミ拾い甲子園」に出場しました。河川敷に様々な大学の学生が集まり、拾ったゴミの数を競うものです。成績は振るいませんでしたが、楽しかったです。

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※2 2021年度の出前授業。
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※3 標識再捕獲法に挑む三四郎のメンバー。

中村TSCP学生委員会は2015年発足です。TSCPは東大サステナブルキャンパスプロジェクトの略。2008年に大学の組織としてTSCP室が設置された後、推進には学生の力が欠かせないということで生まれました。現在メンバーは20人ほど。活動の三本柱は、省エネ推進、サステナビリティ意識の啓発、学び考える場の提供です。省エネ推進では、構内のエネルギー消費量を分析し、施策を提案しています。建物別の環境性能を評価する取り組みや、「SHUT the SASH」※4プロジェクトもあります。実験室のドラフトチャンバーの扉を開けたままだと無駄な電力を費やすので、不使用時は閉めようとの呼びかけです。意識啓発では、「東大生のSDGs意識調査」※5を2017年から行い、毎回報告書を公表しています。場の提供は、ワークショップやキャンパスツアーを企画・運営する活動です。発信にも力を入れ、毎年12月に「エコプロ」という環境系の一大展示会に出展しています。1月にはサウジアラビアの大学のオンラインイベントに参加して活動を紹介しました。

伊藤トイレの蓋を閉めようと促すステッカー※6を学内で見かけますが、あれもTSCPですよね。入試の際に見かけて、いい大学だなあと思ったんです。

中村小さなことも好感度につながるんですね!

丸皿

※4 プロジェクトのステッカー。

お猪口

※5 「東大生のSDGs意識調査2022」の結果速報ポスター。

スツール

※6 構内のトイレにて。

講義を発端にネットワークが誕生

リアUTokyo Sustainable Network(UTSN)は、GLP-GEfiLというグローバルリーダー育成プログラムの講義が発端でした。2020年に行われたダイバーシティ関連講義の討論で、気候変動は全ての学生が取り組めるテーマだという話になりました。そこで気づいたのが環境系団体間の交流がないことで、大きな傘のような枠組みがあればいいのにと思いました。その後、Climate Action UTというサークルが、4つの環境系学生団体同士のネットワーキングのための話し合いの場を設け、それが元になって「ネットワーク」という名前を持つ組織に発展しました。現在、 約100人の学生がSlackでつながっていて、積極的に関わっているのは約40人。ワーキンググループには全体の運営を支援する部隊があり、毎月ミーティングを開催したり、春は環境系団体の合同新歓を実施したりもしています。各々のチームが独立して活動するプロジェクトの第一弾は、GLP-GEfiLで案が出たウォーターサーバー設置の取り組みでした。同時期にTSCPからも同様の案が出たので、企画書にまとめて大学側に交渉し、総長に提案する機会も得ました。そこから時間がかかりましたが、実現に動き出しています。

杉山代替わりしてもよくあきらめずに提案し続けましたね。

リアほかにも、Race to Zeroに向けたロードマップ作り、生物多様性回復を目指す提案、プラントベース食品の生協食堂への導入といったプロジェクトが動いています。「駒畑」※7というコミュニティガーデンの試みもあります。構内の古い温室と周りの小さな菜園で野菜を育てて収穫しながら交流する活動です。

杉山以前から複数の団体に参加する人も結構いたところにUTSNができて連携が強まった感じでしょうか。

中村UTSNのおかげで他団体に声をかけやすくなりましたね。プラットフォームとして重宝しています。

杉山活動していて悩ましいことはありますか。

伊藤メンバーをもっと増やしたいですね。数が少なくてなかなか手が回らないんです。

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※7 北門近くにある「駒畑」では…
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ニンニクが育っていました。

環境への興味は隠した方が無難?

杉山環境系の活動に参加する学生が少ないとはよく聞きますね。TSCP学生委員会の2022年の調査別ウィンドウで開くでも参加率は2.7%と低調でした。これだけ社会で環境が注目されているのだからもっと増えてもいいと思うのですが。

中村興味はあると答えた学生は過半数いて、オンキャンパスジョブならやりたいという人も多くいました。何かインセンティブが必要なようです。

杉山だいぶ前ですが、私がMITに留学した頃、エネルギー関連の学生団体は大きなものでした。いまなら環境はもっとビジネスになるし就職活動でもプラスに働くはず。

伊藤環境問題への関心を発信するのが怖い面もあると思います。環境問題では人間が地球を傷つけてきたという前提があり、解決には現在の暮らしを変えないといけないので、暮らしが脅かされると思う人も出てきてしまう。私は個人的に家のゴミをゼロにする試みをしています。三四郎ではその話をするけど、もう一つ所属している部活ではあまりしないんです。

杉山なるほど……。このまえリアさんはカナダで行われたCBD(国際生物多様性条約)のCOP15に参加しましたね。どうでしたか。

リアオックスフォード大学の学生と交流したんですが、あちらの環境系団体にはスタッフ的にも資金的にも大学から強い支援があると感じました。東大では環境系の活動がまだ個人の興味に属する感がありますが、向こうでは大学のコアなミッションと位置付けられ、リソースも十分投入されているようでした。

杉山東大もそうなることが望ましいですね。では、卒業生をはじめとする読者に伝えたいことはありますか。

中村初めてGXと聞いたときは理系っぽいと感じたんですが、実際はどんな分野にも関わるものですよね。すごく大きな問題という印象がありますが、個人の手に負えないことではなく、むしろ個々人に関わるからこそ大規模なのだと思います。自分の行動で何かが変わるかもしれないと思って活動していきます。応援いただければうれしいです。

伊藤駒場祭に来て私たちの展示に触れてください。あと、部屋の電気を消すだけでもいいので、何かGXに関連してできることがあったら始めてみてほしいです。

リアお金の問題はやはり大きいと思います。UTSNでは持続可能性基金やグリーンボンドの設立も目標に掲げています。卒業生の皆さんにもご支援をお願いしたいです。

杉山今日はありがとうございました。皆さんの声を大学につないでいきたいと思います。

取材協力:ルヴェソンヴェール駒場別ウィンドウで開く

※所属や学年は2023年3月時点のものです。

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